おかべ・みきお
1953年、榛東村生まれ。東京大学教養学部フランス科卒業と同時に父が営む岡部養豚(本社・榛東村)に入社。89年、35歳で代表取締役に就任。2001年、オーケーコーポレーションへ社名変更。
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シリーズ<13> 2007年11月21日掲載
大切なのは自給率≠謔閾自給力≠セと思います。
オーケーコーポレーション代表取締役 岡部 幹雄 さん
昨年に続き、自社ブランド「はるなポーク」の名にちなんで、榛名山を訪れての取材となりました。山頂付近は、遅めの紅葉が始まり、お天気も上々だったこの日。多忙な日常を離れ、久しぶりに群馬の自然を満喫できた一時のご様子でした。
 ■かつては約2000戸の養豚農家■
急に寒くなってきましたが、冬の食べ物ではどんなものがお好きですか?
(岡部) 好きなものというか、あんまり嫌いな食べ物がないので何でも食べますが、冬ですから、鍋物とかいいですね。
おいしい「はるなポーク」で「豚しゃぶ」などでしょうか?
(岡部) そうですね。野菜を食べることのほうがどちらかというと多いですかね。
岡部社長は、とてもスリムでいらっしゃって、メタボリック症候群とは無縁のような体形を維持されていますが、健康面で気を配っている点、健康の秘訣はありますか?
(岡部) だれでもそうでしょうけど、(体調に)問題がないときは気を遣わないもので、自分も同じですね。健康に気をつけて「こういうものを食べている」とかはないんですが、一つだけやっているのは、毎朝、体重計に乗ることです。前の晩、たくさん食べたり、飲んだりすれば、次の日は控える…そんな感じでしょうか。
高校生のころでしたっけ?体重が70キロぐらいのときがあったとか。
(岡部) 高校1、2年生のとき、一番体重が多くて70キロとか72キロとか、ウエストも90センチあった記憶がありますけど。今は、51〜53キロの間を行ったり来たりしています。
大学卒業と同時に家業に就き、35歳のとき社長になられたそうですが、当時の群馬県の養豚業はどんな感じだったのでしょうか?
(岡部) 今は、国内の豚肉が少なくなりましたが、当時は、過剰生産だったと思います。養豚農家の戸数も、今460件ぐらいですが、その4倍の2000件近かったと思いますね。ただ、肉豚の生産頭数は、今と同じぐらいだと思います。小規模から規模が大きくなり、生産は維持し戸数は減ったといったところでしょうか。
 ■豚の力を生かす環境■
養豚はどちらで学ばれたのですか?
(岡部) いえ、養豚自体の勉強はしたことがないんですね(笑)。農場管理は、責任者に任せています。また、獣医に定期的に見ていただいていますので。
ただ言えるのは、養豚というのは、生きた豚が相手ですから、特に難しいことをしなくても、動物ですから自分でちゃんと大きくなっていくということです。そうした中で、効率をよくする、肉のおいしさをよくする、生産履歴を開示する―となると特殊になってきますが、基本的には豚がちゃんと自分の力で育っていくので、それを邪魔しないように管理しています。
特に気を遣っているのは、「水」と「えさ」と「空気」。新鮮な水がいつでも飲めて、新しくて適正なえさが常時食べられて、新鮮できれいな空気を吸える環境。そうした環境づくりが一番の管理だと思っています。
おいしい空気とおいしい水とおっしゃいましたが、現在、農場はどちらにありますか?
(岡部)

農場は渋川市赤城町に1カ所と、中之条町に2カ所、計3カ所あります。母豚は1800頭で、100〜150頭ぐらいが中之条町、残りの1700頭ぐらいが赤城町です。
豚の病気の問題もありますが、人間でも風邪が流行っていても風邪をひかない人がいるように、豚もウイルスにさらされる危険があっても発症しない強い力を持つことが大事だと思います。毎日、えさを運んでくる車の消毒などはしていますが、万が一外から病気が入った場合でも、感染しないように普段から免疫力をあげ、健康に育てる。人間も今、予防医学が盛んに言われますが、それと同じですね。

