がんを知る
脳腫瘍
群馬大学附属病院脳神経外科
講師 石内勝吾
個人差が大きいのが特徴
発生の仕組みと治療法
発生頻度が高い「グリオーマ」を中心に
多様性に富み、かつ神秘に満ちた脳に発生する、脳腫瘍という病気は複雑で、126もの種類があります。このうち成人、小児を問わず、最も頻度が高いのが、「グリオーマ」といわれる病気です。脳実質から発生し、周辺の正常神経組織に、浸み込むように発育するという特徴を持ちます。最近では、乳がん、肺がんなど、脳以外の臓器にできたがんが脳に転移する、転移性脳腫瘍の患者さんが増加しています。ここでは、「グリオーマ」といわれる腫瘍を中心に、脳の構成細胞・脳の発生の仕組みと脳腫瘍の原因・頻度・種類・診断・治療へと話を進めていきたいと思います。
神経−グリア回路網
小脳の分子層・顆粒層を神経回路マーカー(MAP-2、緑)とグリアのマーカー(GFAP、 赤)で染色したものです。回路網は赤(グリア細胞)と緑(神経細胞)が対等であることが分かります
術中CTとナビゲーションを用いた脳神経外科手術
本論に入る前に、まず実際の手術現場をごらんいただきましょう(図1)。群馬大学附属病院では、本年4月からの手術室の移転に伴い、術中CTとナビゲーションが導入されました。4月から5月半ばまでに、良性腫瘍をのぞく20例の脳腫瘍患者に、術中CTとナビゲーションを駆使した手術を施行しています。以前は、手術が終了したあと、遠い検査室まで、患者を運搬して、CT検査を行っていましたが、手術室の中にCTがあるので、予定通りの摘出ができたことをCT画像で確認した後に、閉頭することができます。
その結果、患者の身体的負担の軽減はもとより、正常脳との境界が悪い悪性腫瘍の手術摘出度の向上にも大きな成果を発揮しています。また小さな病変や脳幹に近い病変でも、ナビゲーションを用いて、的確かつ迅速に手術ができるので、効果を現しています。
図1の上の写真では、延髄を圧迫している腫瘍を、神経機能モニターで監視しながら、ナビゲーションを用いて、摘出しているところです。このような場所の手術でも、5時間程度で終了しました。この患者は、脳幹(橋、延髄)の圧迫から開放されたことにより、聴力が改善し、手術翌日からは歩行も可能となりました。
それでは本題に入ります。
※脳幹…中脳、橋、延髄に区別される
※延髄…呼吸、血圧の調整をつかさどる生命中枢
脳の構成細胞
神経細胞とグリア細胞
■神経--グリア回路網
脳の構成細胞は、神経細胞とグリア細胞です。グリア細胞は、従来神経細胞に栄養を供給し、脳の機能を裏方でサポートする細胞であると考えられてきました。しかし、最近の研究から、神経細胞と同様に脳の働きに積極的にかかわることが判明しました。名称も、神経回路とは言わずに、神経?グリア回路網という表現がなされています(図2)。
グリオーマはグリア細胞の病気である
■アストロサイトーマとオリゴデンドログリオーマ
ヒトの脳の特徴の1つは、マウスやラットなどのげっ歯類と比較して、多量のグリア細胞が脳内に存在することにあります。グリア細胞には、小型グリア(小膠細胞)と大型グリア(大膠細胞)とがあり、さらに大型グリアは星細胞(原形質性グリアと線維性グリア)と稀突起細胞に分類されます(図3右上・左上)。小膠細胞は別名ミクログリアといい、脳の免疫や炎症に関与します。摘出した脳腫瘍組織中にもミクログリアが混在しています。
脳腫瘍のうち、最も頻度の高いグリオーマには、星形の突起を持つ星細胞に由来するタイプ(アストロサイトーマ)と、小型円形で突起の少ない稀突起細胞に類似した腫瘍(オリゴデンドログリオーマ)の2種類があります(図3左下)。後者のほうが、放射線や化学療法に対する反応がよく、予後がよい傾向を示します。
脳の発生の仕組みと脳腫瘍の原因
脳の起源はグリア細胞
■海馬と脳室にいる神経幹細胞が脳腫瘍の母細胞
脳の起源となる細胞に関して、神経細胞とグリア細胞には、1つの論争がありました。それは、同じ細胞から発生するか(一元論)、別々の細胞から発生するのか(二元論)という問題です。現在では、神経細胞もグリア細胞も、神経幹細胞という、同じ細胞に起源を持つとされています。神経幹細胞は、脳の中心部の側脳室と側頭葉の、海馬の歯状核という部位にあり、ヒトの一生涯を通じて、神経細胞・星細胞・稀突起細胞を産生し、脳の新生と再生を行っていることが分かっています。神経幹細胞は、GFAP(グリア線維酸性蛋白)というグリア細胞のマーカーが陽性です。脳室周囲のグリア細胞からは、グリア細胞のみならず神経細胞も産生されることが判明したのです。つまり、神経幹細胞とは、実はグリア細胞だったのです。
