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がんを知る

大腸がん
群馬大学大学院病態総合外科学(第一外科)
大腸の解剖 助手 堤 荘一
助教授 浅尾高行
教授 桑野博行

はじめに
 日本では胃がんの減少傾向に対して、大腸がんの顕著な増加が認められています。これは日本人の食生活が欧米型に変わってきたことに影響していると考えられています。図1に悪性腫瘍の主な部位別に見た死亡数の年次推移を示します。大腸がんによる死亡数は約三十年間で五倍にも増加しています。二〇〇四年度では、男性は肺がん、胃がん、肝がんに次いで第四位、女性は胃がんを抜いて第一位となっています。大腸がんの罹患率は二〇一五年には男女ともに第一位になると予測されており、このまま推移すればわが国のがんの死因の一位になると推定されています。世界的に見ても大腸がん有病率は、男性では前立腺がんに次いで第二位、女性は乳がん、子宮頸がんに次いで第三位であり重要な問題です。

悪性新生物の部位別にみた死亡者数の年次推移大腸とは
 大腸は、口から始まり肛門で終わる消化管の最後の部分です。大腸の始まりは盲腸で、右側の部分が上行結腸、中央に横たわっている部位を横行結腸、左側の部分が下行結腸、S字状に曲がっている部分がS状結腸、約15の真っすぐな部分が直腸で、最後の肛門で終わります(図2)。大腸の働きは、食物が消化され小腸で栄養分と水分が吸収されて残った内容物から大便をつくることです。大腸を通過してできた大便には、消化されないで残った食物の残りカスのほかに、腸の粘膜からはがれ落ちた細胞、腸内細菌、および細菌が作り出したさまざまな物質が含まれています。また、大腸の中には細菌がたくさん住みついています。この腸内細菌には、消化されずに残った炭水化物やタンパク質などを分解する働きがあります。大便の色や臭いは細菌の分解作用によって生じた物質が原因です。

大腸がんの原因
 大腸がんの90%以上は遺伝とは関係のないがんであり、多くの環境要因・生活習慣(ライフスタイル)が相互に作用して生じると考えられています。食生活の急激な欧米化、特に動物性脂肪やタンパク質のとり過ぎが原因ではないかとも考えられています。男性も女性もほぼ同じ頻度で大腸がんにかかり、発病の年齢は六十歳代がピークです。発生する部位では右結腸がんが増加した反面、直腸がんが相対的に減少しています。

 さて、大腸には、将来がんになる可能性の高い前がん病変というものが存在します。大腸がんの発生に関しては、大腸正常粘膜から腺腫(ポリープ)、そしてがんへの過程が遺伝子の変化により段階的に進行するという多段階発がん説が提唱され広く受け入れられています。ポリープも大きさが1を越えるとがん化する可能性があるので、早期発見・早期治療が必要となります。さらに、大腸の前がん病変としては腺腫、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)や放射線性直腸炎などが考えられています。

遺伝性大腸がん
.  遺伝性大腸がんは全大腸がんの数%程度を占めると思われます。大腸に百個以上のポリープが発生する家族性大腸腺腫症と、ポリープの多発がない遺伝性非ポリポーシス大腸がんがあります。家族性大腸腺腫症は四十歳までに80%の人はがんになりますので、早いうちに手術が必要です。遺伝性非ポリポーシス大腸がんはポリープを伴わないがんです。この病気は大腸がんが多発しやすいだけでなく、ほかに子宮がん、卵巣がん、胃がん、泌尿器がん、小腸がんなどが発生しやすいと言われています。近親者に大腸がんの人がたくさんいる場合には注意して下さい。

特殊な大腸がん
 クローン病および全大腸型の潰瘍性大腸炎では発症が若いほど、経過が長いほど(十年以上)大腸がんになるリスクが高くなります。また、長期間経過した痔瘻にがんが発生することもあります。

大腸がんの症状
大腸内視鏡検査  大腸がんの自覚症状は、がんができる部位によって異なります。S状結腸がんや直腸がんでは下血、血便、便が細くなる、残便感、便秘、腹痛などの症状が多く認められます。中でも下血や血便の頻度が高く、痔と思い込んでいたら発見が遅れてしまったということもあるので注意が必要です。また、右側の結腸にできたがんでは症状を自覚することは少なく、偶然に貧血やお腹のしこりで発見されることが多いです。

