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生活習慣病とは?
糖尿病群馬大学医学部附属病院内分泌 糖尿病内科講師 清水弘行
「成人病」が「生活習慣病」に改名
生活習慣病には表1に示したように皆さんの聞き覚えのあるいろいろな病気が含まれています。多くは以前、成人病と呼ばれていたものです。そしてこのような生活習慣病に関わる主な要素は表2に示しました五つです。
糖尿病が中心的な存在 糖尿病は正しい知識があれば、決して怖い病気ではありませんが、放置されますと体中にいろいろな障害をきたし、命取りにもなりうる病気です。いわば、皆さんの力で良くも悪くもなる病気なのです。
さらに昨年の統計では、それぞれ七百四十万人、千六百二十万人と増加し、四十歳以上の方では六人に一人の割合に増加しております。厚生労働省の「健康日本21」における二〇一〇年の推計値では、「糖尿病が強く疑われる人」が千八十万人までに増加することが予測されておりますので、これを一千万人にまでに抑制することを目標に、様々な活動が進められています。
年間10万人が糖尿病で死亡 平成十二年度の人口動態統計では、年間十万人くらいの方が糖尿病が原因で亡くなられております。怖い糖尿病の合併症についても人工透析を新たに始める人が年間一万人以上もおりますし、糖尿病に原因した視力障害の発生も年間約三千人もおります。将来皆さんがそうならないためにも予防と早期からの治療が大切です。
ブドウ糖が血液中にあふれる病気 体の栄養として三大栄養素である炭水化物、蛋白質、脂肪が重要ですが、その中の炭水化物が消化、吸収されてできるブドウ糖が血液の流れに乗って体の細胞に運ばれて栄養となります。 ブドウ糖は蛋白の働きにより細胞の中に運ばれて行きます。この輸送蛋白の働きが悪くなり、ブドウ糖がエネルギーを必要としている筋肉や脂肪の細胞の中に十分運ばれなくなり、血液の中にあふれてしまうのが、糖尿病です。 糖の流れを図1に示しましたが、食物として摂取された栄養は腸の中でブドウ糖やアミノ酸に分解されて吸収されます。小腸において吸収されたブドウ糖が細胞の中に取り込まれるためには、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが重要な働きをしています。
インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモン その原因の一つは膵臓でインスリンが十分に作られなくなること(インスリンの分泌低下)、もう一つは筋肉や脂肪の細胞においてインスリンが作用しにくくなること(インスリンの感受性の低下)です。 運動不足の状態が長く続きますと筋肉にインスリンが作用しにくくなりますし、肥満の状態では体の脂肪細胞の数が多くなったり、脂肪細胞自体が大きくなったりしてインスリンがたくさん必要になる状況になります。このような状況では、膵臓からはインスリンがたくさん分泌されるのですが、食べ過ぎや運動不足の状態が長くが続きますと、インスリン分泌が追いつかずに足りなくなってしまいます。
1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のランゲルハンス氏島が炎症で破壊され、インスリンが作られなくなってしまい、体の中からインスリンがなくなってしまう状態です。多くは子供さんや若い方に発症いたします。このようなタイプの糖尿病は、病気の発症に生活習慣はあまり関係がないと考えられます。
ですから、早食いや運動不足は糖尿病を発症しやすくするとともに、すでに糖尿病になっている方の血糖コントロールにも悪影響を与えるわけです。また、やせているにもかかわらず糖尿病になられる方は、このインスリン分泌が遺伝的に少ないタイプなのかもしれません。 糖尿病はこの二つのタイプが主ですが、この他に「その他の原因による糖尿病」と呼ばれるタイプがあります。糖尿病発症に関連する遺伝子の異常がはっきりしているタイプや肝臓、膵臓やホルモンの病気、薬による糖尿病などがそれにあたります。
