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がんを知る

子宮がん
群馬大学大学院医学系研究科 生殖再生分化学
助教授 鹿沼達哉

子宮の位置および子宮と卵巣の働き

 子宮は女性のおなかの1番下にあり、膀胱と直腸に挟まれています。洋ナシを逆さにしたような形で鶏卵よりやや大きめの臓器です。受精卵を宿し赤ちゃんが外界で生きられるまで育てる大切な臓器で、女性の象徴的器官と受け取られているようです。

 しかし、子供を産み終えた後なら、子宮を失っても女性としての機能に何ら変化はありません。女性ホルモンをつくるのは卵巣の役目で、卵巣から血液中に分泌される女性ホルモンと黄体ホルモンにより子宮は機能しているのです(図1)。

 子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんの2種類があります。「えっ、子宮がんって1種類じゃないの?」という声が聞こえてきそうです。子宮頸がんは子宮の下の方、いわば出口に近い部分にできるがん、子宮体がんは子宮の奥の方、赤ちゃんを育てる部位にできるがんです(図2)。原因、かかりやすい年齢、治療法などが異なるので全く別のがんといってよいでしょう。

 最近では、初期子宮頸がんの増加と低年齢化、浸潤子宮がんに占める子宮体がんの発生率が高まっています。子宮と卵巣の働きを解説しながら、子宮がんについて話を進めていきましょう。

子宮内膜
 子宮の内膜がはがれ出血とともに体外に排出されることを月経と呼び、女性が迎える初めての月経を初経といいます(慣習的には初潮と呼ばれています)。初経年齢はこの50年間で5歳若くなったといわれ、現在は11?12歳が平均です。

 月経は最初は不順ですが次第にほぼ毎月起こるようになり、50歳前後まで続きます。子宮内膜は受精卵が付着してもぐり込み(これを着床といいます)、妊娠が始まる大切な場所。そのベッドとシーツを毎月新しいものに替えて準備しているのです。

卵巣
卵巣のホルモンと子宮内膜周期と基礎体温  卵巣は、子宮の左右にあるアーモンド型をした親指の頭くらいの大きさの臓器です。卵巣では卵胞(卵子を入れた袋)が毎月1個ずつ、左右どちらかで育ちます。卵胞の中でつくられる女性ホルモン(エストロゲン)が血液中に分泌され、月経ではがれ落ちた子宮内膜を再び厚くします。

 月経開始後約2週間(個人差があります)で排卵が起こると、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。2つのホルモンの作用で受精卵の着床に適した子宮内膜となり、着床しなければ排卵後約2週間(個人差はありません)で黄体ホルモンの働きがなくなり、再び月経が起こります。女性の一生で子宮内膜は400回以上も再生することになります(図3)。

 つまり「子宮内膜が厚くなる」とは子宮内膜細胞が分裂と増殖を繰り返している、ということです。細胞分裂の起こる細胞はがん細胞に変化する可能性がある、これが宿命です。

子宮頸部の役割
子宮膣部びらん 子宮の入り口である「子宮腟部」や「子宮頸」の役割は何でしょうか。?普段は子宮の奥に細菌などが入り込まないように外界からの交通を遮断する?妊娠しやすい時期には精子が通りやすくする?妊娠が始まれば10カ月間は赤ちゃんが出ないようにブロックする?赤ちゃんが子宮の外で育つまで成長したら外界への通り道として開く?などさまざまです。

子宮頸がんの発生メカニズム
 子宮腟部の表面を覆う上皮は、外陰部、腟壁から連続する扁平上皮と呼ばれる石垣状の強靱な上皮から、たった1層の円柱上皮と呼ばれる物理学的には弱い上皮に移行し、子宮内膜へと移り変わります。その境目を「移行帯」と呼び、移行帯より奥を見かけ上「子宮腟部びらん」と呼んでいます。細菌感染などで「腟部びらん」の円柱上皮が傷つきはがれ落ちると、移行帯からの細胞分裂で修復されます(図4)。

子宮頸がんの発生と進行

 子宮腟部より奥は狭いトンネル状になり「子宮頸管」と呼ばれています。頸管腺が形成され、たくさんの開口部が頸管に開き、子宮腔へと続きます。月経開始後10日目位から排卵までの、エストロゲンがたくさん分泌される4、5日間、頸管腺は頸管粘液(おりもの)という分泌物をつくって腟内酸性度を低下させ、狭い頸管トンネルを精子が上って行くのを助けています(図3)。