大腸がんの診断
 大腸がんは早期であればほぼ完全に治癒するので、自覚症状のない早期に発見することが重要となります。

便潜血検査
 大腸がん検診の代表的なものは、スクリーニング法として免疫便潜血検査2日法(検便)です。便を採取し、その中に眼では見えない血液反応があるかを調べる検査です。食事制限がなく、苦痛を伴わず簡単にできる検査です。群馬大学第一外科で大腸がんの手術を受ける患者さんの30〜40%が便潜血検査で見つかっています。地域保健・老人保健事業の大腸がん検診として行われていますので、検診を受けることをお勧めします。検便が異常だからといっても、全ての人ががんというわけではありませんので心配しすぎないでください。

大腸内視鏡検査
 大腸がんの診断には必要不可欠な検査です。内視鏡検査は病変部を直接観察できることが大きな特徴です(図3)。病変部の位置や大きさが判断できます。さらに、内視鏡下で組織を採り、病理診断ができ、ポリープの場合には同時に治療までできてしまうというメリットがあります。

注腸X線検査
 特別な検査食と下剤の処置後、肛門からバリウムと空気を注入しレントゲン写真を撮影します。内視鏡検査と並んで大腸がん診断の主流をなす検査法ですが、小さな病変の発見という面においては内視鏡検査が勝っています。しかし、がんの大きさや部位、他の臓器との位置関係などが客観的に評価できます。

血液検査
 腫瘍マーカーとはがん細胞がつくる物質で、がんの存在、量、がんの種類などの目安となるものです。大腸がんだけに特異的なマーカーはありませんが、CEAとCA19-9の二つが最もよく用いられています。進行大腸がんの八割はいずれかを産生していますが、腫瘍マーカーをつくらないがんもあります。従って、大腸がんの診断においては、あくまでも補助的役割であり、むしろ治療効果の判定や再発の予知などを目的としています。

腹部超音波検査
 大腸がんの直接的な診断となる検査方法ではありませんが、肝臓転移やリンパ節転移などの診断に用います。被爆せずに簡便に行える検査として有用です。

CT検査
 CT検査は体にあらゆる角度からX線を照射し、得られた情報をコンピューターで解析するものです。がんの転移の検索などに用いられます。治療前に必要な検査です。

MRI検査
 磁気による核磁気共鳴現象を利用して画像に描き出すものです。患者さんが被爆しないこと、いろいろな断層面が撮影できるという特徴があります。がんの周りの組織へ浸潤、転移などを調べるために行います。

FDG-PET
 がん細胞が正常細胞よりも糖分を多く必要とする性質を生かし、陽電子を放出するブドウ糖に似た薬剤を利用、体内での薬剤の分布を画像化する診断法です。全てのがんをPET検査で発見できるわけではなく、特に、粘膜にとどまる早期のがんの発見は困難です。

大腸がんの進行度・病期分類
 大腸がんの病期分類  大腸がんの進み具合を分かりやすくしたものが病期分類です(表1)。病期はがん浸潤の深さ(壁深達度)、リンパ節転移(N)、および遠隔転移の有無で分類されます。

 まず、大腸がん浸潤の深さについて説明します。大腸は粘膜層(M)、粘膜下層(SM)、固有筋層(MP)、漿膜下層(SS)、漿膜層(S)の五つの層に分けられます。大腸がんがこれらのどの層まで深く浸潤しているかによって、壁深達度が六段階に分類されます。さらにリンパ節転移の程度と他の臓器への転移の有無を総合的に評価し、病期分類が決定されます。この病期分類によって治療方法や内容が決定されます。

