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講座紹介

顎口腔科学 [歯科口腔外科・歯科]
群馬大学大学院医学系研究科
パノラマX線写真所見 教 授 茂木健司
准教授 根岸明秀

 歴史と役割
 当講座は本学の前身、前橋医学専門学校創設時に口腔外科学講座として設置されたもので、医学部の中では最も歴史の長い講座の1つになります。以来、歯科大学不在の本県においては、ミニ歯科大学として医学生に対する歯学教育、歯科学全体におよぶ研究、定期的な研究会開催などによる地域の歯学の発展・向上へ寄与するとともに、臨床面では、一般の歯科医院においては診療が困難な歯科口腔外科的疾患を主に取り扱い、北関東における口腔外科診療の中心的役割を担っています。

 近年、歯科医師卒後臨床研修制度の発足に伴い、県内で唯一の単独型歯科医師卒後臨床研修施設として毎年多くの研修医の教育に当たっています。

 国際的には教授は国際顎顔面外科学会(ICMFS)のPresident-elect(次期会長)として西欧諸国と情報交換するかたわら、発展途上国における顎口腔科学と臨床レベルの向上に貢献しています。

 顎口腔科学と歯科口腔外科・歯科について

 顎口腔科学とは普段、聞き慣れない言葉かと思いますが、顎とは上あご(上顎骨)、下あご(下顎骨)を意味し、口腔は口のことを指します。したがって人の顔の下半分で耳鼻咽喉科領域の鼻、のど、耳を除いた部分の病気を研究する学問で、その領域の病気を取り扱う診療科ということになり、学問体系からすれば歯学の一分野になります。ここに「歯」の字が登場しないことに対する説明としては、後にも少し触れますように、学問的にはあごが先にできて、歯は後からできるのですが、病気は圧倒的高頻度で歯とその周囲に生じるため、歯だけが一人歩きしていると考えるのが自然です。そのため学問的には顎口腔科学、診療科的には歯科口腔外科・歯科を標榜しています。 ところで、歯科口腔外科は歯科の一分野なので、この診療科名は本末転倒なのですが、講座創設以来、口腔外科を標榜してきたこと、近年、開始された歯科医師卒後臨床研修制度下での研修は歯科医療全般を研修目的とするため、歯科全般の研修が可能であることをほかに示す必要性から、急きょ、歯科の文字を加えたという経緯があります。

当教室、株式会社アステックの共同開発による口唇圧測定  当領域の特徴と疾患
 診療科名がいみじくも歯科と表現されますように、歯の存在が大きな特徴で、当領域では頻度的には歯に関係する疾患が大部分を占めています。歯の形成は胎生期に口腔粘膜の一部が顎骨内に入り込み、これがいわばタネとなって歯が形成され、口の中に出てくるという仕組みです。身体では顎骨の中にだけ歯が生じるので、歯の発生に関連した病気が顎骨中に現れることが大きな特徴です(写真1、2)。また、歯の表面のエナメル質はほとんどが無機質ですから、身体では一番硬く、痛くないかわり、もろく、酸に弱いという欠点があります。生きている細胞がないのでここに生じたう蝕(虫歯)が自然に治ることは決してありません。象牙質に関してもほぼ同様です。食物残渣は形態的、機能的に歯頸部を汚染するため、ここに口腔常在菌の中のある種のものが増殖し、産生する酸は硬組織を、そしていわば毒素はこの部分の構造を破壊し、それぞれ、う蝕、歯周病を生じます。これらの病気が原因となって、身体の抵抗力の低下した時に、急性炎症が生じることはしばしばで、時に生命の危険すらあります。

 誤嚥により唾液と共に常在菌が気道に入ると、免疫力の低下した高齢者では肺炎を生じますし、また、常在菌が関係して、各種の全身的影響、障害をもたらし、疾患を生じることが分かっています。

 もう1つの特徴の説明のために口腔の構造について触れますが、実は口腔内の空間はほとんどが舌によって占められており、常に舌、口唇、頬は歯の面に接触しつつ運動しているのが特徴的です。この動きに伴って褥瘡性潰瘍などが粘膜に生じ、がんの誘引の1つとも考えられています。また、こうした下顎骨の動きの要となる顎関節も当科で扱う重要な対象の1つです。

 口腔のもう1つの疾患群は口腔粘膜の疾患です。粘膜特有の良性病変も多くありますが、前がん病変、がんなども生じ、全身疾患の症状の一部も出現します。したがって、口の中をのぞいただけで、重要な疾患が診断される場合もあります。

 当科の臨床と研究  当科の臨床としては、年間約3000人の初診の患者のうち、7割は手術的な治療が必要となる外科的疾患ですが、その一部は薬剤で治療する口腔内科的疾患です。残り3割は一般の歯科医院でも取り扱われているう蝕、歯周病、義歯などの補綴関係の疾患です。

 外来での外科的疾患としてはもぐったままの親知らずなどの困難な抜歯症例が高頻度を占めています。また、治療内容は一般的歯科治療ではあっても全身的な感染性疾患や重篤な全身疾患に罹患していたり、その疾患治療のために当科的治療に支障を生じるような薬剤内服中の患者の紹介が多く、この場合は他科との密接な連携の下に治療を行います。また、歯科治療に協力を得られない患者に対しては全身麻酔下の処置、移植医療などで術後に免疫能力低下状態が予測される患者については、手術前の口腔内の慢性炎症巣の治療、院内の患者に対する口腔ケア、栄養サポートチームとしての活動、院内各科の診療に対しての協力など、考えられるあらゆる状況に対応できるように努力しています。

 先進医療としては「困難な症例のインプラント義歯」が認定され、実施しています。

 入院手術は年間約200例、そのかなりの部分が短期入院手術症例で、病気にもよりますが、日帰りでの全身麻酔下手術も可能となっています。前述の顎骨内に生じる疾患(写真1、2)に対しては通常、入院下での手術になります。悪性腫瘍に関しては他科との連携を含め、病院機能の総力を結集して治療に当たっています。

 臨床的研究としては、患者により良い診療を行うためにも、常に対象となる疾患について検討し、専門学会に報告、講評を仰ぎ、その結果を臨床の場にフィードバックしています。

 基礎的研究としては前がん病変のがん化機構、悪性病変の核医学的画像診断、口腔ケアと口腔機能、生体吸収性材料の開発、産官学の特許関連の仕事(写真3)などを行っています。

 一方、こうした各種の臨床・研究活動の成果は学内外の医療関係者を対象とした定期的な勉強会で報告するなど、地域ぐるみでの情報交換、知識の普及にも努めています。

 終わりに  本学は将来を見据えて医学に貢献できる医療人の育成を目標としており、当講座もこの方針に沿って活動するとともに、附属病院では一般歯科医院で取り扱わない疾患の治療を取り扱うことにより地域医療へ貢献し、さらに先進医療の開発、実践に努め、ミニ歯科大学として地域における歯学の向上、臨床研修にも力を注いでいます。

 現在、昭和キャンパス内では悪性腫瘍の治療に優れた効果を有する世界最先端をゆく重粒子線治療施設の工事が2年後の臨床試験に向けて開始されており、当科としてもこの完成を心待ちにしていると同時に、世界各地からの患者の来前により、前橋が医療都市に大きく変貌できたらとの夢をも心に秘めています。


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