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女性に多い便秘
群馬大学大学院医学系研究科 病態総合外科(第一外科)
助教授 浅尾高行
「食物繊維と水分を多くとり、適度な運動をすること」は、便秘の予防法としてよく知られています。しかし、普段から心掛けているのに効果がなく、下剤に頼るうちに次第に慢性化し悩んでいる女性はたくさんいます。女性に多い便秘のタイプは腸の運動が低下することで起こる「慢性弛緩性便秘」です。便秘を防ぐには、正常の排便がどのように調節されているかその仕組みと、最近注目されている便秘の原因を理解しておくことが大切です。
なぜ多い女性の「便秘」
日本人の5人に1人が便秘症といわれています。特に女性に多く、しかも慢性化し長い間悩んでいる方が多いようです。その理由はさまざまですが、女性の場合、骨盤が広く、排便時に直腸にたまった便を押し出すのにかける腹圧が直腸まで伝わりにくいという解剖学的な特徴に加え、排便に必要な腹筋が男性に比べて弱いことも関係しています(図1)。また、女性ホルモンは腸での水分吸収を増加させる働きがあるので、スムーズな排便に必要な水分が便に含まれなくなって硬い便となり、排便が困難になります。また男性に比べ、外出先で排便を我慢する傾向があるため、次第に排せつ中枢が抑制され、排便をしたいという感覚、つまり「便意」がなくなり、さらに便秘が進むという悪循環が起こります(図2)。
痔と便秘
女性が慢性の便秘になる原因の1つに肛門疾患があります。特に若い女性に多い、切れ痔「裂肛」は、排便直後にしみるような痛みが特徴です。このため、排便を我慢していると、直腸にたまった便から水分が吸収され、ますます硬く肛門を傷つけやすい便となります。この悪循環を繰り返すうちに肛門の傷は硬くなって(瘢痕化)肛門が広がりにくくなるので、さらに裂肛が起こりやすくなります。肛門狭窄を伴うようになった裂肛は手術の適応です。日帰り手術が可能です。
腸の強収縮波
胃から腸に食べ物が送られると、腸は消化液と食物を混ぜながら次第に食物を送っていきます。これが腸の運動、すなわち蠕動運動です。消化吸収が終わると普段の収縮とは異なる強い収縮波が起こります。この大波は胃から肛門に向かってうねりになって伝わり、腸に残った残りかすは一掃され肛門近くの大腸にたまって便ができます(図3)。おなかが空いたときにグーグー鳴るのはこの収縮のためです。この波は、モチリンという消化管ホルモンが周期的に分泌されて引き起こされることが分かっています(群馬大学名誉教授・伊藤漸著『胃は悩んでいる』岩波新書、1997)。
便秘とダイエット
女性が慢性の便秘に陥るきっかけとして最近多いのは、ダイエットです。食事量や回数の減少で便のかさが減り腸の動きが弱くなると、消化管運動の定期的なサイクルが狂い、排便習慣が壊れます。また、夜遅い食事や間食などで食事の時間が不定期になると、正常な腸管運動が起こりにくくなり便秘の原因となります。
ストレスと腸の運動
ストレスが体にかかると腸の運動が抑制されて動かなくなります。例えば手術を受けた患者さんの腸は3?5日は全く動かなくなり、排ガスや排便は止まります。よく虫垂炎で手術を受けた後、おならがでると「おめでとう」と言われます。これは腸が動き出したこと、つまり経過が良好である証拠だからです。
侵襲が加わった状態では、人間の体は生命の維持に大切な心臓や呼吸器にエネルギーを集中してストレスに対抗するようになります。腸は栄養の吸収という大切な機能を持っていますが、非常時に備えて、ある程度の栄養を貯蔵しているので、侵襲時には腸管はお休みをする設定になっています。つまり、ストレスが加わることで腸の動きが鈍くなり便秘になりやすくなるという結果を生じます。
グルメと腸管の運動
近ごろ、テレビのグルメ番組では「はしで切れる」「口の中でとろける」という表現が「おいしい」ことの代名詞のように使われています。硬くて歯ごたえのある食事は、特に女性に不人気ですが、よくかんで食べることは腸の運動を刺激し便秘解消には大切です。
食事をとる際に食物をかむという動作(咀嚼)は、神経を介して胃や腸に「これから食事が行くぞ」という信号を出し、消化吸収の準備が始まります。つまり口を動かしてかむことが、胃腸を働かせるスイッチになっているわけです。
運動療法
運動は好きでやっているのに便秘が治らない、という患者さんがよく受診されます。ところが週に1回、水泳やテニス、ゴルフをするといったような、毎日の運動ではないことが多いようです。腸は毎日働いて便をつくっているわけですから、毎日運動しないと便秘の解消には役立ちません。
本県は女性の自動車免許の所有率が特に高く、どこへ出掛けるにも自家用車を利用します。確かに便利ですが、便秘症の方にはよくない状況です。毎日日課として運動すること、具体的には生活の中に運動を取り入れることをお勧めします。
便秘の改善策
便秘に効く運動とは
腹筋が弱く、排便時に押し出す力が弱いことが、女性に便秘が多い原因の1つです。腹筋を鍛えると同時に、おなかをねじるような運動が腸の刺激になります。足と逆の手を同時に前に出す運動、つまり大きく手を振って歩くことが、この目的にあった簡単な運動です。例えば、車で通勤している人には、バス通勤をお勧めします。自宅からバス停が近いなら、いくつか前の停留所で降りて歩くようにしましょう。
定期的な食事が大切
食物繊維(消化されない成分)が多い食事は便のかさが増え便秘には有効です。また3食定期的に食事をとることが重要です。排便に必要なのは腸の運動、つまり「蠕動」だからです。定期的に、しかもよくかんで食べることが大切です。
下剤の種類と使い方
便秘の治療で下剤は最後の手段です。下剤には、緩やかに効く緩下剤と一気に便を出す目的で使用される下剤があります。後者は注腸造影検査などにも使われる下剤で、腸を強く刺激して強制的に排便を起こします。これに対して緩下剤は腸管内の水分を増やしたり腸を緩やかに刺激したりして排便を起こさせます。
慢性的な便秘の人は、数日間排便がなくおなかが張ってどうしようもなくなった時点で比較的強い下剤を一気に飲むことが多いようですが、この方法では定期的な正常の腸管の運動を取り戻すのがさらに難しくなります。慢性便秘では緩下剤を1日3回、量を調節しながら毎日使用し、本来備わっている腸の周期的な運動と正常な排便習慣を取り戻すようにします。
大腸がんと便秘
便秘は大腸がんの重要な症状です。排便習慣の急な変化(排便の周期が変化する、下痢と便秘を繰り返す)や血便を見逃さないようにしましょう。気になる方は専門医での検査をお勧めします。
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