自社ブランド肉である「はるなポーク」は、「パワーセンターうおかつ」の吉井店と榛名店で扱っていますが、一般消費者がほしい場合、そのほかはどこで買えますか?
(岡部)

問屋の「エルマ」(高崎市)さんで分けてもらえます。当社で直接豚肉を扱うことはないので、自分もほしいときはそこに買いに行っています(笑)。

「はるなポーク」がおいしく食べられるお店として、以前、太田のとんかつやさん(みのりくらぶvol.24号掲載「とんかつ厨房・匠亭」=太田市飯塚町=)をご紹介いただきましたが、ほかはいかがでしょうか。
(岡部)

うーん、全部把握しているわけではないので・・・。国道17号沿いに「豚肉料理と酒菜『しゅう』」(高崎市)というお店があり、そちらでも食べられます。お肉は、素材だけではなくお店の味付けで変わりますから、いろいろなお店で使ってもらえるのはありがたいですね。

 ■低い畜産物の自給率■
昔から群馬県は養豚業が大変盛んですが、最近、飼料の原料となるトウモロコシの高騰が問題になっていますね。どんな影響が出ていますか?
(岡部) えさはトウモロコシが6割を占めています。1年前に比べると、2倍近くに上がっているので大変です。えさの原料が上がった分、豚の値段が上がるかというと、それは難しいですから厳しいですね。これは豚だけでなく、鶏や牛など畜産全体がそうだと思います。
「食料自給率が39%になった」と発表されましたが、えさを輸入に頼っている現状を考えますと、本当の自給率はもっと低いのでしょうか?
(岡部) そうですね。「食料自給率」として一般的に使用されるのは、「カロリーベースの食料自給率(※)」です。養豚の場合、品目別食料自給率では国内生産は5割ですが、豚のえさの9割は輸入です。それを含めて計算すると、豚肉のカロリーベースの自給率は5%となります。鶏や牛も含め畜産物のカロリーベースの食料自給率は、世間の人が思っている以上に低く、危うい状況かなと感じます。たとえば、味噌は100%国内で作っていますが、味噌の原料の大豆は輸入していますから、食料自給率を計算するともっと低い計算になると思います。

