あがつま農業協同組合理事長などを経て、2005年6月、JA群馬中央会・各連合会会長に就任。県の農業と地域の振興、組合員の信頼向上を図り、JAグループ群馬の一層の発展に努める。東吾妻町出身。
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シリーズ<2> 2006年8月16日掲載
食の安全・安心は、自給率のアップから。
JA群馬中央会・各連合会会長 奥木 功男 さん
JAビル上階の上毛三山が見渡せる執務室で、インタビューに答えてくださった奥木会長。その後東吾妻町の自宅へ行き、「うまい米ができる」とご自慢の田んぼと、ブドウ園を案内していただきました。
 ■「みどりの自転車」にあこがれて■
農家のご出身ですが、どのような環境でしたか?
(奥木) 祖父の代は、蚕種製造が家業でした。桑園もあったし、田んぼもありました。父は、職業軍人でしたから、母が家を守り、人を頼んで農業をしておりました。
 私は長男でしたが、農業指導の仕事がしたくてですね。あのころは、「みどりの自転車」といって、日本中の農業改良普及員がみどりの自転車に乗って走り回っていました。それにあこがれて、自分も農業改良普及員の資格を取り、農協で指導の仕事を始めたわけです。農業普及員が足りなくて、あちこちから誘われましたが、農業をやりながら地元の農協で仕事をしてきました。その延長線上に今の私があります。
子供時代の食生活はどんなものでしたか?
(奥木) 戦時中でしたから、学校に弁当を持っていくとその農家の食生活が全部分かるんですね。ほとんどが、米に麦かアワを混ぜて炊くとか、サツマイモを入れて炊くというものでしたね。それはそれでおいしくて、まあ、今は懐かしい思い出です。ご飯にみそ漬けだけを入れた弁当も多くて、みそをなめながら味わうのがうまかった気がしますね。そんな食生活で健康だったんだから、最近は食が過剰気味だなあと思いますね。
 ■自家産の米と野菜が一番うまい!■
今、どんな食事を「おいしい!」と思いますか?
(奥木) 最近は、外食が多くなってしまいましたが、自分の家で食べる自分で作った米が一番おいしいですね。私は、日本中、歩いていますが、自分の家で作った米以上にうまい米を食べたことがありません。食べる直前につくのもいいんでしょうね。13度ぐらいの冷蔵庫に玄米を保存しておいて、食べる直前に、10日分なら10日分だけ精米する。これが、最高のぜいたくですね。私の家は(東吾妻町)新巻の御園という場所ですが、親せきの者は「御園に来れば米がうまいから、おかずはいらない」と言うんです。一昨年には、皇室の新嘗祭(にいなめさい)に献上させていただきました。
 それから、野菜も新鮮ですからうまいですね。例えば、キュウリは切って、すりおろしたショウガをかけて食べる。ナスは焼きナスが好きです。周りを焼いたら、熱いうちに皮をむいて・・・。焦げた香りがプーンとくるんですね。それがいい。厚いステーキと一緒で、ジューシーな部分が全部中に入っていますから、切って焼いてしまったらダメです。ショウガじゃなくて、かつお節をかけるのがいいですね。ショウガだとナスのいい味が台無しになってしまいます。
料理に詳しいようですが、ほかに何かお薦めの食べ方は?
(奥木) 肉は、焼くのがうまいですね。ニンニクとリンゴをすってしょうゆに入れると、かなり味が良くなります。それを焼肉のタレに使う。また、しょうゆに細かく切ったトウガラシと麹(こうじ)を入れたタレもいい。発酵してくると、これがさっぱりしてうまいんですよ。私の友達が始めたんですけど、なかなかない味です。少し漬け込んでおくとさらにいい。やってみてください。
食生活で気を付けていることは?
(奥木) 私は三食うまくて、酒が好きだから(笑)。最近、メタボリックという内臓脂肪症が問題になっていて、その対策として石原結実さんの本がベストセラーになっていますが、私も、ニンジン400グラムとリンゴ1個で「ニンジンジュース」を作って、それを昼ご飯にしています。「ショウガ紅茶」も飲んでいます。1年近くやり、体重が5キロ減りました。体が締まってきた感じですね。調子もいいし、今のところ、これが私には一番効いているんじゃないですかね。
 基本的には、自家産のうまい米と野菜を食べ、地元で作られた日本酒やワインを飲む。これが最高ですね。
 ■国際社会の問題「食料と燃料」■
「食と農」は切り離すことができませんが、奥木会長はどのようにお考えですか?
(奥木)

「食と農」を考える前提として、これからの国際社会の問題を突き詰めて考えていくと、「食料と燃料」に絞られると思うんですよ。最近では、ロシアのウクライナに対する天然ガスの供給が政治的圧力に利用されました。北朝鮮の食料問題もあります。「食料と燃料」は、国の安全保障にかかわる重要な問題だと思っています。
 主要先進国9カ国の食料自給率をみると、最高はフランスの130%、米国119%。平均は81%。それに対して日本は40%という、先進国では異常な低さです。もし何かあると、大変なことになります。2030年には世界人口の45%が深刻な食料不足に悩まされる危険が生じると言われていますが、国民の間にはそういう認識が足りないと思います。
 もう1つ、食料が燃料に代わってきています。米国ではトウモロコシなどがエタノールの生産に使われるし、南米ではサトウキビが燃料に使われている。燃料の代わりに使われると、余計に食料が足りなくなる。最近では、そうした危機がいろいろな雑誌にも出ており、今、一番考えなければならない問題だと思います。
 これらを踏まえた上で「食と農」があるわけで、国の安全保障にも大きくかかわる重要な問題だと思います。

