

草木染の輪を広げる
木々に囲まれた川崎市郊外の工房は、かつて「草木寺(くさきでら)」といい、祖父・斌(あきら)さんが建設し晩年を送った住居兼活動拠点であった。
そもそも「草木染」とは斌さんの命名による。昭和初期、天然染料による染色の復興運動として始められた草木染は、2代目の青樹さん、3代目の和樹さんへと継承された。
山崎さんの立ち位置は、草木染の「普及」にある。創作や研究をも惜しまぬなか、軸足を工房での講習に置く。
草木染の世界は玄妙である。同じ条件で同じように染めても厳密に同じ色が再現できるとは限らない。それは、人間の思惑や作為のおよばない自然の不可思議さに照応する。
草木染をすることは、自然と交感すること。その過程を楽しんでいただきたいと氏はいう。

一塊の森のような工房は、植物を育て、草木染を教習する、心地よい小宇宙に見える。けれども山崎さんはその胎内にとどまっていない。
12年前、フランスで開催された染色の国際会議に出席したのを皮切りに、以後数年おきに韓国、アメリカ、インドでの国際会議に参加。草木染の研究発表や作品展示も試みた。2年前には知己の作家とミラノで二人展を開いた。
天然染色は世界中に遍在する。関心を寄せる人が多いことを知り、交わりも広がった。シルクロード、地中海、アフリカ…。世界の「草木染」を知りたいという思いがふくらむ。

「サイズ」で生きる
ひわもえぎ、わかなえいろ、うらはやなぎ―。
なんと細やかな表現であることか。日本人の色彩感覚の豊かさ、日本の自然の多様さが見え隠れする。
群馬の里山に育った少年は、日本の四季や風土を抽出する草木染の道を選んだ。伝統や地域性を追求することが、地球環境などの今日的な課題や国境を越えた交流につながることを体現した。
「でも『サイズ』という考え方も大事。身の丈に合ったことをやっていきます」
気負いのない悠揚迫らぬ姿勢は、草木のしなやかさとゆらぎあう。

【プロフィール】
やまざき・かずき 1957年高崎市生まれ。1982年明治大農学部修士課程修了。父・山崎青樹氏(県重要無形文化財指定者)のもとで草木染を研究。1985年草木染の研究と普及のため川崎市麻生区に「草木染研究所柿生工房」を設立し講習を開催。1995年フランスでの国際インディゴ・ウオード会議出席。以後、各国で開催される天然染色会議等に出席。2002年信州大工学系研究科博士後期課程修了(学術博士)。著書『草木染 四季の自然を染める』他。