林桂選

2005年10月12日上毛新聞掲載


ものさしを器用に使い柿をもぐ
吾妻高1年 加部奈都美
【評】柿もぎの道具にものさしを使うというのです。高くない枝の柿。そして持ち合わせの道具としてのものさし。学校帰りでしょうか。
もみじちる私に希望ふってこい
吾妻高1年 伊能 沙織
【評】自分に散りかかる紅葉。この鮮やかな紅葉のように、希望も降ってきて欲しいものです。紅葉から「希望」に転じるところが巧み。
落花生殻をむく父食う妹
吾妻高1年 相京 詩織
【評】殻をむいてあげる意識もなく父はむき、妹はむいてもらっている意識もなく食べているのでしょう。父と娘の自然で愉快な関係。
霧包む水面を照らす月光り
吾妻高1年 関  麗香
【評】「月光り」は「月明かり」の方がいいかもしれません。霧にまかれる湖水とそこに注ぐ月明かり。幻想的な秋の一場面です。
澄んだ空三日月ひとつ泣いている
吾妻高1年 大塚 美紀
【評】「三日月がめそめそといる釜の飯」(金子兜太)という句があります。兜太の句には生活の匂いがしますが、大塚さんは若者の孤独。
夏の駅自販機すべて赤ランプ
埼玉熊谷女高1年 佐藤恵里菜
【評】清涼飲料水の自販機でしょう。売り切れのランプがついたその様子に、夏の厳しい暑さを感じ取っています。着眼のいい句です。
埼玉熊谷女高1年 山崎 理紗
 
鰯雲秋田の友にうつメール【評】高い秋の雲が、遙かな友を思う気持ちを誘うのでしょう。秋田に住む友を思い出させ、久しぶりのメールをうつ気持ちにさせるのです。
明るさの中の静けさ芝のつゆ
埼玉熊谷女高1年 秋山  唯
【評】芝に降りた朝露の様子でしょう。「明るさの中の静けさ」が巧み。露の光で明るくなることはないのに、明るさを感じるから不思議。
ラケッットの汗ふく瞬間蝉しぐれ
埼玉熊谷女高1年 和田 彩華
【評】汗で滑りやすくなったラケットのグリップを拭く瞬間だけ蝉しぐれを感じるのです。プレーに集中しているときは感じていないのです。
宿題しなくちゃ!青春しなくちゃ!夏休み
埼玉熊谷女高1年 大澤由花里
【評】夏休み。思い切り羽を伸ばしたい手足を、重く引っ張る宿題。二つの「しなくちゃ」に思いは揺れるのです。
朝焼けやうつつのはじめ夢のはて
埼玉熊谷女高1年 佐川 愛実
【評】寝覚めの、夢とも現ともつかない状態を「うつつのはじめ夢のはて」と表現。「夢現」でも、現に向かっていることは確かです。
ただひとり冷たし海を泳ぎだす
埼玉熊谷女高1年 川崎明日香
【評】「愛されずして沖遠く泳ぐなり」(藤田湘子)を思い出させます。泳ぐという行為に、孤独の影を感得するという意味で共通しています。
星も鳴くかのようにみえる夏の空
埼玉熊谷女高1年 梁瀬 彩加
【評】かすかな光が届いているように、かすかな音も、星から届いているかもしれない。そんな思いを起こさせる夏の夜空です。