おくぎ・いさお
あがつま農業協同組合理事長などを経て、2005年6月、JA群馬中央会・各連合会会長に就任。県の農業と地域の振興、組合員の信頼向上を図り、JAグループ群馬の一層の発展に努める。'07年7月より鞄兼本くみあい飼料代表取締役会長。東吾妻町出身。
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シリーズ<11> 2007年9月26日掲載
お金で買える時代は終わろうとしています。
JA群馬中央会・各連合会会長 奥木 功男 さん
 JAグループ群馬のトップとして、常にグローバルな観点から群馬の農業と食の将来を見据える日々。連日ぎっしり詰まっているスケジュールの合間をぬって、昨年に続き、「みのりくらぶ」のインタビューにお答えいただきました。
 ■自家産コシヒカリと新鮮野菜■
会長のお宅では、米や野菜を作っていらっしゃるそうですね。ちなみに今朝の朝食は、どんなものを召し上がりましたか?
(奥木) ご飯、味噌汁、焼き魚や納豆、漬物といった定番の朝食です。これはずっと変わらないですね。米は自家産のコシヒカリで、冷蔵庫に貯蔵した玄米を、炊く直前に精米しますからうまいですよ! 東京の一流のお店で食べるよりも、はるかにうまいですね(笑)。
今の時代、とてもぜいたくな食事ですね。一番おいしく感じている食べ物は、何でしょうか?昨年は、焼きナスのおいしい食べ方(かつおぶしとちょっといいお醤油でいただく)を教えていただきましたが。
(奥木) やはり、うちで採れる新鮮な野菜が一番うまいですね。今の季節なら、ナスにトマト、キュウリ、カボチャ、インゲン…夏野菜は全部作っています。 焼きナスは、だいぶファンが増えたみたいですよ(笑)。ご飯のおかずにもなるし、酒の肴にもなります。
 ■日本初カナダに牛肉輸出■
最近、群馬県から日本で初めてカナダに牛肉を輸出されたそうですが、「攻めの農業」ということでしょうか?
(奥木) そうですね、8月8日に出発式を行いました。「上州和牛」のロースとヒレ約176キロで、高級レストランで使われます。群馬県食肉卸売市場では、対アメリカ輸出に続き2国目で、今後も継続的に出していく予定です。
その前には、米を中国に輸出しています。6月29日に記念式を行い、新潟のコシヒカリと宮城のひとめぼれを北京と上海のデパートで贈答用として販売しました。牛肉などの輸出がどれだけ影響するのかわかりませんが、今の段階では、「始まった」ということですね。日本の農産物のおいしさを感じてもらえればと思います。
今、「食育」が盛んに言われていますが、JAグループ群馬としてどのような取り組みをされていますか?
(奥木)

農業団体として食農教育は不可欠です。県内23のJAでは、「食農教育プラン」を策定し事業展開しています。中央会としても、「ちびっこ農学博士」の事業や「アイ・ラブ・ライス ファミリーキャンプ」などを通じて食の重要性をアピールしています。また、来年6月には、「食育推進全国大会」が群馬県で開催されるため、県と一体となって進めていきたいと考えています。

食育ではお母さんたちの教育も大事だといわれていますね。きちんとした食事を作れない親が増えている中で、取り組んでいることはありますか?
(奥木)

JAは女性組織を持っており、その重点項目として取り組んでいます。お母さんを集めて調理の講習会を開いていますし、また、地産地消に関しては、学校給食にもっと使ってもらいたい思いがあります。

