視点 オピニオン21
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高瀬 真一(たかせしんいち)高崎市南大類町  

【略歴】勢多・東村出身。桐生高校、群馬大学医学部卒。74年、同学部集中治療部助手。85年、国立療養所足利病院医長。89年、済生会前橋病院循環器内科部長。95年、群馬循環器病院副院長。98年から現職


初期手当ての啓もうを

◎急性心筋こうそく

 急に胸が苦しくなったらどうしましょか。胸の真ん中が締め付けられるようで、冷や汗が出るような痛みでしたら、急性心筋こうそくという病気の可能性が極めて高いのです。

 急性心筋こうそくの原因は、心臓の壁の筋肉に血液を送っている冠状動脈が詰まってしまう病気です。なぜ詰まるかは、冠状動脈に動脈硬化が起こり、血管の表面に傷ができると、その部分は血液が固まりやすくなり、血管の中に血栓(せん)ができるためと考えられています。

 冠状動脈が閉そくするとどういうことが起こるでしょうか。血液が送られてこなくなった部分の心臓の壁は、すぐに動かなくなります。もしその範囲が広ければ、心臓が血液をうまく送れないために、血圧が下がったり、胸に水がたまる急性左心不全に陥ります。症状は顔色が悪く、呼吸困難が出現します。

 それとは別に、冠状動脈が詰まって数分で重症の不整脈が起こることがあります。特に重症なのは心室細動という不整脈で、突然起こり心臓が血液を送れない状態で脈は触れません。このため意識が無くなります。この不整脈は必ずしも心筋こうそくの広さとは関係なく起こります。血液の供給を受けられなくなった心臓の壁の筋肉はもろくなります。壁の一部から血液が漏れてしまうことがあります。心破裂と言いまして、これも突然起こります。

 心臓は心嚢(のう)という袋に入っていますので、漏れた血液で心臓が圧迫され、血液が送れなくなり、意識が無くなってしまいます。発症後、数時間から一週間くらい起こることがあります。心不全、心室細動、心破裂が急性心筋こうそくの死因の大部分を占めます。

 治療はと言うことになりますが、昭和五十年代は集中治療部という急性心筋こうそく専門に治療する施設ができました。そのころ、詰まった冠状動脈の治療は、血栓溶解療法でしたが、その効果は十分ではなく、心不全、不整脈の治療や心破裂の予防が主体で、死亡率は15%くらいでした。その後、冠状動脈に直接血栓を溶かす薬を注入する治療が行われるようになりました。

 昭和六十年代になりますと、冠状動脈を風船で広げる治療が普及してきまして、急性心筋こうそくにもこの治療が積極的に用いられるようになりました。この治療法により、死亡率は5%くらいまでになりました。

 しかし、この治療もどこの施設でもおこなえる訳ではありません。まただれでも行えるわけでもありません。そして、この治療は冠状動脈が詰まってから、早ければ早いほど治療効果が期待できます。

 急性心筋こうそくの治療のはじまりは、みなさんに心筋こうそくという病気の症状やそれによって起こることを知ってもらうことではないかと思います。症状から急性心筋こうそくではないかと疑うこと、次に冠状動脈を治療できる施設への搬送を素早く行うことが大事です。

 病院到着までの間の処置も命を救うことがあります。例えば、心室細動が起これば急に意識が無くなりますが、心臓マッサージを行うことによって血圧を保てば、呼吸は止まりませんし、うまくゆくと脈が戻ることもあります。

 さらに、救急隊の救命救急士は、心室細動の治療である電気的除細動を、医師の指示のもとに行えるようになりました。急性心筋こうそくの救命率を上げるには、医師ばかりではなく救急隊の皆さんや、一般の方々に搬送方法や初期手当てについて啓もうする必要があります。

(上毛新聞 2001年11月30日掲載)