子宮頸がんへの進展メカニズム
 「子宮腟部びらん」は粘膜が薄く毛細血管が透けて見えるので「びらん」と呼ばれていますが、実際には「本当のびらん(表皮細胞がはがれ落ちた状態)」ではありません。ですから「子宮腟部びらん」自体は病気ではありません。

 ただこの「偽のびらん」は「本当のびらん」になりやすく、しばしば予備細胞の再生によって修復が行われます。この修復時の上皮を「化生上皮(未熟な石垣状構造をもった扁平上皮)」と呼びます。この時、HPVウイルス(ヒトパピローマウイルス)に感染していると細胞に変化が生じ、異形成上皮となってしまいます。異形成上皮は次第にがんへと変わる可能性を持っています(図5)。

子宮頸がんの自然史

HPVウイルス
 HPVは人類と長いつきあいのあるウイルスのひとつです。70以上もの種類が知られ、皮膚やのど、子宮腟部や陰茎、肛門などの粘膜に感染し、さまざまな病気を引き起こします。HPVウイルスはおそらくヒトからヒトへ、性交渉を通じて伝えられてきました。子宮頸がんを性感染症と考える研究者もいるくらいです。

 子宮頸に感染するウイルスだけで何種類もあり、大きく悪性型と良性型に分類されています。悪性型にはHPV16、18、31、35、51、52などが、良性型にはHPV6、11、42、43、44などがあります。悪性タイプのHPVウイルスが持続的に感染すると、子宮頸部異形成から子宮頸がんへ進展することがある、と考えられています。良性型HPVでは異形成になっても自然に治ってしまうと考えられます。

 持続的な感染が起こるのは、免疫によって排除されないためです。よく知られているようにウイルスが原因で起こる病気(風疹、耳下腺炎、突発性発疹など)は、1度かかると2週間ぐらいで抗体というタンパク質が体内につくられ、ウイルス感染した細胞を破壊するとともにウイルスも排除され治ってしまいます。免疫という状態は生涯維持され、2度と同じウイルスで病気が発症することはありません。

 しかし、HPVウイルスの排除には平均2年もかかる上、5年以上持続感染したり、異なった型のウイルスに次々と感染したりすることもあります。悪性型のHPVウイルスに感染した上皮細胞内でつくられるタンパク質は、細胞に異常を起こす働きを持っています。細胞の分裂にブレーキをかけるタンパク質や、傷ついたDNA(デオキシリボ核酸)の複製を防ぐ働きをするタンパク質を壊してしまうのです。こうして、子宮頸部の細胞は異常DNAをもったまま無軌道な増殖を繰り返すことになり、がん化に好都合な条件がつくり出されてしまいます(図6)。

子宮頸がんの予防と検診
 HPVウイルスに感染しなければ子宮頸がんにならないか?答えは「ノー」です。細胞のがん化は加齢現象のひとつでもあり、他の病気で死ななければ、がんになる確率は自然に高くなります。

子宮頸部細胞診の結果について

 しかし、子宮頸がんの好発年齢は上皮内がん(がんのごく初期)が30歳代、浸潤がんは40歳代です。つまり、加齢ではなく生殖活動の活発さと関連するがんなのです。近年、好発年齢が若年化しています。理由については客観的科学的根拠に乏しく、誤解と偏見を生むことがあるので、ここでは言及しません。ただ、性交経験のある女性なら誰にでも、HPVウイルス感染の可能性があるといえるでしょう。

 ですから、子宮頸がんの予防法はありません。早期発見が第1です。前がん状態や早期がんなら子宮の働きを残したまま手術で治すことができます。市町村の事業である「子宮頸がん検診」は2004年4月から、それまで30歳以上だった対象者が20歳以上に引き下げられました。背景には子宮頸がんによる死亡者が、30歳代で増えてきたことが挙げられます。

細胞診の実際 子宮頸がん検診は細胞診といい、子宮の入り口の部分からこすり取った細胞をスライドグラスに貼り付け、染色・観察します。さまざまな異型細胞やがん細胞の有無を、細胞検査士という専門のトレーニングを受けた技師が検査し、細胞診専門医という資格を持った病理医が診断します。微妙な違いを持つ細胞を探し出すのは大変な仕事です(図7)。

 医療保険は適用されませんが、悪性型HPVに感染しているかどうかを自分で調べる方法もあります。県内在住なら県健康づくり財団のホームページ(http://www.gunmanet.or.jp/gunma-hf/)からアクセスしてみてください。通常、細胞診は検診車や医療機関へ出向かないと受けられませんが、自己採取で(そのため100%の精度を保証するものではありませんが)悪性型HPVに感染しているかどうかを検査できます。