妊娠中の女性も注意を それでは、どのような人が糖尿病になりやすいのでしょうか? 1型の糖尿病は明らかになりやすいタイプというものはありません。しかしながら、2型糖尿病では、過食(食べ過ぎ)、肥満、運動不足、ストレス、加齢などがその発症や増悪因子として重要です。まさに生活習慣が影響すると言えましょう。
2型糖尿病は不健康な習慣の是正が重要 妊娠糖尿病の危険因子としては、糖尿病の家族歴、肥満、過去に巨大児を出産したことがあることや三十五歳以上の高齢出産などがありますので、妊娠を考えている女性はこのような点に注意が必要です。 では糖尿病は遺伝するのでしょうか? 一部の糖尿病ではインスリンの分泌やインスリンが血糖値を下げる作用の発現に関与する一つの遺伝子が遺伝的に異常を示すことにより、糖尿病になることが判明しております。しかしながら、現在判明しているものは日本人の糖尿病全体の数パーセントに過ぎませんので、大部分の糖尿病の遺伝的背景は不明です。
日本人は欧米人よりインスリン分泌が弱い 糖尿病ではどのような症状が現れるのでしょうか? 糖尿病に典型的な症状は、疲れやすさ、だるさ、口渇(口が渇く)、多飲(水をよく飲む)、多尿(尿の量が多くなり、夜間も排尿のために目が覚める)、体重減少です。さらに糖尿病が進行すると合併症による症状として視力が低下(物が見にくくなる)、足がむくむ、しびれる、立ちくらみや傷が治りにくく、化膿しやすいといった症状も現れてきます。
初期は多くの患者が無症状 是非、健康診断は毎年受けてください。健康診断で糖尿病の疑いがあると指摘された方は「症状がない」といって放置せず、必ず近くの医療機関を受診し、指示に従ってください。健診で糖尿病「予備軍」と指摘を受けられた方も同じです。 一度、血糖値が良くなっても、生活習慣が前のように乱れてくると悪化することはよくあります。糖尿病は良くなってもその体質は続きますので定期的な医療機関への通院をお勧めいたします。
診断は血糖値の測定から 糖尿病の診断には血糖値の測定が重要となります。血糖値の測定は、普段の状態で測った場合、朝に何も食べない状態(空腹)で測った場合、ブドウ糖負荷試験検査用のブドウ糖を飲んで二時間後に測定した場合の結果で診断します。 空腹では126mg/dl(ミリグラム毎デシリットル)、普段やブドウ糖を飲んだ後では200mg/dl 以上が異常となります。どれかの検査で異常が出ましたら、別の日にもう一度、他の方法で検査し、また異常な値が出ましたら、糖尿病と診断します。 ただ、口渇、多飲や多尿のような典型的な糖尿病の症状があったり、糖尿病に典型的な眼の異常が認められたり、血糖コントロールの指標であるグリコ・ヘモグロビン A1c 値(採血した時点よりさかのぼって一〜二カ月前までの血糖コントロール状況を反映します)が明らかな糖尿病と考えられる6・5%以上を示した場合には一回の検査だけでも診断できます。 一般的に血糖値が160〜170mg/dlを越えると尿中に糖が出るようになり、尿糖として検査で分かるようになります。しかし、尿糖検査だけでは糖尿病を正確に診断したり、血糖コントロール状況を把握したりすることはできません。尿をとるタイミングにより血糖値も変動しますので、一回尿糖が陰性だったからといって「糖尿病ではない」とは言い切れませんので、是非かかりつけの医師に血糖値の測定をしていただいてください。
糖尿病は血管の病気とも言われます。すなわち全身に血液を送る血管が過剰な糖分により侵されてしまうわけです。 全身には太い血管と細い血管がありますが、図2に示しましたように糖尿病では両方の血管が侵されてしまいます。太い血管が侵されますと動脈硬化が進行し、脳の血管の動脈硬化が進行すると脳梗塞、心臓の血管の動脈硬化が進行すると心筋梗塞と、いずれも死亡原因の多くをしめる重大な病気です。 また、足の血管の動脈硬化が進行すると閉塞性動脈硬化症といい、足の痛みを生じたり、さらに進行すると靴擦れや水虫などの小さな傷でも化膿しやすくなったりして、後述いたします糖尿病性神経障害とあいまって壊疽(えそ=足などが腐ってしまうこと)の原因ともなりますので、足を切断する原因になりかねません。