※海馬…側頭葉の内側にある記憶・学習にかかわる部位
■脳腫瘍は増殖能と遊走能が高い
「神経細胞は成人の脳では増えない」と長く考えられてきました。生後数100しかない脳が、1500まで爆発的に大きくなるのは、神経幹細胞が、神経細胞・星細胞・稀突起細胞を産生し、脳の中心部から外側に向かい増殖して移動し、神経?グリア回路網を構築するためです。成人の脳においても、神経幹細胞は、神経?グリア回路網の、正しい機能の保持のための再生を続けているのです。グリオーマの起源も、実はこの神経幹細胞であるといわれています。
実際、グリオーマができる部位を見ると、神経幹細胞の存在する部位によく一致しています(図4)。さらにグリオーマ細胞も、高い増殖性(細胞の数が増える)と遊走性(中心部から周辺部に神経線維に沿って移動する性質)という、神経幹細胞の特徴を持っています。脳腫瘍細胞のこのような特徴は、治療を困難にする原因となります。増殖能が高いと再発を来しやすく、移動性が高いと腫瘍が脳全域に散らばってしまうからです。正常な神経幹細胞は、秩序ある増殖をし、神経?グリア回路網の保持を行っています。しかし、何らかの変化から、一部にがん化が起こると、腫瘍幹細胞となります。この細胞が、猛烈な勢いで増殖したものが、グリオーマという病気であると考えられています。神経幹細胞が、腫瘍化する最初の変化については、まだ明確な答えが見つかっていません。
この変化の解明は、病気の根治を目指す上で、非常に重要です。私たちも、さらに精力的に研究を続けていきたいと思っています。
環境因子と脳腫瘍発生との関連
■携帯電話の危険性は否定的
脳腫瘍は、電磁波や放射線被爆者、石油化学プラントの従業員などで、発生のリスクが高まることが指摘されています。携帯電話の普及した今日、「携帯電話を頻繁に使うと腫瘍発生が高まるのか」「受話器を聞く側の脳に腫瘍が多く発生するのか」という問題が、高い関心を呼んでいます。しかし幸いなことに、現在のところでは、その危険性は否定されています。
60歳以上の高齢者には、悪性度の高い腫瘍が好発する傾向がありますが、老化に伴う遺伝子の突然変異が、大きな要因であると考えられています。
※好発…病気の発生頻度が高い
頻度と種類、症状
脳腫瘍の頻度
■1万人に1.4人
原発性脳腫瘍の頻度は、10万人中10人とされていました。最近の統計では、MRIなどの診断装置の普及に伴い、10万人中14人に増加していることが分かっています。
脳腫瘍の種類
■グリオーマが一番多い
全体では、グリオーマ・神経鞘腫・髄膜腫・転移性脳腫瘍の頻度が高く、小児ではグリオーマ、髄芽腫、胚細胞腫、頭蓋咽頭腫の頻度が高いという特徴があります。また、高齢者になるとグリオーマ、髄膜腫、転移性脳腫瘍の頻度が高くなります。この中で、どの年齢でも発症頻度が高いのがグリオーマです。
脳腫瘍の症状
■10で症候性、100で脳ヘルニアを来す
脳腫瘍が、1を過ぎると症状が現れてきます。1の腫瘍は、大体、小指の先ほどです。この中に、約10億の腫瘍細胞があります。症状が出て、病院を訪れるようになるころには、10程度の大きさとなっていることが多く、100になると、致死的状態となります。悪性腫瘍では、腫瘍の増殖速度は、指数関数的に倍化します。したがって、1を過ぎてからは、増大する速度が極めて高まります。脳は、頭蓋骨で囲まれた閉鎖空間に存在しますから、一般臓器で致死的になるがんの量、1の10分の1以下で、脳が腫れて、呼吸・血圧・意識にかかわる脳幹という、生命中枢を圧迫してしまうため、脳ヘルニアを起こして死亡してしまいます。
■脳圧亢進症状と局所症状
脳腫瘍による症状は、大きく2つに分けられます。1つは、腫瘍が大きく、脳浮腫が強く、静脈還流障害、髄液還流障害から頭蓋内圧が亢進して、頭痛・悪心・嘔吐・うっ血乳頭を来してくる場合です。もう1つは、腫瘍による脳組織の圧迫による局所症状(巣症状)を来してくる場合です。
■症状がなくともMRI検査で
病気が見つかることがある
