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介護のサポート(1)〜介護の力・可能性〜

介護すること、されること
群馬大学医学部保健学科
地域看護学講座教授 佐藤由美

図1 排泄にかかわる介護用品等の選び方

 在宅で介護保険のサービスを利用している人は、全国で約3100万人います(2005年3月〜2006年2月の累計)。さらに、高齢者以外でも病気や障害のある方を在宅で介護している方も多数おられ、在宅で介護する人・される人は増加しています。

 2003年に内閣府が全国の20歳以上の人を対象に実施した『高齢者介護に関する世論調査』によると、自分に介護が必要となった場合に介護を受けたい場所では、「可能な限り自宅で」と答えた人が44・7%と半数近くを占めています(表1)。また、望ましい在宅での介護形態として、「家族だけに介護されたい」と答えた人が12・1%で、ホームヘルパーなど外部者を利用しながらも家族の介護を受けたいと答えた人を加えると、実に8割以上の人が家族による介護を望んでいます(表2)。このように、自分に介護が必要になった時には、「住み慣れた自宅で生活を続けたい」「家族に介護されたい」と多くの人が望んでいます。しかしながら、現実には、それまでの生活に『介護』が加わることにより、介護する側・される側双方にとって、身体的・精神的負担や先の見えない不安が生じ、介護を含めた生活の再構築が必要となり、『在宅で介護する』イコール「介護負担」といったマイナスの側面に注目されがちです。

 本特集では、このような「介護負担」という側面だけでなく、『介護』によってもたらされる『介護の力・可能性』というプラスの側面にも注目し、そのために「無理せず・あきらめず」に、さまざまな人の力を借りながら、介護する方法をご紹介していきます。

 第1回は、『介護の力・可能性』について、私自身の2つの介護エピソードをご紹介します。まず、私の実父のことです。実父は数年前から多発性脳梗塞のためのいわゆる寝たきり状態です。食事は鼻からの経管栄養で、寝返りも会話もできません。かろうじて、視線が合い、呼びかけに反応し、言葉にならない声を出すことができる程度です。父は元気なころ、オペラ観劇のためにウィーンに行くほどの音楽好きでした。ある日、母から「県民会館にオペラが来るからお父さんを連れて行ってあげたいけど、どうだろう?」と相談されました。車いすに長時間座ることも難しく、昼間でもうとうとしている父を眼前に、母の願いは無謀だと思いましたが、たとえ5分でも会場にいられたら母の気が済むと思い、賛成して、当日、車いすを押して同行しました。すると父は、2時間余りの上演中、一度も眠ることなく、まばたきも惜しむように目を見開いて舞台を見つめ、しっかりとした表情で過ごしたのでした。その影には、座位保持訓練をしたり、睡眠サイクルを整えたりといった、当時お世話になっていた老人保健施設の皆さまの多大なるご努力があったのですが、それでも、父にこれほどの力が残っていること、そして、大好きなオペラと母の愛情が父の眠っている力を引き出させたということは、私にとって衝撃的な気づきでした。

 もう1つのエピソードをご紹介します。元気でわが家の大黒柱であった義父が、がん切除術後の傷の回復が悪いことから自信と意欲を失い、いっそう回復が遅れるという悪循環を起こして入院していました。義父にとっては孫に当たる当時3歳だったわが娘とともに面会した時のことです。病室に入った娘は、家での姿とは違う、やつれて弱った義父に戸惑い、泣きべそをかきながらも「私がスリスリしておじいちゃんを治してあげる」と、義父の腹部をそっとさすりはじめました。するとすぐに、義父に笑顔が見られ生気がみなぎり、孫のために早期に回復して退院を誓う姿がありました。この、わずか一瞬にしての義父の回復は、娘に自分が役立ったという満足感と、義父が元気になったことへの喜びを与え、娘の顔も晴れやかでした。

 このような例は、多くの方々が経験しています。重度の意識障害にある人に対して、食事や入浴など健康な人の生活行動に近づけ、取り戻す看護プログラムを看護者と家族とが力を合わせて実行することによって、いわゆる植物状態であった人が、自分で食べ、話し、動くまでに回復するという実例もあります 1)。『介護』によって、介護される人の潜在する力が引き出される可能性があり、また、介護する人・される人の相互作用によって、介護する人にとっても多くの効果をもたらします。介護負担の研究に比べてまだ多くはありませんが、介護する家族やその周囲の家族にとっての学びや価値に注目し、それを促進するための支援方法についての研究も取り組まれています 2)。

 以上のような介護の力と可能性を信じて介護に取り組むためには、介護する側の余裕と周囲からの支えが不可欠です。高齢者介護・医療の専門家による『がんばらない介護生活を考える会』 3)では、介護者にも被介護者にも過度の負担を強いずに、肩の力を抜いて、介護と上手につきあっていくための「新しい介護の価値観」を提唱していますが、私もこの考え方に賛同します。介護する人は、日々遭遇するさまざまな状況に対して自分で考え、迷い、悩み、自分で決断しなくてはならず、それによる葛藤や後悔を経験します。介護する人が孤独にならないことが大切であり、次回からは、そのための具体的な方法を紹介します。

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