合併症は細い血管の障害から 糖尿病性網膜症とは眼の奥にあり、光を感じる網膜という部分の血管の流れが悪くなることにより、酸素や栄養が十分に供給されなくなり、むくみや出血が生じます。これがひどくなりますと視力障害が出現します。糖尿病性網膜症は日本人成人の失明原因の第一位です。
現在、日本において人工透析を受けるようになる患者さんの原因の第一位が糖尿病です。(図3)
手足の先が両側同じようにしびれる 知覚神経が障害を受けると、足や手の先が両側で同じようにしびれ、違和感や冷たさを感じるようになります。これが末梢性神経障害です。一般的には足の先から両側ほぼ同じように症状が出現してきます。足が痙攣するこむら返りもこの症状の一つであることが多いようです。右手だけしびれるといったような症状は、この症状ではないことが多いですから、あまり過剰に心配されることはありません。 自律神経が障害されますと立ちくらみ、発汗異常、便秘、排尿困難(尿が出にくくなる)やインポテンツ(勃起しにくくなる)などを生じるようになります。このような糖尿病による細い血管の合併症は、血糖コントロールが不良な状態が長く続くと出現いたします。
免疫機能の低下による感染症も注意
食事と運動習慣の是正が大切 成人に多く、生活習慣と密接な関係を有する2型糖尿病の治療の中心は、食事療法と運動療法からなる生活療法です。早期の2型糖尿病の方でしたら、この生活療法、すなわち悪い生活習慣の是正だけで十分です。
まず食事療法についてですが、表5に示しましたように1日の必要なカロリーは、標準体重から計算されます。最近では
腹七分の食事をゆっくり、よく噛んで 生活療法の一環として運動療法も大切です。運動しないと使わない筋肉はやせてしまいますので、体重が少なくても脂肪の多い体になってしまいます。いわゆる「かくれ肥満」の状態です。筋肉はブドウ糖をたくさん利用する臓器ですので、これが少なくなると摂取したブドウ糖の利用が減少して余分なブドウ糖が血液中にあふれ、血糖値が上昇してしまうわけです。
男性は一日九千歩が目標 これがどうしても無理という方は、日常生活の中で、なるべく階段を使うことや外出時も少しだけ早めに歩くことなど、小さなことからコツコツと始めてください。是非、万歩計をつけていただき、一日に男性は九千歩、女性は八千三百歩を目標に運動してみてください。
1型の糖尿病では生命を維持するためにインスリン注射を行うことが必須です。これに対して2型の糖尿病ではインスリン注射を行うことは必須ではありませんが、大きな手術や外傷、感染症の時や経口剤では十分な血糖コントロール状態が得られない場合にはインスリン注射が必要となります。
教育入院で実践できる知識を学ぼう 正確な知識をお持ちいただくことにより、決して糖尿病が怖い病気ではないことや御自身の生活習慣の重要性を再認識いただけるのではないかと思います。 最後に糖尿病の患者さんの会を御存知でしょうか。日本には(社)日本糖尿病協会という糖尿病患者さんの組織があります。この会は、糖尿病患者さんが健康で幸福な生活を送れるようにするため、糖尿病に関する正しい知識の普及啓発、患者さん及びその御家族への教育指導などを目的に設立された団体です。 群馬県にも群馬県支部(1027―362―2838)があり、約二千人の患者さんが年一回の県セミナーをはじめ、活発な活動をなされております。群馬県内の糖尿病患者さんの積極的な参加をお待ちいたしております。 最後に、冒頭にも述べましたが糖尿病は患者さん御自身が主治医です。 自分で病気を良くすることも悪くしてしまうこともできる病気です。自己管理ができていれば、決して怖い病気ではありません。しかしながら、逆に自分で注意なされないと、だれも良くできないことも事実です。 ですから、日々の日常生活で気づかれる不健康な生活習慣を是正し、糖尿病をはじめとする生活習慣病のない健康的な生活を送ろうではありませんか。
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