小さな腫瘍であれば、症状は出ないことも多く、たまたま脳ドックで発見されて受診なさる方もいます。われわれ、脳神経外科医は、たとえ患者に局所症状がなくとも、MRIで脳病変の有無の評価を行っています。実際、検査により1以下の小病変が見つかる場合があります。現在の診断装置では、数程度の病変でも検出が可能です。病変が小さければ治療の選択肢が広がりますし、予後もよい傾向を示します。
脳腫瘍の診断
MRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)
■脳腫瘍と脳膿瘍を鑑別する
CTやMRI検査で病変が描出されても、直ちに「脳腫瘍である」と、断定はできません。とくに、リング状の造影効果を示す病変では、最も悪性度の高いグリオーマの一型である神経膠芽腫と、重篤な感染症である脳膿瘍との鑑別が重要です。また原発性脳腫瘍ではなく、転移性脳腫瘍の場合もあります。脳膿瘍であれば、手術摘出の適応はありません。逆に、菌体にメスを入れることは禁忌です。このような場合、磁気共鳴装置を用いて、病変の成分解析を行います。MRSという診断法です。これにより、非侵襲的に(苦痛のない検査で)腫瘍と脳膿瘍の鑑別はもちろん、腫瘍の種類も判別が可能です。MRSのほかに、MRIの、拡散強調画像で撮像しても鑑別になります。
PET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー) 陽子放射断層撮影装置
FAMT(フルネート・アルファ・アミノ・タイロシン) |PET
■脳腫瘍と脳梗塞を鑑別する
腫瘍の分布や局在は、病変のアミノ酸代謝を測定することにより診断します。この検査は、FAMT?PETといいます。この診断法は、非常に感度が高い腫瘍検出法で、脳腫瘍の、超初期像でも検出が可能です。FAMTは、正常脳では、ほとんど取り込まれないため、腫瘍の描出にすぐれています。例えば、稀突起細胞に類似した腫瘍である稀突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ)という腫瘍では、CTやMRI上の初期像が、一見、虚血障害のように見えてしまいます。そこで、脳梗塞と誤診されやすいのですが、FAMT?PETで陽性となれば、確実に腫瘍と診断がつきます。
FDG(フルオロ・デオキシ・グルコース) |PET
■悪性度の判定
病変の糖代謝を測定することにより、腫瘍の悪性度の判定は可能です。この検査法は、最近のがんの検診診断として広がりつつある、FDG?PETといわれるものです。FDG?PETは、FAMT?PETのように、脳腫瘍ならすべてを検出するわけではありません。特に悪性度の高い病変のみが、陽性となります。正常の脳組織は、もともと、非常に糖代謝が旺盛で、陽性となります。しかし、腫瘍局在部では、正常脳組織が壊れているため、糖代謝が低下しているので、腫瘍の悪性度の高い部分が、陽性として描出されるのです。取り込みの強さは、核医学診断部門で、定量解析を行って、数値化されますので、精度の高い診断が可能となります。
脳磁図(MEG)(マグネト・エンセファログラフィー)とfMRI(ファンクショナル・エムアールアイ)
■言語野、優位半球の同定
病変の評価と同時に、病変周囲の重要な脳機能の評価も重要です。脳磁図(MEG)やfMRIを用いて、中心溝(運動野と感覚野の境)や、言語関連野の評価を行います。fMRIで、優位半球の判定が可能です。
トラクトグラフィー
■錐体路と視索路の同定
MRIを用いて、病変周囲の神経線維の走行を画像化します。この検査法では、運動に関与する錐体路や、視野に関与する視索路を判定できます。
以上のような複数の診断装置を用いて、腫瘍であるか否かの判定、腫瘍の部位、悪性度の評価、腫瘍型の判定、さらには、病変近傍の重要な脳機能の評価を行うことにより、安全で適切な摘出範囲を決定します。
脳腫瘍の治療
良性腫瘍
■髄膜腫
定型(ティピカル)、非定型(アティピカル)、悪性(マリグナント)の3型に分かれます。定型では、手術で付着部位まで摘出された場合は、再発の可能性は少なくなります。非定型、悪性では、手術で付着部まで含めた全摘出術ができた場合でも、再発する危険があり、放射線治療の適応を認めます。悪性型の髄膜腫になると、中には、頭蓋底を破り、鼻腔にまで浸潤するものもあります。この場合、手術で腫瘍を全摘出しますと、鼻腔と脳が通じてしまい、髄液漏(脳脊髄液がもれる)や感染に悩まされることになります。私たちは、チタン製のメッシュの素材に、生体に近い組成(リン酸カルシウム)の人工骨を混ぜることにより、新しい頭蓋底の形成術を開発しました。この技術により、髄液漏や感染はなくなりました。