 ■暑さに弱い畜産■
今年は、梅雨が長く、その後は大変な猛暑となりましたが、県内の農作物の生育状況はいかがでしょうか?
(奥木) 梅雨というより、春先の長雨の影響で小麦がかなり減収しました。野菜は、群馬県は標高10メートルから1400メートルまであり、いろいろな品目を作っていますから、こちらがよくなければ、あちらがいいと、一概には言えないですね。今年は、嬬恋のキャベツがよかったと聞いています。
猛暑では、乳牛に影響が出ていると聞いていますが。
(奥木) 県外では、乳牛が死んでしまったというニュースもありました。牛や豚などは、寒さは大丈夫ですが暑さに弱い。群馬県の酪農や養豚地帯はだんだん山に登っており、私の地元の吾妻でも畜産基地があり養鶏や養豚が多くなっています。平坦地帯は野菜や小麦、中山間地帯は畜産と住み分けが出てくるかもしれませんね。
 ■食料とエネルギーの争奪戦■
地球温暖化が深刻な問題となっていますが、農業にはどのような影響がありますか?
(奥木) 最近、大きな災害が続けて起きていますね。小麦の産地であるオーストラリアは、大干ばつに見舞われるなど、農作物も相当な被害が起きています。もう想定できない状態です。
そうした中、先般、日本の食料自給率が、40%から1%下がり39%になったという発表がありました。
(奥木) これが今一番の問題です。食料自給率が単に1%下がったわけではないんですね。近年では、1993(平成5)年に大冷害で米が不作でした。その前は、40年前の1953(昭和28)年で、冷害にあった山間地で酪農に取り組んだのが群馬の酪農の始まりとなりました。
1993年は前年の43%から37%まで落ちましたが、翌1994年には元に戻りました。けれども、今年の1%減は構造的な問題で、さらに下がるかもしれないという非常に深刻な事態です。
国の食料安全保障にも関係する今一番の問題だと思います。そこへ持ってきて、最近では「バイオ燃料」を作る動きが始まっています。
今、「バイオ燃料」というお言葉が出ましたが、みのりくらぶの読者に簡単に説明していただけますか。
(奥木) 簡単にいいますと、トウモロコシやサトウキビなどを発酵させてエタノールを作り、自動車などの燃料に使おうというものです。日本では3%、アメリカでは20%をガソリンに混ぜようとしています。アメリカの農政は、農産物を作って輸出していますが、トウモロコシを燃料に変えますから、輸出するトウモロコシが足りなくなり、値段が上がっています。
私は、昨年の秋に「全農視察団」の団長としてアメリカの農業事情を見てきました。アメリカでは、国の政策としてトウモロコシから燃料用のバイオエタノールを作ることに力を入れていますが、農家が出資して作るエタノール工場の建設が急激に進んでいました。トウモロコシの価格は既にそのときの2倍に跳ね上がっています。本県は畜産が盛んですが、飼料の50%はトウモロコシで、そのほとんどをアメリカに依存しています。飼料が上がった分だけ、肉や卵、牛乳の価格が上がればいいが、価格はストップ状態。畜産農家にとって非常に危機的な状況です。
今まで買ってくれるのはお客さんだったのが、売り手市場になったわけです。自分の国の政策に同調したり、あるいは有利にならないと売らない。端的にいえば、お金があれば買える時代ではなくなりつつあるということです。飼料であるトウモロコシが入ってこないため、畜産をやめる人も出てくる状態です。食料とエネルギーの争奪戦が始まっていると考えていいと思いますね。
その一方で、WTO(世界貿易機関)やオーストラリアとのEPA(経済連携協定)など、貿易交渉が活発に行われています。もし、関税が撤廃されると、群馬県だけでも353億円、日本全体では3兆円の打撃を受けると言われています。一般の国民の方たちに、それだけの危機意識がないことも問題です。
 ■水田利用で食料、飼料の確保を■
バイオ燃料により、飼料不足、食料不足を引き起こしてしまうという問題点について伺いましたが、廃棄物系を利用するということもあるのでしょうか。例えば、家畜のふんや廃材などはいかがですか?
(奥木) 今の段階では、いずれもまだコストの面で難しいと思います。今、注目しているのは、稲わらです。本田技研が稲わらでエタノールを作ろうと努力していますし、また、最近の新聞報道では、三井造船が雑草からエタノールを作る研究を重ねているそうです。これらが、実用化されれば国の食料安全保障面でも明るい兆しが見えてくるのではないでしょうか。
私は、食料や飼料を確保するため、水田の活用が考えられると思います。日本の気候風土なら、やる気さえあれば何毛作もできるはず。北海道や新潟などでは、米でバイオ燃料を作ろうと取り組んでいますし、群馬県でも今年から試験的に多収穫米を作り始めています。米はトウモロコシに代わり畜産の飼料にもなります。耕作放棄地で菜種を栽培するのもいいと思います。
ただ、農業の担い手が、どんどん不足してるわけですよね・・・。
(奥木) はい、それを踏まえて組織も作らないとならないですね。私の地元のJAあがつまでは、建設会社の人々が組織を作って請け負ってくれています。彼らは重機を扱っていますからトラクターなどの使い方もうまいです。利根沼田でも始めています。これも一つのやり方ですし、今できる最善の努力をしていくことが大事だと思います。
日本の国益は、工業製品を作って輸出し、その代わりに農産物を輸入することで維持されてきましたが、無理な政策になってきたように感じます。最近は、消費者の中でも「安心安全なものは国産品」と、考えが変わってきています。いずれにしても、今の大きい問題は食料と燃料に絞られてきていると思います。最近、その辺りのデータを集めていますが、ファイルが既に4冊になりました。
 ■安心安全で安定的に■
みのりくらぶの読者に今、一番伝えたいことはどんなことでしょうか。
(奥木) 食料は非常に大切なもので、お金さえ出せば手に入る時代ではなくなっています。そうした考え方を見直し、どうしたら安心安全で、かつ安定的に食料が手に入るのか、生産者も消費者も共に考えてほしいと思います。
今まで、食の安心安全と強く言われている中で、これからはさらに安定供給が大事になってくるということですね。
(奥木) そうです。日本は6割以上輸入している国です。このままでいけば、日本の農業経営はどんどん減っていきます。今年の県産小麦の収穫量を見ても、前年対比85から86%で、それだけでも自給率が下がっているのがわかります。でも、日本の気候風土なら、やる気さえあれば何毛作もできます。今こそ、方向展開の時だと思います。
それと、これからは「水」が世界的な問題になると思いますね。飲料水もそうですが、水がなければ農作物はできません。最近は、経済誌が特集で食料や水を取り上げていますし、ろ過装置の開発など、世界中の大企業が水に注目しています。
大変示唆に富んだお話を伺い、改めて食と農、地球温暖化を取り巻く問題について考えさせられました。本日はどうもありがとうございました。

(聞き手 上毛新聞社広告局「みのりくらぶ」編集長 中道美代子)