 悪性型HPVウイルスに感染しても、すべての人が子宮頸がんになるわけではありません。たとえ感染しても子宮頸がんにまで進むには、感染した人の免疫をくぐり抜けることや、がんに適した遺伝子異常の蓄積など確率的な問題もあるからです。ただごく一部の人ががんになるとしても、可能性のある年齢集団すべての人が検診に参加しなければ意味がありません。

 子宮頸がん検診の有用性は保証済みです。子宮頸がんによる死亡者が先進諸国で年々減少しつつある中、日本では横ばいから漸増に転じています。原因はひとつではありませんが、検診率の低さがその最大の要因です。なるべく多くの20歳以上の女性が子宮がん検診を受けるようになれば、日本でも子宮頸がんで亡くなる人は間違いなく減るでしょう。

 ちなみに男性のHPV感染がどういう経過をたどるのか、女性に比べてよく分かっていません。子宮頸がんと同じくHPVウイルスが関係する男性のがんは陰茎がんですが、頻度は子宮頸がんの60分の1以下です。

子宮頸がんの治療
 異形度1、2(軽度異形成、中等度異形成)のうちは治療せず、経過観察(定期健診)が普通です。米国などでは、異形度2で悪性型HPV陽性なら、円錐切除術やレーザー蒸散といった治療を行いますが、日本では異形度3(高度異形成、上皮内がん)になって初めて治療を行うことが多いようです。いくら子宮が残せるといっても、治療で子宮入り口の一部を切り取ってしまうのですから、妊娠しにくい、流・早産しやすい、月経痛がひどくなる?などの可能性があり、安易に行うべきではないとされるからです。表1は、子宮がん検診で異常が発見された患者さんへの説明、私がに使っている資料です。

 進行すると子宮を摘出せざるをえなくなります。子宮頸がんの確定診断には、細胞診検査の他に、病巣を拡大してみるコルポスコープ観察やねらい組織診などを行います。内診の他に、MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピューター断層撮影)などで病気の進行度を決定します。初期は、子宮筋腫など良性疾患と同じ「単純子宮全摘術」という手術で済みますが、準広汎性子宮全摘術、広汎性子宮全摘術と次第に大きな手術を行わなければ治りにくくなり、それに伴って手術後に患者さんが受ける不利益も多くなります。

 子宮頸がんの多数を占める扁平上皮がんは、放射線が良く効くがんのひとつです。手術を受けたくない人や手術のできない人、あるいは手術より放射線の方が治る率が高い進行度では、放射線療法が行われます。

 子宮摘出でも放射線療法でも、子宮の機能が失われることに変わりありません。子宮と隣り合った場所に存在する卵巣を残せるかどうかなども、個々のケースで検討しなければなりません。子供を産みたいという女性は、20歳を過ぎたら子宮がん検診を受けてほしいと思います。

子宮体がんはホルモンバランスが影響?
 月経異常が子宮体がんに関係することがあると述べました。少し詳しく説明します。

 月経異常や無月経の原因や病態はさまざまですが、子宮体がんと関係があるのは、女性ホルモン(エストロゲン)だけが子宮内膜に作用し、周期的な黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されない状態です。言い換えれば、排卵がなく黄体ができない状態です。

 エストロゲンはエストロゲン受容体のある細胞に対して細胞増殖刺激作用を持ち、子宮内膜細胞に働いて子宮内膜を厚くします。しかし、プロゲステロンが作用しないと、「分泌期子宮内膜細胞」という休止期の細胞にならず、子宮内膜細胞はひたすら増殖(分裂)を続けます。

 このような状態になると、なぜがんが起こりやすくなるのか、まだよく分かっていませんが、細胞の中にあるDNAという遺伝情報を伝える設計図が、さまざまな理由で変化することと関係があるようです。細胞分裂の際にDNAの複製ミスは増幅されやすく、がん細胞への変化は分裂の盛んな組織により多く起こるからです。

 子宮頸がんに異形成という前がん状態があったように、子宮体がんにも「子宮内膜増殖症」という前がん状態があります。単純性増殖症から複雑型異型子宮内膜増殖症まで程度はさまざまです。

 子宮体がんは、こうしたホルモン環境から起こることが多いのですが、他のがんと同じように、加齢による細胞の老化現象として起こるがんもあります。すべての子宮体がんが体質によるものではありません。