■神経鞘腫
小脳橋角部に発生し、三叉神経、顔面神経、聴神経、大きくなると外転神経も巻き込みます。2以下の腫瘍ではABR(聴性脳幹反応)をモニターして、聴力の温存に努めます。また神経機能モニターを行うことにより、顔面神経は多くの症例で保存が可能です。
全摘出されれば再発は稀ですが、腫瘍被膜をかなり残さざるを得ない場合は再発してきます。再発例には、再手術、あるいは、ガンマ・ナイフ加療をします。
悪性腫瘍
■グリオーマ
手術のみでは治療は完結しません。しかし、腫瘍を正常な脳機能を損なうことなく全摘出できると、部分摘出の患者と比較した場合、長期の生命予後が期待できます(図5)。グリオーマの、標準治療の第一は、正常な脳機能を損なうことなく、最大限の外科的摘出を行うことにあります。続いて、テモゾロマイド(内服型の抗がん剤で脳内への移行が従来の抗がん剤よりすぐれていて、かつ副作用が少ない)と、放射線の併用による放射線化学療法を行うということに定まりつつあります。
病理診断
手術のもう1つの目的は、確定診断を得ることです。確定診断は、病理診断によってなされます。手術中に、本格的に腫瘍摘出を始める前に、まず、小片を病理診断に提出します。迅速診断が、予期した範囲であることを確認した後、本格的な摘出に入ります。グリオーマであれば、私の場合は、周辺脳、腫瘍塊、腫瘍発生部位と分けて、摘出したすべての腫瘍を、病理に提出いたします。アストロサイトーマ系かオリゴデンドログリオーマ系かで、また、増殖能の高低で、予後の違いがでます。病理診断の、確定診断結果、確定診断日、WHOのグレーディング(悪性度の番付)(図6)は、がん保険の記載の必須項目です。
手術後の補助療法
手術後、病理診断結果の詳細と、手術後のMRI検査での、腫瘍の摘出度の評価を説明します。手術後の補助療法に何が適切なのか、複数の選択肢の、利点と副作用については、合意が得られれば、選択した放射線や、化学療法を行うことになります。放射線治療は、腫瘍放射線科に治療を依頼します。脳外科病棟専属の薬剤師からは、化学療法の主作用、副作用および内服のスケジュールの説明が行われます。
放射線治療
■リニアック
グリオーマでは、テモゾロマイド併用の放射線化学療法を行います。放射線治療装置の進歩は目覚ましく、ガンマ・ナイフ、サイバーナイフ、トモセラピーなどが実用化されています。これらの治療線は、すべてX線で、本体は光子です。グリオーマに対しては、リニアックという装置を用いて、1日2Gyという治療単位で拡大局所(腫瘍本体と浸潤部位を含む領域)に週5日、6週間をかけて照射するという治療が、最も効果的で、副作用の低い、標準的な治療法です。総照射線量は、60Gyとなります。
最大限の摘出を行なった後に、再増殖を予防するために、放射線を用います。高度悪性グリオーマに関しては、抗がん剤の内服(テモゾロマイド)も同時に行います。副作用として、リンパ球の機能が低下し、日和見感染を起こしやすくなるということがあります。そこで、感染予防のために、抗真菌剤を週2回投与します。昨年の11月から現在までに、50症例を治療しています。今のところ、当院では、重篤な副作用は出ておりません。長期予後に関しては、今後の解析が必要です。
■ガンマ・ナイフ
スウェーデンのレクセル先生が開発した装置で、フレームを頭部に装着します。照射線源は固定され、ヘルメットの穴を通して病巣に収束させます。3以下の球状の腫瘍に適しています。乳がんの患者で、多発性に転移性脳腫瘍を認める場合、ガンマ・ナイフによる治療が適しています。
■サイバーナイフ
腫瘍が3以上の場合、また平面状(板状)である場合は、サイバーナイフによる治療が有利です。サイバーナイフは、線源自体が自由に動くので、複雑な形にも対応できます。脊髄腫瘍に関しては、頸髄病変までしか保険適応がありません。
3以上の大きい腫瘍で、脳の圧迫が強く、意識障害やまひが進行性である場合は、手術により圧迫を解除し、延命を図ることも選択しなければなりません。
■トモセラピー
脳室内腫瘍や松果体部の胚細胞腫などに、適応があります。正常の大脳皮質の被ばくを抑えられ、腫瘍の局所に、重みをつけた照射が可能です。脊髄腫瘍にも、よい適応と考えられます。
