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リレーエッセイ ドクターの呟記(つぶやき) 一歩進化した国に学ぶこと 群馬大学附属病院 核医学科講師 対馬義人
フィンランドという国の名を耳にしたり、新聞の記事に見つけたりする機会が増えてきたように思う。フィンランドの教育は世界一の理想的なものだということだ。教育崩壊などとアワテテいるわが国にとって、学ぶべきことが多いという。その他フィンランドという国から思い浮かぶことといったらどんなことがあるだろう。ノキアやキシリトールはかなり有名になった。森と泉の国・サウナ・ムーミン・作曲家のシベリウス・国会議員のツルネン・マルテイなどといったところだろうか。フィンランド化などとこの国を愚弄し、失笑を買ったどこかの国の元首相を思い浮かべる方もいるかもしれない。 もう10年以上前のことになるが、私はこの国に1年とちょっと留学していた。なんとも説明しようのない漠然とした北欧への憧れと、たまたま得ることのできた北欧限定の奨学金などによる。 フィンランド人はほとんど例外なく恥ずかしがり屋で親切、さらにたいへん親日的である。長年ロシアに苦しめられてきた彼らにとって日露戦争に勝利した日本は憧れであり、第二次大戦中はドイツやイタリアなどとともに枢軸国側にあった。日本に学び、さらにヨーロッパの日本になるべく、もともと粘り強く勤勉なフィンランド人は戦後さらに勤勉になったという。 実際のところ国民の教育水準は非常に高い。たとえば高校進学率はほぼ100%であるが、卒業の時点ですでに2つの外国語(英語とスウェーデン語)の日常会話はOKである。大学ではさらに1つか2つの外国語を学ぶ。それがみな実用レベルであることは、驚異的というほかない。フィンランド語はほかに近縁といえる言語がほとんどなく、文法などむしろ日本語に近い。立場はわれわれ日本人と同じである。日本の語学教育に何か問題があると考えるのが自然であろう。大学まで学校はほぼすべてが公立である。国民幸福のための基本条件であるという。高い教育水準ゆえであろうか、治安は非常によい。 フィンランドは日本と同じ国民皆保険の国である。しかしその他の医療制度はかなり異なる。有床の病院はほぼすべてが公立であり、その守備範囲が定められている。たとえば私の留学していたトゥルク区域の人口は30万人程度であるが、トゥルク大学病院と市民病院の2つしか病院はない。救急車が患者を搬送する病院はこの2つのみであるから、たらい回しといったトラブルは起こりようもない。無床の開業医は多く、最低限の医療設備しかもたないが、ほとんどのプライマリーケア(病気の初期診療)は彼らの仕事である。定期的に大学病院に通院する患者というのはまれであり、病院はあくまで入院治療を必要とする患者のためのものなのである。 病院内での分業も徹底している。たとえば、1000床近い大学病院であるが、執刀の許される脳外科医はわずか2人にすぎず、術後管理などは彼らの役目ではない。医師は診療録に直接記載することはない。すべてテープに吹き込んでおけば、専任のタイピストがタイプしてくれる。真夜中でも、当直のタイピストがいるのである。十分な人材確保と明確な役割分担は、医療の質と能率を高めているように思われた。 もちろんよいことばかりではない。税金は非常に高い。大学教授クラスで、すでに最高税率70%だという。それでも文句を言う人はあまりいない。それだけの税金を負担する価値があるというのだ。 このようなフィンランド社会をどう呼べばよいだろうか。単に北欧型福祉国家と呼ぶだけでは不十分なように思われる。国家として一歩進化しているという表現がピッタリではないかと思う。 さて、日本の社会はどうであろうか。今度は日本がフィンランドから学ぶ番のようである。
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