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講座紹介

放射線科って?
群馬大学腫瘍放射線学教授
中野隆史

図1 I期肺がんに対する定位照射

放射線科の医師と言われてどんな姿を想像されるでしょうか。明確なイメージが浮かばないのが現実ではないでしょうか。放射線[脚注1]は物質を透過する性質を利用して医療現場では診断ち治療に用いられています。その業務に携わるのが放射線科の医師であり、私たちは主に治療業務を行っています。対象のほとんどが悪性腫瘍(がん)であることから、放射線腫瘍医とも呼ばれます。すべてのがんが対象となりますので、内科や外科をはじめ、多くの診療科と連携して診療を行っています。 また、大学ですので、強度変調照射法、小線源照射法、重粒子線治療法などの先端的放射線治療の開発や、腫瘍の基礎医学的研究も行っています。

なぜ放射線でがんが治るのか?
 がん細胞が正常細胞より放射線に弱いからです。放射線は細胞の遺伝子DNAに作用して、細胞が分裂する能力をなくしたり、細胞自らが死んでいく過程であるアポトーシス現象を誘発させたりして細胞を死に至らしめます。正常細胞にも同じ作用を起こしますが、正常細胞はがん細胞よりも放射線に強く障害から回復する能力が高いのです。通常、放射線照射は1日1回で30〜35回行います。

 放射線を照射する方法は体の外から照射する外照射法と、病変の中、あるいはごく近傍に小さな線源(放射線を出す物質)を留置することで、病変にたくさんの放射線を投与する、小線源照射法があります。これらの方法でほとんどの部位への治療が可能です。小線源照射法は子宮頸がんの腔内照射や舌がんの組織内照射(放射線針の刺入)などでは、手術に匹敵する治療成績が得られています。

放射線治療の特徴
 最大の特徴は臓器を温存することができ、機能を保つことが可能な点です。もうひとつは、局所療法であるため全身的な影響が少なく、外来治療が可能で、高齢者にも適応しやすい点です。がん患者の約50%が治るようになり、がん治療は治るだけではなく、治療後の生活の質(QOL)が重視されるようになってきました。放射線療法はこのような時代の要求に合致する治療法であると言えます。

群馬大学放射線科の取り組み

図2 群馬大学重粒子線治療装置の図鑑図
建屋は55m×45m×15mで、使用イオン種は炭素イオンであり、体の25cmの深さまでのがんの治療が可能です。シンクロトロンの直径が 20m、治療室が3 治療室 と 研究開発のために別に1室を設けています。そのほか、治療計画や患者の経過観察の目的で、治療計画CT装置、MRI装置、PET・CT装置の搭載を予定しております。
 当放射線科は、北関東のほとんどのがんセンター放射線科を含む多くの関連病院を持ち、北関東の中心的な放射線医療機関で、群馬県内の関連病院だけでも年間約2、700例の放射線治療実績を持っています。また、国際原子力機関(InternationalAtomicEnergy Agency :IAEA)の医学領域のリードカントリー事務局として、アジア地域における放射線医療の地域研究協力プロジェクトの調整や監督を行うとともに、毎年、アジア地域の放射線治療関係者を招いて、放射線治療分野の教育ワークショップを開催するなど、アジアの放射線治療の研修拠点となっています。

 放射線が、がん治療に使われはじめてから100年以上がたちます。その間に放射線生物学や放射線治療機器が発達し、放射線治療は急速な進歩を遂げてきました。

 例えば、小線源治療では、遠隔操作式の組織内照射法でボールペンの先程度の線源をコンピューター制御下に、正確に病変部へ送り込み、適切な線量の投与が可能となりました。当科では小線源治療を子宮頸がんや前立腺がんなど積極的に利用しており、特に前立腺がんの治療件数は日本一です。

 外部照射においても当科では強度変調照射法(IMRT)やサイバーナイフ治療、トモセラピー治療といった、CT画像を利用し、コンピューター制御でがん病巣に合わせた照射範囲を設定することが可能となり、正常な部位への照射線量を抑えつつ、がんにより多くの放射線を集中的に投与することができるようになりました。代表的な例は?期肺がんにおける定位照射と呼ばれる方法ですが、良好な治療成績が報告されています(図1)。

 また、当科では、温熱化学放射線療法という、温熱療法[脚注2]や抗がん剤を組み合わせることで、放射線単独では治すことの難しいがんに対しても、果敢にチャレンジしています。直腸がんや食道がん、一部の肺がんなどでは放射線と抗がん剤、温熱療法の三者を組み合わせて治療しています。

 群馬大学では今春、2009年の臨床応用を目指して重粒子線治療施設の建設が始まりました。重粒子線とはヘリウムより重い粒子からなる放射線のことで、通常の放射線治療に用いられるX線よりも生物作用が2〜3倍強力であり、さらに、線量分布の集中性が良いという性質があります。したがって、通常の放射線治療で治癒困難な、いわゆる放射線抵抗性のがんに対しても威力を発揮します。切らずにがんを治す究極の治療法と言えます(図2)。当科が中心となって、この重粒子線治療を推進しています。

基礎研究における当科の取り組み
 現代の医学・生物学研究では、遺伝子工学や細胞間・細胞内シグナルの解析などが主体となっています。当科では放射線生物学におけるこれらの分野の研究を精力的に推し進めています。放射線の中でも特に、腫瘍の放射線抵抗性のメカニズムや正常組織の線維化等の分子生物学的研究や重粒子線に対する生物効果の研究を行っています。重粒子線の抗腫瘍効果などの特異な生物学的性質は既存の放射線生物学では説明が困難な部分も多く、基礎的研究課題においても、ようやく黎明期を迎えたところです。

 また、文部科学省が世界最高水準の研究教育拠点を形成することを目的に競争的なプロジェクトとして行われている21世紀COE(Center of Excellence)プログラムに、『加速器テクノロジーによる医学・生物学研究(拠点リーダー・中野隆史)』が平成16年度の革新的な学術分野として採択され、重粒子線治療に関する研究を積極的に行っています。このメーンとなるCOEプログラムのみならず、各教室員が掲げる多くの基礎医学的研究テーマに対し、国からの科学研究補助金を受けています。

 当教室では、創立以来長年にわたる放射線生物学的研究の実績を持っており、さらには、臨床面で重粒子線治療を推進してきた結果、世界的にも数少ない生物学的研究も行える重粒子照射施設(日本原子力研究所・高崎研究所、千葉・放射線医学総合研究所)との強い連携研究も行っています。

最後に
 日本人には放射線に対するアレルギー的な抵抗感があると言われますが、放射線治療を受ける患者さんは増加の一途です。これからは切らず治す体にやさしいがん治療として重要性は高まるものと考えます。

[脚注1]放射線は1895年ドイツの物理学者レントゲンによりX線(すなわち、わからない線)として発見されました。したがってX線のことをレントゲンとも言います。
[脚注2]温熱療法:がん細胞は熱に弱く、43度以上に加温すると死滅します。また、熱と放射線では効果のある細胞のタイプが異なり、お互いを相補う関係にあります。したがって、両者を併用することは効果的とされています。


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