JAとしてどのような取り組みを行っていますか?
(奥木) 全国のJAグループの共通した考え方として、「JA食農教育展開方針」を打ち出しています。
(1)文化の継承と地域に根ざした健全な食生活の実現
(2)地場産を中心とする国産農産物の消費拡大と食料自給率の向上
(3)地域農業の振興と地域の活性化−の3項目です。
 その中で具体的に行う「JA食農教育プラン」として、(1)農業体験・農教育(2)地場産学校給食(3)生活文化・食教育(4)地産地消(5)交流−の5つを掲げています。
 「農業体験・農教育」という点では、私は中之条高校の同窓会長であり、「高校でも農業体験させよう」と、昨年は1年生全員が田植え体験を行いました。また、「交流」では、「農の三大祭典」と、私が名前を付けたんですが、春先になると、「JAぐんま農の祭典」をここ(JAビル駐車場=前橋市亀里町)で行います。秋になると「収穫感謝祭」を県庁で行い、「酪農畜産フェスティバル」を県畜産試験場で行います。この3つの祭りが生産者と消費者の交流では、一番大きいと思いますね。
 ■群馬の農業は全国トップクラス■
「食育」について、JAはどのようなことを行っていますか?
(奥木) JAの仕事自体が全部、食育だといえます。昨年、「食育基本法」という法律ができ、1年が経過しました。今、全国の6割以上の小中学校で農業体験学習が実施されています。そういう面に対して、JAグループとして協力しています。ほかにも農業生産から加工販売に至るまで、営農生活事業すべてが食育に関連していると思います。
地産池消の推進にはついてはいかがですか?
(奥木) 間に合わないものは仕方ないですが、できれば、地域で生産した新鮮で安全・安心なものを地域の小中学校などで使ってもらいたい。群馬県の農業生産額は2200億円で、そのうち野菜と畜産が8割を占めています。コンニャクとキュウリは全国1位ですし、5位までに入っている農畜産物が25品目もあり、全国でトップクラスです。標高10メートルから1400メートルの耕地で多様な農業が展開され、できないものはほぼないですね。
「安全・安心」で今、一番力を入れていることは?
(奥木) そもそも、「安全・安心」でなければ農業生産したものは売れないんですね。群馬では全国でも早い段階から全JAで、農産物の販売農家に対して県下統一の生産履歴を記帳するシステムを導入しています。そのほか、ポジティブリスト制やドリフトなどの対応は、行政と一体となって資料の配布や現場研修会などの対策を講じています。損害補償に対する新しい保険までできています。できる限りの安心・安全に対する対策は行っているので、それを徹底することが大事だと思います。
 また、畜産については、玉村町にあるJAグループの県食肉卸売市場が、全国に4カ所しかない対米輸出の認定工場で安全安心な畜産物を生産しています。
 ■定年帰農者による新たな産業■
集落営農の確立を急いでいますが、現況は?
(奥木) 農業政策の転換により、担い手対策が当面の大きな課題です。日本では家族経営の農業が多いですが、一定の要件を満たさないと麦作補助制度の対象にならないんですね。担い手の一定の要件は、個人の場合は「認定農業者」であることです。団体の場合は、できれば法人がよく、今「集落営農組織」を作っているところです。現在、県下で79組織が設立され、今後、設立を進めていく組織を含めますと、99組織となります。最終的には、そうした担い手で麦作付面積の9割ぐらいカバーできるんじゃないでしょうか。
近年、定年帰農者が増えていますが、それについてどうお考えですか?
(奥木) 定年になって農業をするのは、1つの“ぜいたく”でしょうね。私の地元では、定年帰農者による1つの新しい産業が起きたんですよ。夏秋ナスの生産なんですが、今では産地指定になっているんです。役場や農協などを退職した150人ぐらいの定年帰農者が1人100万円ぐらい、全体では1億5千万円ぐらいの売り上げを出しています。生きがいになるし、健康にいいし、家計のプラスにもなり、ゆとりが生まれます。
 もう1つ、六合村には、花の組織があります。100人ぐらいで1億7〜8千万円ぐらいの売り上げです。ほとんどが定年帰農者。これら2つの例だけでも、3億円以上の売り上げになる。こうなってくると、定年帰農も一つの販売組織として、JAがタッチしていく必要があるんじゃないかと思いますね。
最後に、生産者側として、消費者に伝えたいメッセージは?
(奥木) これからの農業生産を考えるとき、「国の存亡にかかわる」という意識を、生産者と消費者が共通して持つことが大事だと思います。本当に安全・安心な食の提供は国内でしかできません。BSE(牛海綿状脳症)や中国の輸入野菜の問題があったように、安くて量が多いだけでは成り立たない時代です。「食と農」は、国の食料自給があって成り立つものだと思います。生産者と消費者が一体となって食料自給率の向上に努めることが、今、日本では一番必要だと感じています。
ありがとうございました。

(聞き手 上毛新聞社広告局次長兼編集部長 吉島一江)