群馬大学医学部附属病院を日本のメイヨークリニックに
群馬大学特任教授
森下靖雄
火が消えたような前橋
15年前、群馬大学に赴任したときは、前橋の街にはもっと活気があったように思います。萩原朔太郎誕生の地として、また、市の真ん中を坂東太郎である日本一の利根川が悠々と流れる水と緑の都として、あこがれさえ持っていました。
ところが、この数年の寂れようはどうでしょうか? アーケード街の3分の1はシャッターを下ろしています。人通りもまばらです。街中の唯一のデパートも、休日の午後だというのにいずれの階にも買い物客をほとんど見かけません。
わが国のいずれの地方都市も程度の差はあれ、ドーナツ化現象が進み、前橋市と同じ問題を抱えていると思います。特に前橋の場合、市街地周辺にモールやショッピングセンターが次々にオープンし、駐車場の心配もないことから、人の流れがますます市街地を離れているのが現状ではないでしょうか。
医療都市「ロチェスター」
アメリカの小都市ロチェスターに「メイヨークリニック」という世界的に有名な大病院があります。1883年、メイヨー兄弟が父親の要望で救急医療センターを開設したのが始まりで、大学病院にまで発展したものです。かつて小さな田舎町だったロチェスターは、メイヨークリニックの発展ですばらしい医療都市に変貌し、いまや世界中から患者が集まるようになりました。
病院の周辺にホテルやショッピングセンターが必然的に造られ、町そのものもさらに大きく変貌・発展したわけです。まさに医療都市の出現です。
群馬大学医学部附属病院に医療福祉センターを開設(図A)
そこで、群馬大学医学部附属病院を日本のメイヨークリニックにすることは夢でしょうか?
今回、小型重粒子線治療装置の予算が本学につきました。国立大学病院としては初の大型プロジェクトです。放射線医学研究所や日本原子力開発機構高崎量子応用研究所との共同研究も進行中です。
この機会を逃す手はないと考えます。小型重粒子線治療装置施設を中心に、本院に、地域住民のための「医療福祉センター」を開設し、地域住民はもちろん日本国中、さらにはアジアの国々から患者を集め、前橋市をロチェスターのような医療都市にする計画です。実現すれば都市機能は向上し、人口増加に拍車をかけ、前橋の市街地、ひいては本県全体の活性化につながることが期待できます。本院をメイヨークリニックのように全国から患者を呼べる医療施設にすることで、患者や家族のための宿泊施設はもちろん、レストランやショッピングセンターも必要になります。前橋の奥座敷である伊香保温泉も観光ルートに乗り、にぎわうのではないでしょうか。
「医療福祉センター」は小型重粒子線治療装置のほかに、PET、MRIを中心とした人間ドックや遺伝子診断などの検査センター部、患者家族のための宿泊施設、医薬品・医療材料供給センター部、しゃれたレストラン、24時間オープンのコンビニ、保育所、地域住民も利用できるジムなどを併置します。立体駐車場は既に完成・稼働しているので、相当数の車の収容が可能です。
産学連携も大きな力に(図B)
前橋市には豊かな自然環境、全国有数の農業生産、さらには群馬大学への小型重粒子線治療施設導入による充実した医療等々さまざまな特性があります。これらをフルに活用して前橋市の活性化を図ることを目的に今年5月、群馬大学、前橋工科大学、前橋商工会議所が連携し、「中心地活性化のための研究部会」が発足しました。
この3つの組織による産学連携を大いに推進するのです。市街地の中心にサテライトキャンパスをつくれば、学生の若いエネルギーが活性化に役立つに違いありません。
医工連携の推進(図C)
地域の活性化には群馬大学だけではなく本県所在の各大学や企業も参加してもらう必要があります。高齢社会を迎えるにあたって、福祉工学の発展が期待されますが、それには大学と企業の医工連携が必須です。大学は研究開発を、企業は製品開発にまい進することで、各大学と企業間の連携はますます緊密になります。
地元には新しい産業の創出や観光事業に精を出してもらい、人が集まる土壌づくりに一役買ってもらいましょう。宿泊施設や駐車場を完備すれば、当然のことながら市街地の商店街もにぎわい、地元経済の活性化につながるのではないでしょうか。
地域との連携体制(図D)
小型重粒子照射施設の誘致を機に県や市町村、県内医療機関や医師会とも連携を密にすることが大切でしょう。
群馬大学医学部附属病院と県とで推進している「がん疫学ネットワーク」を完備し、小型重粒子照射装置を利用して本県のがん治療成績を上げ、県が推奨する県保健医療計画や三次医療計画の整備とも連携すれば、本県を日本一の長寿県にすることが可能です。
一方、地方公共団体や保健医療機関等との連携、前橋市の健康増進計画(健康まえばし21)を通じて、県民のがん疾患や生活習慣病に対する相談も、群馬大学医学部附属病院内の「医療福祉センター」で対処するようにします。
アーバンビュー・ヘルスタワー構想(図E)
国は、11年度末までに全国に25万床ある医療型を10万床減らし、13万床ある介護型は全廃する方針です。そうなると、計23万床の患者は老人保健施設や在宅に移行させるようになります。
そこで、市街地にアーバンビュー・ヘルスタワーを建設します。アーバンビューとは高いところからの気持ちのよい眺めということです。
上層階は在宅・福祉施設エリアで、健康人の住宅型と介護型の有料福祉ホームとします。健康人の住宅型にはヘルスケアはもちろんのこと、ドクターチェック、健康マッサージがいつでも受けられるようにします。介護型は24時間の介護支援を可能にします。
一方の下層階は商業エリアで、店舗やレストラン、スポーツやリハビリ施設、年中利用できる温水プールを設置します。
首都圏から近い群馬県
首都圏から本県へのアクセスも悪くありません。前橋や高崎など本県主要都市から車で30分のところに伊香保温泉があり、そのほかにも山、湖、スキー場、渓流など豊富な自然に囲まれています。小型重粒子線による治療には入院がほとんど必要ありません。検査や治療で前橋を訪れた際にショッピングを楽しんでもらい、ついでに足を延ばして温泉を満喫し、日ごろの疲れを癒やすのも悪くないのではないでしょうか。
情報を広く行き渡らせるために(図F)
このような計画はみなさんに深く知ってもらう必要があります。この「健康通信倶楽部」や「群馬大学病院だより」、病院ホームページにある病院長通信などを通して宣伝することも大切です。
夢を現実に
町はにぎやかであればあるほど、人が集まれば集まるほど楽しいものです。人が集まれば連鎖反応的に地元経済は活性化され、黙っていても人が人を呼び、地域経済が活性化する好循環が始まります。そのための小型重粒子線治療装置の導入であり、医療福祉センター構想でもあるわけです。
このように考えていくと、群馬大学医学部附属病院を日本のメイヨークリニックにするのも、あながち夢ではないように思うのですが…。
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