|
||
|
|
||
![]() |
||
|
がんを知る 肝がん 群馬大学大学院医学系研究科 病態制御内科学 助教授 高木 均 ![]() 現代は3人に1人はがんで亡くなる時代です。わが国で肝がんは肺がん、胃がん、大腸がんに次いで4番目に多いがんとなっています。年間3万人を超えるとされる肝がんによる死亡者は今のところ増加の一途ですが、インターフェロン治療などにより2015年あたりをピークに減少に転じるとされています。 肝がんの原因はいったい何なのでしょうか? その前に肝臓自体について簡単に説明します。
肝臓の解剖と働き 「肝心要」という表現がある通りその働きはまさに重要です。食事から入る栄養分、毒物、薬などは小腸を主体とする消化管で吸収された後、すべて「門脈」という血管を通して肝臓に到達します。肝臓では2500億個の肝細胞が働いており、これら栄養素の一部を貯蔵、代謝して必要なかたちで全身に分配する一方、毒物を解毒しています。貯蔵するものの中にはブドウ糖、脂肪、タンパク質をはじめビタミンなど生体にとって必須な物質が含まれます。
がんの原因、肝がんの原因
中でも肝臓がんは最も原因がはっきりしているがんのひとつで、多くはB型、C型肝炎ウイルスの感染が原因です(図3)。つまり、ウイルス肝炎が進行していった結果、急性肝炎から慢性肝炎、肝硬変へと進行し、その過程で肝がんが発生するのです(図4)。この図で示すように肝がんは突然正常な肝臓に発生することはまずありません。ほとんどが肝硬変ないしは慢性肝炎から発生します。
さらに最近、メタボリック症候群に代表される糖尿病、肥満、高脂血症では、アルコールを飲まなくても(1日にビールで500ミリリットル以下程度)、アルコール性の肝障害に似た脂肪肝を引き起こすことが分かってきました。これを「非アルコール性脂肪肝」(NASH、ナッシュ)と呼びます。今後、ウイルス性肝炎の次に肝硬変、肝がんの原因になるとされ、現在患者が増加しています。メタボリック症候群になると、肝炎ウイルスがなくても肝臓に悪影響が出る、と考えてください。
多い肝芽腫などに分類されます(表2)。 これら原発性に対し、「転移性肝がん」は主に胃、大腸などの腹部臓器から門脈に乗って肝臓に飛び火、すなわち転移して発育するものを指します。胃がんや大腸がんなどが進行した状態で、原発性肝がんに比べると患者はむしろ多いのですが、その原発巣の種類により治療法が大きく異なります。 このため今回は原発性肝がんに絞って解説します。特に、原発性肝がんの中で最も多い「肝細胞がん」(以下肝がん)の診断、治療、予後について述べていきます。
このように全く症状がないことがある一方で、肝臓病が進行すると、黄疸((体が黄色くなること)、かゆみ、皮膚の赤みが増す(血管拡張や蜘蛛状血管腫と呼ばれる赤いしみのようなあざ)、むくみ、鼻血や吐血など出血症状、疲れやすい、足がつれるなど、さまざまな警告のサインが出る場合もあります。 肝硬変の症状はほかに、静脈瘤という食道・胃の血管が数珠玉のように膨らむ病気があり(図4)、大吐血をして発見されることがありますし、肝性昏睡といって、肝臓で解毒できなくなった毒物が神経に影響し意識障害で気付くこともあります。ただ、こうした症状で肝がん自体が初期に発見される人はまれで、本人が重く受け止めず見過ごされ、気付いた時には進行肝がんだったということが往々にしてあるのです。 図4は一般的なB型、C型肝炎の進行過程を示したものです。どちらも進行すると肝硬変、肝がんを併発する率が上昇しています。肝硬変になるとB型では年率3パーセント、C型では年率7パーセントで肝がんを合併する確率があるとされ、例えばC型肝硬変の方が100人いると7年でおよそ半分の50人が肝がんになることになります。 こうした手遅れの患者を減らそうと、2002年度から、40歳以上を対象に「肝炎検診」がスタートしました。07年度までの5年間に限り、5歳刻みでB型、C型の肝炎ウイルスを血液検査で調べる試みです。この結果、多くの隠れB型、C型肝炎患者が発見されました。 しかし、その受診率たるやせいぜい30―40パーセントに過ぎず、特に都市部で低い傾向が見られました。忙しいさなかに検診を受けていられない、受けてもその後の精密検査は放っておくというように、県や市町村により対応が異なることから、検診の充実が叫ばれています。 医師側も、患者や、非専門医に対して、待ちの姿勢でなく、こちらから出向いて検査治療の必要性を説明するなどの取り組みが始まっています。このような機会にはぜひ、ご自分が肝臓病にかかっていないかどうかをチェックし、「遅すぎた」ということがないようにしていただきたいものです。