子宮体がんと体質
 無症状の前がん病変を発見する方法は確立していません。リスクの高い「持続的高エストロゲン状態」にならないよう注意することが大切です。たとえば、初潮以来月経が不順で排卵しにくい「PCO(多嚢胞性卵巣症候群)」という病態や、40歳以前の若年子宮体がんの原因となる「無排卵周期症」です。

 持続的高エストロゲン状態となって子宮内膜細胞が厚くなると、血液の供給が乏しくなって一部の細胞がはがれ出血を起こします。普通の月経に比べて、量が少なくだらだらと長く続くのが特徴です。これを「無排卵周期症」と呼んでいますが、月経と勘違いして見逃しがちです。出血するほどエストロゲンが分泌されない場合には、子宮内膜は厚くなったまま無月経となることがあります。これを「第1度無月経」といいます。

 こうした月経異常と関係するのが肥満です。極端な体重増加はPCOによく似たホルモン環境を引き起こし、無排卵周期症や第1度無月経を引き起こすことがあります。45歳を過ぎたころから月経周期が短くなったり、その後間隔が長くなったりする女性は多いですが、閉経近くなると卵巣機能の低下で無排卵周期症が起こることもあります。

 また、副腎皮質などで産生されるホルモンは脂肪細胞で女性ホルモン(主としてエストロン)に変換されるので、太っていると閉経後も女性ホルモンが比較的高レベルで維持されます。つまり肥満は、乳がんや子宮体がんなど女性ホルモンに関係するがんのリスクを高くするわけです。

 ただし、やせていても子宮体がんになりますので、誤解なさいませんように。

子宮頸がんと子宮体がんの画像診断(正常との対比)子宮体がんの予防と検診
 子宮体がん検診の公費補助対象は、初期症状である「閉経後も不正子宮出血のある人」です。最初の検査はやはり細胞診ですが、子宮頸がんに比べると子宮体がん検診の有効性は低いとされています。

 ですから、閉経後に不正出血のある人は市町村の集団検診だけでなく、婦人科で積極的に検査することが大切です。症状が出た時にはがんは進行している、とよくいいますが、子宮体がんの場合は、不正出血がないまま突然進行がんになることは少ないので、怖がらずに診察を受けてください。

 集団検診に導入している市町村はまだ少ないのですが、経腟超音波断層検査を行うと、子宮内膜の厚さを簡単に計測できます。閉経前なら15以上、閉経後なら5以上あると子宮内膜増殖症や子宮体がんの可能性があるとされます。細胞診だけでなく超音波断層法を併用すると見落としが少なくなります。確定診断には子宮内膜組織検査が必要です(図8)。

子宮がん予防のための覚え書き子宮体がんの治療
 単純型子宮内膜増殖症などでは、黄体ホルモン補充療法や無排卵なら排卵を起こせば正常に戻すことができます。しかし複雑型異型子宮内膜増殖症になってしまうと、高用量の黄体ホルモン療法でも正常に戻せる可能性は低くなり、がん化への道をたどります。

 治療はいずれの進行期でもあまり変わりありません。放射線の比較的効きにくい腺がんが大多数を占めますので、手術が第1選択となります。

 卵巣を残すのはお勧めできません。リンパ節転移が多かったり、おなかの中に広がっていたりすると予後(治る確率)は悪くなります。手術で摘出した組織の病理検査の結果、再発リスクが高いと考えられる場合には、抗がん剤の投与や放射線治療が追加されます。

子宮頸がんと子宮体がんの画像診断(正常との対比)おわりに
 がんで死なないためには、予防と早期発見、早期治療が重要です。ところが子宮がん検診の受診率は横ばいです(図9)。

 将来、子宮がん罹患率は現在の4位から2位に上昇すると危ぶまれています(図10)。子宮頸がんは「ウイルス性発がん」のひとつです。ウイルスが原因で起こる多くの病気にワクチンが開発され、予防接種を受ければかからなくても済むようになりました。子宮頸がん予防にも、HPVの6、11、16、18型に効果のあるワクチンが今年6月、アメリカで認可されました。

 ワクチンの接種対象はこの4タイプのHPVウイルスにまだ感染していない、9?26歳の女性です。開発した製薬メーカーによると、ワクチン接種で子宮頸がんの70%、尖圭コンジローマなどの90%は防げるとしています。

 もうすぐ日本でも、さらに高機能なワクチンが開発され、利用できるようになるでしょう。今のところはHPVウイルスに感染しない努力が、子宮頸がん予防には必要です。表2に、記憶に留めてほしいことをまとめましたので、ぜひ参考にしてください。


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