林桂選

2008年10月29日上毛新聞掲載


日がしずむ直前までは秋じゃない
高崎堤ケ岡小5年 渡辺 千夏
【評】自分の感性を信じて断定する強さが、小気味のいい句です。秋は夜からやって来るというのです。清少納言の向こうを張れそうな感性。
秋風にうたれて町は秋になる
前橋駒形小5年 久保香那美
【評】町という人間が作り上げた人工的な環境は、秋風のような自然の働きかけを受けて、それにふさわしいたたずまいになるのですね。
黄金の尾瀬がぼくらを輝かす
前橋駒形小6年 阿部  嵐
【評】尾瀬ケ原の紅葉は黄金色に枯れる草紅葉です。その輝きを受けて、自分たちまで輝いているように思えます。「ぼくらを輝かす」がうまい。
尾瀬の風草原こえてぼくたちへ
前橋駒形小6年 片田 滉大
【評】「草原こえて」に尾瀬ケ原の広がりが表現されています。尾瀬の風ははるかかなたから吹いてくるのが感じられるのです。
池の中イモリが泳ぐよ秋の尾瀬
前橋駒形小6年 矢端 将光
【評】尾瀬の池の水がいよいよ澄んで、イモリの姿もはっきりと見えます。尾瀬の秋らしさを思わぬところに発見しています。
どこまでも続く木道すんだ空
前橋駒形小6年 山口 貴大
【評】「空澄む」は秋の季語。木道と秋の空だけを描いて、読者にさわやかな尾瀬の秋を思い描かせます。俳句の単純化は時に力となります。
案山子をねたまに人だと思っちゃう
高崎城山小6年 青木恵美子
【評】かかしが人に似ているのはありません。また、人に間違えるでもありません。人だと思う瞬間があるというのです。微妙な感性を表現。
アカトンボ犬の頭にとまってる
前橋下川淵小6年 羽鳥美奈子
【評】犬は伏せて居眠りをしているのでしょう。鼻にとまられた犬はどんな反応をしたのでしょうか。そのまま眠っていたのかもしれません。
食卓にみょうが香る夕食かな
前橋山王小6年 栗原 有加
【評】中七は「みょうがが香る」がいいかもしれません。香りを楽しむ食材のミョウガ。子どもではおいしさが分からない人が多いのですが。
いね達が空に胸はり立っている
前橋月田小6年 吉田 悠花
【評】「空に胸はり」で、誇らしそうに実っているようすを表現しています。稲を擬人化して表現して、楽しい句になりましたね。
段々と仲間を増やすひがん花
前橋月田小6年 堤  李菜
【評】少しずつ株分かれしながら、仲間を増やしつつかたまって咲くマンジュシャゲ。「段々と仲間を増やす」には、新たな発見があります。
空高く夕暮れ広がる秋の空
前橋桃川小6年 畑根 理沙
【評】「空高く夕暮れ広がる」が巧み。空の高いところまで赤く染めて夕焼けが広がっているのです。日暮れが早い秋に目にする光景です。
コスモスが私の恋を語ってる
中之条中1年 斉藤 有希
【評】風に揺れているコスモス。その動きが風で伝わってゆくように見えます。作者の恋の気持ちをうわさしあっているように感じられるのです。
霧まじり草がしめった部活前
中之条中1年 桜井満依子
【評】霧に湿った草。その中での部活動。湿気が強くて気持ちのよいコンディションではないのですが、霧が帳消しにしている風情です。
太陽がもえてサルビア赤が増す
中之条中1年 一場 悠里
【評】太陽の光に照らされて、サルビアの赤が一層輝きます。太陽が燃え移ったような感じです。「もえて」の誇張表現に工夫があります。
藍色に心も染まる夜空かな
中之条中1年 冨沢 仁志
【評】藍色(あいいろ)の夜空。一面に広がるその下にいると、自分の心の中まで同じ藍色に染まってゆくように感じられるのです。夜空の大きさ。
鳥たちの祭始まる稲刈後
高崎中尾中2年 富田 一成
【評】刈田の落ち穂をついばむ小鳥の姿を、鳥たちの祭に見立てました。「稲刈つて鳥入れかはる甲斐の空」(福田甲子雄)があります。
水弾く葡萄に映る焼けた空
高崎中尾中2年 益井 静花
【評】雨後の雨粒を宿すブドウに、夕焼けの色が映えているのです。小さいブドウの中に、ドラマチックな大きな世界を描いています。
青い空地面はみんな葡萄色
高崎中尾中2年 中沢 遥菜
【評】「地面はみんな葡萄(ぶどう)色」の詩的な断言に力があります。地面を葡萄色と表現した例を見ません。常識的な見方では見えてこない色です。
秋の空父のしらがが増えている
高崎中尾中2年 高野 瞭介
【評】父の白髪に「秋の空」を取り合わせて、スケールの大きな句にしています。年を重ねて行く父への思いの切なさが感じられます。
空だけを映して遊ぶ芋の露
高崎中尾中2年 山口 紘生
【評】「芋の露連山影を正しうす」(飯田蛇笏)を思い出します。小さな世界の大きな宇宙を「空だけを映して遊ぶ」で表現。大人顔負け。
稲刈機会話中に動き出す
高崎中尾中2年 深沢 佑樹
【評】友達と話をしているときに、割って入ってくるように稲刈機が始動して音を出します。偶然の機微を巧みに表現しています。
しとしとと降り続く雨が運ぶ今日
六合中3年 篠原 友美
【評】「運ぶ今日」が巧み。 秋霖(しゅうりん)でしょうか。秋の長雨の続く日々が、今日という一日を呼び寄せていると思えば不思議な気もします。
秋風に吹かれて来たる布団かな
渋川小野上中3年 飯塚 一樹
【評】「秋風に吹かれて来たる」は「作者」。その身に、家の布団の暖かさはうれしいというのです。表現の省略が効いた作品です。