肝がんを診断するには、こうした肝臓の働きに応じて変化する血液成分のうち、「腫瘍マーカー」と呼ばれるがん細胞がつくり出す物質で診断する方法があります(図5の1番下)。アルファフェトプロテイン(AFP)、ピブカツー(PIVK?U)がその代表です。AFPはがんでなくても上昇し擬陽性反応(にせの陽性)を示すことがあるため、AFPを電気泳動で分類し、3番目の分画に含まれるL3と呼ばれる糖タンパク質も、日本で開発された肝がんの特異的なマーカーです。
画像診断(図6)
腹部エコー(超音波検査、図6a) 危険群の人は3カ月ないし6カ月に1度、この検査を受ける必要があります。超音波は、肺や胃腸など空気を含んだ臓器で見えない部位が少なからずあるのが弱点で、年に1度は次に述べるCTを撮ることが勧められています。
CT(図6b)
MRI
血管造影 ただ動脈を穿刺するため、検査後、止血のために一定時間の固定・圧迫・安静を必要とし、多くは入院の上行われています。最近はこの血管造影にCTを組み合わせた血管造影下CT(CT―AG)という検査法が普及しています(図6c)。さらに2次元的な血管造影にCTを組み合わせることで、より感度の高い3次元の画像が得られるようになりました。
腫瘍生検 ただ画像が非典型的で確定診断がつかないときなどは、この腫瘍生検が有効です。細長い中空の生検針を使い超音波で狙いをつけて細胞を吸い取る方法で、慢性肝炎などの診断にも多く用いられています。 これらを駆使して、リスクに応じて数カ月に1回、血液検査、画像診断を繰り返し、たとえ1度でがんが見つからなくても根気よく行う必要があります。主治医から言われなくても、時期が来たら検査を自分から申し出るくらいの用意周到さで診断に臨んでください。
また、これらの治療ができないほど肝臓の働きが低下していて、かつ一定の基準を満たした人には、肝臓移植を行います。それぞれの治療法の特徴を述べてみましょう。
切除(手術療法) それでも肝機能の悪い肝臓を切り取るわけですから、切除後の肝臓に必要な機能が残っているかどうか評価することが大切です。肝臓には再生という特徴的な機能が備わっているので、正常の肝臓であれば4分の3切り取っても元の大きさ、働きに復活できます。ですが、肝硬変などでは当然のことながら再生する力は弱くなっていますから、肝がんの大きさと場所によって肝臓の切除範囲を見極め、切除後の肝臓の働きを推測して手術療法の適応を決めます。 かつて肝切除は小さながんに適用していましたが、最近は局所療法に譲り、むしろ5センチを超える大きな肝がんや、周辺臓器との関係で局所療法が困難な症例で採用される傾向があります。
局所療法
ただし、高熱で組織を焼いてしまうため、胆のうや胃など周辺臓器が巻き込まれないよう配慮したり、患部が見えにくい場合はCT画像の下に針を刺したりなど治療しにくい場合もあります。
この治療で注意を要する点は、門脈の血流が保たれているのを確認することです。そうでないと、肝臓を栄養する動脈、門脈ともに血流がなくなって、肝不全を引き起こしてしまい、TAEは行えなくなります。
肝移植 肝硬変自体の死因トップが、肝がんの併発によるがん死です。つまり、最も多い肝臓移植の適応疾患は肝がんということになりますが、脳死移植ドナー(臓器提供者)が非常に出にくいわが国では生体肝移植が主流です。肝がん研究会所属の全国の医療機関では、00―03年の4年間で肝がん88例に肝移植が行われ、1年生存率は66%の成績です。群馬大学では17例の肝がんに移植が行われ、1年生存率は70・5%です。以前であれば治療できないような患者の中にも、肝移植で一命をとりとめた方が何人もいます。
