健康百科
アトピーのはなし 成人のアトピー性皮膚炎について
群馬大学医学部附属病院 皮膚科
天野博雄
アトピー性皮膚炎はいろいろな原因が複雑に絡みあって起こる皮膚の病気です。これまでアトピー性皮膚炎は子供のころに発症し、大人になると治ると言われていました。しかし、最近では子供のころに皮膚のトラブルがなくても、成人になって突然アトピー性皮膚炎が発症する人たちが増えています。
アトピー性皮膚炎とは? 本当にアトピー性皮膚炎?
まずアトピー性皮膚炎について説明します。アトピーとはラテン語でatopia(奇妙な)という意味です。aは「否定詞」、topiaは「本来の場所に存在する」ということですから、atopiaとは「あるべき場所にない=正常ではない」ということになります。ちなみに中国語ではアトピー性皮膚炎のことを異位性皮膚炎といいます。よく皮膚にブツブツや赤いものがあるとアトピーと思われる方が多いのですが、そんなことはありません。アトピー性皮膚炎に似ている皮膚の病気は他にもたくさんあります。そのためアトピー性皮膚炎と診断するためには、このアトピー性皮膚炎に似ている別の病気を除外する(鑑別する)ことが大事です。
さて、ある病気をきちんと診断するために専門医で定めた基準案というものがあります。これを診断基準と言います。高血圧であれば高血圧のための診断基準、糖尿病であれば糖尿病の診断基準があります。同様にアトピー性皮膚炎にもアトピー性皮膚炎の診断基準があります。表1に日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎の定義・診断基準を示します。難しそうなことが書いてある、と思われるかもしれませんが、ここで見て頂きたいのは、診断をするためにはアトピー性皮膚炎の特徴的な皮膚の状態が分かること(診断基準2番の特徴的皮疹と分布)、そして他の皮膚の病気との鑑別が出来るかということ(除外すべき診断に挙げられている病気を鑑別する)です。このことが分かる医師のみがアトピー性皮膚炎と診断できるのです。
アトピー性皮膚炎の原因は?
アトピー性皮膚炎の原因は"アレルギー"と考えられがちですが、それだけではありません。乾燥肌(バリアー機能異常)、ストレスなどさまざまなものが原因となり、また同時にそれらはアトピー性皮膚炎の悪化因子にもなります。病気の原因・悪化因子は患者さん一人一人違います。その悪化因子を見つけることが出来るとアトピー性皮膚炎のコントロールも出来るようになります。
成人のアトピー性皮膚炎について
発症の経過
成人のアトピー性皮膚炎は次のように分類できます。
1. 幼小児期にアトピー性皮膚炎があっていったんよくなっていたが大人になってもう一度出てきた場合
2. 幼小児期から継続して皮膚炎がある場合
3. 幼小児期には何もなかった人が急に皮膚炎を発症する場合
最近増加傾向にあるのは?の大人になって急に発症する場合です。顔、首などが急に赤くなってくるという症状ではじまります。
皮膚炎の特徴
1. いわゆるボツボツが子供のころに比べて大きくなること(皮膚科の専門用語では痒疹と言います)があります(図1)。また、子供では肘、膝の内側(屈側)に皮膚炎が起きることが多いですが、成人では肘、膝の外側(伸側)に皮膚炎が出てくる傾向があります。
2. 特に顔、首の皮膚炎が目立つ。
以前は顔の赤みについては治療でよくならないことも多く、赤ら顔(atopic redface)と呼ばれ、成人のアトピー性皮膚炎の中で大きな問題でした。この赤ら顔について少し説明します。
赤ら顔の原因
1. アトピー性皮膚炎の悪化
2. 皮膚に合わない塗り薬の使用(かぶれ)
3. 体用のステロイド外用薬を顔に塗ったために起こる酒さ様皮膚炎
4. 日光によるものがあります。これらの症状は自分では気がつかないことも多く、専門医による定期的な診察が不可欠です。?については皮膚に合わない薬をそれと気付かずに一生懸命塗っている場合です。これにはもともとかぶれやすい薬を使っている場合と普通ならかぶれにくい薬がたまたまかぶれてしまった場合に分けられます。
一見するとアトピー性皮膚炎の悪化と区別できませんが、専門医による診察で見つけることができます。
また、ステロイドは副作用が怖いとよく言われますが、問題となる副作用は体用の薬を長い期間にわたって顔に使った場合に起こるものです(?)。
これは顔の皮膚が他の部位の皮膚と比べて薬の吸収率が優れているため(例えば前腕に比べると顔では10倍も吸収率が高い)で、専門医の指導のもと、適切な薬を適切な部位に正しく使っていれば副作用は怖くありません。ステロイド外用剤は湿疹の病変をよくするためには欠かせない非常に優れた薬です。少なくとも顔用の薬と身体用の薬は区別して使うことを覚えておいてください。
赤ら顔の治療
顔の湿疹治療は難しいことが多いのですが、これに対して1999年に免疫抑制剤の塗り薬、タクロリムス軟膏が発売されました。使い始めに軽度のほてり、熱感などの刺激感があるのが難点ですが、数日でこの刺激感はなくなることが多く、また従来良くならなかった顔の赤みが劇的によくなることもあります。外用する場合には幾つかの注意点がありますので専門医からよく説明を聞いたうえで使ってください。
成人のアトピー性皮膚炎に見られる合併症
アトピー性皮膚炎では皮膚のバリアー機能が損なわれているため、カポジ水痘様発疹症(ヘルペス)、伝染性膿痂疹(とびひ)、伝染性軟属腫(水いぼ)などの感染症を合併しやすく、十分な注意が必要です(図2)。眼周囲に皮膚炎がある場合には眼の合併症(白内障、網膜剥離)が起こることがありますので眼科での診察・治療を受けることが必要です。
治療・日常生活での注意点
治療については抗アレルギー剤の内服、ステロイド外用剤、タクロリムス軟膏、保湿剤を用います。さらに重要なことは、それらの治療薬をどのように使用するかです。1日何回塗るのか、いつ塗るのか、などちょっとした使用方法(工夫)で効果は変わります。また日常生活での注意点として以下のことが挙げられますが、あまり神経質になりすぎてもいけません。
- 規則正しい生活をする。
- スキンケア(清潔、保湿)、爪切り(掻破防止のため)。
- 刺激の少ない衣服を着用する。
- 環境抗原の埃・ダニ、ストレスなどの増悪因子を可能な範囲で避ける。
最後に
アトピー性皮膚炎の治療の目標は、普通の人と変わりない日常生活を送れるように皮膚炎をコントロールすることです。高血圧の患者さんが、降圧剤を内服し塩分を控え血圧をコントロールすることと同じです。はじめに説明したように、どのような要因が病気の原因・悪化因子になるかは患者さん一人一人違います。そのために私たち皮膚科の専門医は診察を通して患者さん一人一人に応じた治療を見つけ出し、皮膚炎のコントロールを目指しています。
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