小児の髄芽腫など、脳と脊髄に照射をしなければいけない病気では、この装置を用いることで、頸部につなぎ目を作ることなく、連続して治療ができます。
■重粒子線
重粒子線治療は、現在のところ、炭素線治療と陽子線治療が実用化されています。X線が光子であるのに対し、炭素線は質量(12 C)をもつ重イオンであり、X線の約3倍の殺細胞効果があります。その特徴は、脳深部でも、正常組織を避けて境界ぎりぎりに照射可能であることです。陽子線のほうは、イオンの質量が軽く副作用が低いという特徴があります。すでに、小児腫瘍に対して、X線と併用で臨床応用が始められています。
群馬大学では、炭素線を用いた小型化シンクロトロンが、平成21年度の臨床応用を目指して建設中です。現在、神経膠芽腫に対して効果的な治療法を求めて、群馬大学腫瘍放射線科教授中野隆史先生をはじめとする、腫瘍放射線科の先生方、高崎の原子力機構の先生方と共同で、研究開発をしているところです。近い将来、重粒子線治療が、標準治療として脳腫瘍に応用されることになると期待されています。
化学療法
ここでは、グリオーマ以外の脳腫瘍で、化学療法の効果が確定している疾患を中心にお話します。
■悪性リンパ腫と胚細胞腫
この2つの病気はグリオーマと異なり、放射線に対する反応が非常によいため、手術で全摘出する必要はありません。診断がつけば、放射線と化学療法の組み合わせで十分コントロールが可能です。
胚細胞腫では、プラチナ製剤とエトポシドの併用の化学療法を、放射線治療(1日2Gy照射を週5回、4週間行い合計40Gyの線量となる)の前後で行います。つまり手術直後に一度化学療法を行ったあと、放射線治療を施行し、放射線治療が終了した後、再度化学療法を行って、初期治療が完結します。この時点で通常、腫瘍は、完全に消失します。
悪性リンパ腫では、メソトレキセートの大量化学療法を3回行い、その後40Gyの全脳照射を行います。化学療法に反応して、腫瘍の体積が減少することを確認しながら、治療を続けます。必ず、化学療法を先に施行してから照射を行います。照射をすでに施行した症例に、メソトレキセートの大量化学療法を施すのは、禁忌です。白質脳症という神経?グリア回路網が断裂する致命的な合併症を併発するからです。
悪性リンパ腫は、予後不良な疾患でした。しかし、当科では、メソトレキセートの大量化学療法を3回繰り返せた症例において、5年生存を全例達成しています。残念ながら、腎機能の悪い方や70歳以上の方の適応はありません。
■髄芽腫
小児において白血病とならぶ代表的ながんです。手術で全摘出することが、大前提ですが、同時に非常に播種を来しやすい(髄液を介して散らばりやすい)ので、手術操作によって播種を来さないような工夫が必要です。手術後には、プラチナ製剤を中心とした多剤化学療法と、全中枢神経照射(大脳、小脳、脊髄に照射する)を行うことで、5年生存率が80%以上に改善しています。
■毛様突起状星細胞腫(ピロシティク・アストロサイトーマ)
小児に多いグリオーマの一型で、比較的予後のよい疾患です。時に粘液様器質が豊富な亜型(ピロミキソイド・アストロサイトーマ)があり、このタイプの場合は播種しやすいため、注意が必要です。たとえ播種しても、プラチナ製剤中心の多剤化学療法と、全中枢神経照射を併用することで、腫瘍のコントロールは可能です。
終わりに
脳腫瘍の治療では、十分な検査をしたのち、安全な手術を行い、正しい病理診断に基づいて、最適な放射線治療と薬剤の選択を行うことが重要です。たとえ組織診断が同じでも、個人差が大きいのが脳腫瘍の特性です。このことを理解した上で、患者は、ご自分のデータに基づいた最適な治療を考えることが賢明です。脳腫瘍が全身臓器に転移することは、ほとんどありませんが、全身のがんは脳にしばしば転移してきます。特に危険性が高いのは
1.原発巣が未分化がんで悪性度が高い。
2.すでに肺転移、肝転移、骨転移のいずれかを起こしている。
3.脳に移行しづらい抗がん剤治療や抗体療法(乳がんのハーセプチン療法などがこれに相当します)を受けている。
1から3のうちのいずれかに相当するようでしたら、MRIにて脳病変の有無を、たとえ症状がなくとも行うことをおすすめいたします。
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