生体移植治療は肝臓の提供者が不可欠で、誰にでも行える治療ではありません。京都大学では03年に移植肝提供後、ドナー自身が肝不全となり、肝移植を受けたが死亡する、という痛ましい出来事がありました。群馬大学でも昨年、ドナーが下半身まひとなり、大きく報じられました。 患者を救うために、患者のみならず健康な近親者にもメスを入れる生体肝移植は、家族の崇高な犠牲的精神の上に成り立っています。肝移植は技術として進歩してはきましたが、あくまで最後の手段です。移植後も免疫抑制剤の服用、拒絶反応、ウイルス肝炎の再発などを伴い、経過は決して楽ではありません。今後は幹細胞移植(肝臓に分化し得る細胞を肝臓、体内へ注入する治療法で、まだ実験段階だが、海外では試験的に開始されている)など移植に代わる治療法を推進させ、移植をしなくてもすむような時代が来るようにしなければなりません。
緩和医療
予後 これには2つの理由があります。何度治療しても、背景にある肝炎、肝硬変が前がん病変で再発するという事実、そして治療自体が肝臓の働きを弱め、肝不全という寿命を縮める要因を増加させてしまう、ということです。 ですから肝がんの治療には集学的治療が大切になってきます。これは一つの治療にこだわって肝臓の働きを損なうのではなく、その都度最もふさわしい治療法を選択するというものです。1人の患者が最初は手術を受け、その後の再発でラジオ波治療、肝動脈塞栓療法を受ける、ということがごく一般的に行われています。つまり、治療を学問的に集約して行うのが集学的治療であり、そういう治療を受けた患者は明らかに長生きされています。
予防 その最たるものはB型、C型肝炎ウイルス自体を抑制、排除する治療です。現在B型、C型肝炎にかかっている人は将来肝がんになる可能性が高く、既に肝がんになってしまった方は治療を続けていてもさらに2回、3回と肝がんができる確率が高いわけです。 肝硬変になる前にウイルスをなくしてしまえば、肝がんの発生が抑制されることは証明済みです。B型肝炎で活動性のある場合はラミブジン、エンテカビル、アデフォビルなど、C型肝炎ではインターフェロン、リバビリンという抗ウイルス薬を併用した治療がそれに当たります。ウイルスの活動を低下させ、あるいは根絶やしにしてしまうことが、ひいては肝がんの予防につながります。 また、アルコール性肝障害の方はアルコールを控えること、先に述べたNASHでは肥満、糖尿病の改善が予防になります。このほかレチノイドと呼ばれるビタミンAの誘導体やビタミンKが、肝発がん予防に有効というデータがいくつも出始め、現在日本でその効果を確認中です。
最後に 肝がんは今後約10年は増加すると予想されていますが、インターフェロンによるC型肝炎治療で肝がん発生数が抑制され始めたという報告もあります。肝がん危険群(B・C型ウイルス肝炎、脂肪性肝炎)を絞り込むのは比較的簡単なので、がんになる前に危険群を治療すれば死亡率を低下させ、ひいては医療費の抑制、患者や家族のQOL(人生の充実度)の改善につながります。 その実現には肝炎検診が重要ですが、いまだ実効をあげているとは言い難く、受診率の低さに驚くばかりです。ぜひ怖がらずに検診を受けていただき、知らないうちに肝臓病が進行してしまうことがいかに大きなマイナスになるかを、認識してほしいと思います。 肝臓病自体は進行しなければ痛い、苦しいなどの症状があまり出ず、放置されがちですが、肝臓病を甘く見ないでほしいと申し上げたいと思います。肝臓病、肝がんは長期に闘わねばならない病気です。むしろ病気とも主治医とも長く付き合ってやる、というくらいの気持ちで根負けすることなく闘病してください。そのためにも主治医と肝臓専門医を活用し、適切な治療と経過観察をしていただくようお願いします。 インターネットで日本肝臓学会肝臓専門医が検索できます。ご利用ください。(http://www.jsh.or.jp/nintei/senmoni.html)
|
| △TOP |