(※カロリーベースの食料自給率…食品に含まれる基礎的な栄養である「カロリー(熱量)」をものさしにして食料品全体の自給率を計算する)
発表されている食料自給率39%で大騒ぎしていますが、それどこではないということですね。
(岡部) 畜産物を生産するトウモロコシを年間1600万トン輸入している―といわれてしまうと非常に無力感にとらわれてしまう。自分にできることは何かと思っても、なかなか思い浮かばないですね。そうした中でも、毎日の生活の中で、多少でも国内生産につながるようなことをちょこちょこっとしていく。例えば、ちょっと値段が高くても国産のものを買う、食べ残しをしない、自分で野菜を作るなど、個人としてはそんなことぐらいしかできないですね。
 ■流通のエネルギーが不可欠■
同じスーパーに並んだ商品でも、国産は少し高いけれども、なるべく国産を―ということですね。
(岡部) 日本は人件費も高いし、同じものを作ると結果として値段が高くなってしまいます。けれども、自給率を上げるためには、ある程度値段が高くても国産を買わざるを得ないでしょうね。だからといって、食料自給率を上げることだけにこだわるわけにもいかない。食料を生産するには、いろいろな生産資材が必要です。
養豚ですと、えさ、機材、技術、豚の品種などですが、畜産の機材や技術のノウハウは、ヨーロッパやアメリカから伝わったものが多いですし、豚の品種も固定して持っている品種はなく輸入していますし、国内で自前といっても、なかなかないのですね。また、群馬県で生産された畜産物は首都圏に運ばれます。それには、ガソリン、つまりエネルギーがなければ流通しません。食料を生産するだけでなく、食料を流通させたり、消費することを考えると、外国との貿易も重要です。
前回のインタビューでも円滑な貿易の仕組みを作ることが大事だとおっしゃっていましたが、ガソリンがなければ、農畜産物が流通しませんし、食料とエネルギーは表裏一体ということでしょうか?
(岡部) 食料が人間のエネルギーならば、石油などは経済のエネルギー。(なにかの危機で)食料の輸入が滞っても、石油はちゃんと入ってくるという状況は考えづらい。食料のことだけを考えていてもだめだと思います。
また、農家も高齢者が多くなりました。今、65歳の人が10年後は75歳になります。そうしたとき、今と同じように農作業ができますか。農業以外の産業も、団塊の世代が退職し技術の伝承ができなくなったなどと言われますが、心配な部分です。若い人もたくさんいますが、同じ農業でも一つの作物や果樹を選び、大規模に取り組んでいます。群馬県は標高差があり、豊富な作物が生産できると言われますが、地域としては多品目の作物を作っていても、個人としては専門化しています。そうすると、農業の幅が狭くなる。なにかあったときに生産全体がだめになってしまう。
自分も、分類としては農家でも養豚しかやっていないので、こんなことをいうのはおこがましいんですが、「自給力」という点では、本当はいろんな作物を作れる能力のある人がたくさんいたほうがいいのではないかと思うんです。
そうすると、日本の農業の行方は暗いのでしょうか?
(岡部) 個人としては暗くないと思いますが、国全体を見たときに、今のままだと、難しいかもしれませんね。
 ■自給する能力とは■
さきほど、「自給力」というお話が出ましたが。
(岡部) 「自給力」とは、自給する能力ですね。作物を作れることもそうですが、一番大きいのは資材や技術を調達できる能力だと思いますね。いろんな作物を買えるのも、一つの自給力だと思うんです。自給率というと、統計的な大きな話になり、どう取り組めばいいかわからなくなってしまいますが、、自給力というと自分自身の力で何かできることがあるのではないかと思うんです。
もっと身近に意識し、できることをやっていくことですね。
(岡部) そうですね。それと、最近、よく「食育」といいますが、食べものを通じていのちの大切さや、ものの大事さ、感謝の気持ちを教えようと取り組まれていて、それはとてもいいと思うんです。
来年6月、群馬県で「食育推進全国大会」が開催されるため、群馬県でも今、盛んにプランを立てていると思います。
(岡部) ただ、「食育」自体はとてもいいと思いますが、今の「食育」はものが貧しかった時代をベースにした取り組み方のような気がするんですね。今の子どもたちは、ものが豊富な時代に育ってきてしまっている。「エコフィード」(食品残さを加工した飼料)という、消費期限切れのお弁当を回収して加工し、豚や鶏のえさにする取り組みもあります。そうした中で、食べ物のありがたさを言っても無理のような気がするんですね。
昔から、「衣食足りて礼節を知る」といいますが、衣食が余った時代の礼節を子どもたちにどう伝えるかが課題だと思います。昔は、実りや豊作は感謝されましたが、今は豊作だと値段が下がり、商売としては逆に困ってしまうわけです。ものがなかった時代からものが余った時代へと移り変わっていく途中というか、過渡期なんでしょうね。
また、よく「消費者」「生産者」と分けて語られますが、100%消費者、100%生産者はいないわけです。自分も豚肉は生産していますが、ほかのものは消費している。同じ人間がある面からみると消費者であり、生産者である。お互い共存しているし、両面性を持っている。モザイクのように混ざり合っているのだと思います。
そうですね、それぞれ多角的な面があるということですね。本日は、大変興味深いお話をありがとうございました。

(聞き手 上毛新聞社広告局「みのりくらぶ」編集長 中道美代子)