大腸がんの治療法
 大腸がんの治療方針  先に述べた病期分類にもとづいた第一外科での治療方針を示します(図4)。

内視鏡的切除術
 内視鏡的治療  大腸にはポリープが多く発生し、5以上の腫瘍性ポリープはポリペクトミーの適応となります。これは病変部の根元にワイヤーをかけ、高周波電流によって焼いて切除する方法です(図5―1、2)。ポリープが大きい場合には粘膜下層に局注液を注入し、内視鏡的粘膜切除術にて完全摘除を行うこともあります(図5―3、4)。内視鏡的治療を行うための必要条件は、がんが転移していないことと完全に切除できることです。詳しく説明すると、がんの大きさが2以下で、大腸粘膜下層の深い部位までは浸潤していない場合です。これより進行した場合は手術治療が必要となります。

腹腔鏡補助下大腸切除術
腹腔鏡下大腸切除術  腹腔鏡手術は炭酸ガスで膨らませたお腹に腹腔鏡を入れ、その画像を見ながら手術を行います。内視鏡では切除できない大きながんや、大腸粘膜下層深部から漿膜下層まで浸潤したがんで、明らかにリンパ節転移のない場合に選択されます。整容性に優れ、手術後の疼痛が少なく、入院期間が短く、早期の社会復帰が可能なことが特徴です(図6)。

小開腹大腸切除術
 私たちは腹腔鏡手術からその長所を学びました。すなわち、小さな創による疼痛緩和・短期入院・早期社会復帰・整容性です。群馬大学第一外科では進行がんに対して、これらの有益性だけでなく、根治性を損なわず行える手術として小開腹手術を行っています。10未満の小さな創で、従来の手術と同じように腸管切除とリンパ節郭清する根治術を行っています。腹腔鏡手術のように一週間程で退院が可能です。患者さんからは「何の手術をしたのか?」と聞かれるほど小さな創で済みます。

自律神経温存術
 温熱併用放射線化学治療  がんを完全に切除するために拡大リンパ節郭清が行われましたが、手術後の排尿・性機能障害が高頻度に出現しました。この反省の上に立って自律神経温存術が開発され発展しました。これはがんを根治的に切除すると同時に、排尿機能と性機能を支配する自律神経を選択的に残す方法です。神経が残せれば排尿障害がなく、射精・勃起機能も温存することができます。

肛門括約筋温存術
 昔は直腸がんの手術となると、多くの場合、人工肛門をつくる直腸切断術が行われていましたが、最近では人工肛門を避ける手術ができるようになっています。肛門を残し、排便を可能にする手術法で、肛門括約筋温存術と呼ばれます。より肛門に近い直腸がんであっても、早期がんや一部の進行がんで肛門括約筋を部分的に切除して肛門を残すことができる場合もあります。しかし、がんが肛門の近くにできてしまった場合には、人工肛門をつくる直腸切断術が選択されることが多いです。

局所切除
 お腹を切らずに肛門から腫瘍を切除する手術方法で、早期がんに対して行われます。術前または術後に放射線療法や化学療法を追加する場合もあります。

骨盤内臓全摘術
 がんが膀胱や前立腺などに直接、浸潤してしまった場合に行われます。直腸・肛門、S状結腸の一部、膀胱、下部尿道、全生殖器、骨盤内リンパ節を摘出する拡大手術です。

人工肛門造設術
 肛門に近い直腸がんや肛門にできたがんでは、直腸切断術という人工肛門を造設する手術を行う必要があります。

放射線療法
 大腸がんに対する放射線療法のうち、特に重要となるのは直腸がんに対してです。直腸がんに対する外科治療の補助療法として術前放射線・温熱化学療法を行っています(図7)。肛門を残すことが可能となる場合も多くなります。また下部直腸がんではリンパ節転移のリスクがあるため、リンパ節郭清が必要となります。しかし、広範囲のリンパ節郭清を行うと術後排尿機能・性機能障害が問題となり、神経温存術を施行してもこれらの問題を完全に回避することは困難です。そこで当科では、下部進行直腸がんに対して術前放射線・温熱化学療法を行い、リンパ節郭清の適応を制限して術後のQOL(Quolity of Life)の向上を目指しています。さらにそれだけではなく、がんが膀胱や前立腺に浸潤していて骨盤内臓全摘術をしなければならないような場合にも、この治療を行えばがんが縮小して他の臓器を合併切除する必要がなくなります。また、手術後の再発率も減少すると考えられます。

