健康百科
たばこのはなし
群馬大学医学部附属病院(第一内科) 呼吸器・アレルギー内科
久田剛志
たばこと健康
Tobacco or health : choose health(たばこか健康か -- 健康を選ぼう) これはWHO(世界保健機関)が定める世界禁煙デーの第1回大会(1988年)のスローガンです。「健康を選びますか、それともあなたは健康に相対するたばこをとりますか」と、あたかも二者択一を迫るような衝撃的なものでした。たばこが健康に悪影響を与えることは明らかであり、禁煙はがん、呼吸器疾患、循環器疾患等の生活習慣病を予防する上で極めて重要です。たばこと健康(障害)について書いてみたいと思います。
喫煙によるからだへの影響
たばこを長期間続けた時、どのような影響があるのでしょう?(慢性影響)
■呼吸器系疾患
呼吸器系の症状として、咳・たんが多くなり、障害が起きやすくなります。喫煙により、慢性気管支炎、肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の危険が増大し、肺機能検査により閉塞性障害の頻度が高いことが観察されています。肺は、酸素を取り込む働きをするとても小さな何百万個もの空気袋(肺胞と呼ばれるガス交換を行う部分)が集まった、スポンジのような臓器です。最近注目されているCOPDとは、気管支や肺胞に障害が起こり、呼吸機能が徐々に低下し、呼吸困難に陥る病気の総称ですが、80〜90%は喫煙が原因と言われています。たばこの一服一服がこの空気袋を壊していくため、喫煙者に息切れが起こるのも無理もありません(図1)。単に、動いた時「ゼイゼイ、ハアハアする」という症状に限らず、例えば、坂道や階段を上がるのがつらいと感じたり、長く歩けずに途中で休んでしまったり、若い人の歩く速さについていけなかったりするのも息切れの症状である可能性があります。特にたばこを吸う人では、このような症状が表れた時、COPDが疑われますので、医療機関を受診してください。たばこ関連疾患の多くは、喫煙を開始してから20〜30年経過してから発症し、死に至るので、喫煙量の増加に遅れてCOPD死亡数の増加が起こってくることになります(図2)。また喫煙は、最近話題に上がることの多くなった石綿(アスベスト)曝露による肺病変の発生を促進します。
■がん
喫煙は単独で、がんの原因の約30%を占めます。注目すべきことに、喫煙が肺がん死亡に及ぼす寄与危険度は72%と報告されています。厚生労働省の研究において、喫煙者は非喫煙者の4.5倍肺がんになりやすいことが報告されています(図3)。禁煙をすると、10年、20年と時間が経つにつれ、肺がん発生の危険性が減少していきます。たばこをやめてから9年以内では、吸わない人に比べて3倍ですが、10〜19年では1・8倍、20年以上でたばこを吸わない人とほぼ同じになります。肺がんにならないため、できるだけ早く禁煙することが重要です。その他、喫煙により全身の多くのがんにかかる危険性も高まります。肺がん、食道がん、肝臓がん、膵臓がんなどは難治性がんの代表といわれますが、最近、罹患・死亡ともに増加していることが報告されており、心配されています。
喫煙の慢性影響により喫煙関連3大疾患である慢性閉塞性肺疾患・がん・虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)になりやすくなります。WHOの発表(2002年「たばこ関連死亡」)によると、たばこは世界で年間490万人の死亡原因になっています。このまま対策を講じなければ、2030年にはたばこ関連疾患による死者は、年間約1,000万人になると推定されています。
すぐあらわれる影響(急性影響)
常習喫煙者ではニコチンの作用により、知的作業能率についても上昇と低下の相反する成績が報告されています。また、臓器の血液の流れが悪くなり、肌の老化を促進したり、胃潰瘍の原因になります。また、ニコチンや一酸化炭素の影響により、心臓の負担が増えます。血圧上昇、心拍数増加、末梢血管収縮・循環障害として手足・足先のしびれ感・冷感、肩こり、首のこり、まぶたの腫れなどの症状を来します。もちろん、口臭、髪や服へのにおいの付着なども気になる問題です。美容上の点でも恐ろしいことに、喫煙者では年齢よりも顔のしわが増えたり頬がこけたりして「Smoker's Face(スモーカーズフェイス)」という特有の顔つきになることが知られています。
たばこを吸っていない人にも影響が
受動喫煙と環境たばこ煙
喫煙者の近くにいる人は、たばこの煙を吸い込むことになります。これを「受動喫煙」といい、吸わない人にも大量の有害物質による影響を与えます。室内の環境たばこ煙は、たとえ換気があっても強い刺激作用を及ぼすため、最近特に問題となっています。
妊婦や乳幼児・小児の母の喫煙
女性の喫煙は、月経不順や不妊症の原因になります。また、妊婦がたばこを吸うと、低体重児が生まれやすくなったり、流産や、出生後も乳幼児突然死症候群が起こりやすくなります。乳幼児を持つ女性の喫煙は、たばこの煙と母乳の両方から乳児に悪影響を与えることになるのです。家庭内、特に母親の喫煙で、肺炎、幼児の喘息様気管支炎、学童の咳・たんなどの呼吸器症状が増加します。
たばこの健康障害の原因
たばこの煙に含まれる有害物質
タール、ニコチン、一酸化炭素、微細粒子の4種類に大別されています。タールはさまざまな有害物質が混ざり合ったものの総称であり、含まれる「発がん物質」の数は数十種類に及びます。低タールのたばこでも、発がんの危険性はあまり変わらないと報告されています。ニコチンは、血管を収縮させるため血液の流れが悪くなります。一酸化炭素は、血液の赤血球に結びつき、酸素の運搬を妨げてしまいます。このため、全身の細胞を酸欠状態にしてしまいます。また、微細粒子は刺激により咳やたんなどの呼吸器症状を引き起こしてしまうのです。
依存症と禁煙プログラム
たばこを吸っている人が、たばこをやめたいのに、やめられないのはなぜでしょうか?
これは、たばこのニコチンに依存性(強い習慣性)があるからです。「ニコチン依存症」の人は、たばこがないとイライラするなどの不安症状が現れ、なかなかやめられなくなってしまいます。最近はやめられない人のために、禁煙を支援する医療機関も増えてきました。ニコチンガムやニコチンパッチは、日本でも実施可能なニコチン代替療法です。体内のニコチンを補給しながらニコチン依存症から離脱させる方法です。たばこを吸っている人は、かかりつけの医療機関などに相談し、禁煙を考えてみましょう。
おわりに
今年の世界禁煙デーのスローガンは、「Smoke-free environments(たばこ、煙のない環境)」です。「無煙環境の実現を!」と訴えたものです。日本でも昨年4月から、禁煙治療に対する保険適応が開始され、たばこをやめるための環境が整ってきました。喫煙による健康への悪影響、禁煙による効果を再認識していただきたいと思います。
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