化学療法
 進行がんの手術後は再発防止の目的で、抗がん剤治療が行われることがあります。内服薬の場合と点滴で行う場合があります。また、がんが肝臓や肺などに転移していて手術ができなかった場合や再発してしまった場合には、より多量の複数の抗がん剤による併用療法が行われます。肝臓だけに転移がある時は、肝動脈から抗がん剤を注入する治療法「肝動注化学療法」もあります。大腸がん化学療法は、今まさに時を得て次々と効果のある治療法が報告されています。特に、オキザリプラチンを含む治療法は〇五年三月に承認され、瞬く間に臨床の現場に拡大して行きました。その効果と安全性から、標準的治療法の一つとしての地位を確立しました。しかし、副作用が無いわけではなく、吐き気、神経障害、皮膚障害、下痢、骨髄抑制などがあります。また、近年の新規抗がん剤の中では分子標的薬剤の動向が注目されています。すでに欧米では抗がん剤治療に分子標的薬剤を併用し、良好な結果が得られているようです。日本でも優れた新規薬剤の導入が待たれます。

大腸がん術後のフォローアップ
 ステージ2 大腸がんに 対するフォローアップスケジュール  退院後は定期的に外来で診察・検査を行っています。この目的は手術後の再発・転移を治療可能な状態で発見し、治癒せしめるためです。群馬大学第一外科のフォローアップの例を示します(表2)。ステージU、Vでは手術後二〜三年目までに再発が多く出現し、その後は再発の出現頻度は少なくなります。よって、再発頻度が高い三年目までは注意深く検査を行い、その後は検査の間隔を延長しても良いと考えられます。

術後症状
 大腸がん手術後で特に問題となるのは、直腸がん切除術後の排便習慣の変化です。大便をためておく働きをしていた直腸が切除されると、排便の回数が増えます。手術直後は一日に七〜八回、トイレに行く患者さんもいます。しかし、その回数は時間とともに少なくなりますので安心して下さい。

追加補助療法
大腸がん手術後の5年生存率  大腸がん手術治療の成績は向上していますが、再発してしまう場合もあります。手術の時、リンパ節転移のあった人は再発する危険があるので、術後再発の減少を目指すために抗がん剤治療を行うことが多いです。

再発・転移
 再発・転移が発見された場合、その部位や個数によって治療方法が異なります。大腸がんの場合には肝臓や肺、骨盤内に転移・再発しやすく、手術を行う場合があります。また、手術以外にも抗がん剤、放射線治療などが有効な場合もあります。

おわりに
大腸がんの予防に役立つ生活習慣6か条  厚生労働省は二十一世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」を発表しました。これによると、がんは検診による早期発見・早期治療ばかりでなく、生活習慣の改善によって、がんの死亡率、罹患率を減少させようとする一次予防にも力を入れ始めています。環境因子が重要である大腸がんでは、食生活に関して言えば、緑黄色野菜の摂取と動物性脂肪の制限が推奨されます。

 世界癌研究基金と米国癌研究財団の報告によると(表4)、大腸がんの一次予防に役立つ生活習慣としては@運動A肥満防止B野菜摂取C赤身肉の制限D飲酒を控えるE葉酸、カルシウム摂取を重要としていますので心がけてください。がん検診に関しては、検便による大腸がん検診の死亡率減少効果は十分証明されていますので、必ず受けていただきたいと思います。もし、がんが疑われた時やがんと診断された場合には、群馬大学第一外科にご相談下さい。当科では年間、二百症例近い大腸肛門の手術を行っており、〇四年度の日経メディカル「がん治療の実力病院」の直腸がんランキングで全国11位にランクされました。また、当科での治療成績は良好と思われます(表3)。外科手術だけでなく、抗がん剤治療や放射線療法を組み合わせた集学的治療を積極的に取り入れ、最先端の医療を行っています。直腸がんの治療において医療施設間による治療成績の差が明らかになっていますが、群馬大学第一外科では専門医が患者さんに満足していただけるような質の高い医療を提供できるように心がけています。


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