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森の遊学舎代表 
小森谷 浩之
さん(勢多・東村沢入)

【略歴】北海道大農学部卒。家業の林業、建設業を営む傍ら、01年に村民と自然体験学校の設立を目指すグループ「森の遊学舎」を立ち上げた。東毛地区林研グループ連絡協議会長。


感性や探究心はぐくむ

◎子供と自然

 先日、しし座流星群を家族四人で眺めました。三歳の娘は盛んに「きれいだね」「お星が流れるね」とつぶやいていました。一歳の息子も星の流れる様子が不思議らしく、大きなものが流れるたび、「おっ」「おっ」と叫んでいました。

 娘にはちょうどよい機会なので、ママの星座のおうし座と娘、息子の星座のふたご座、パパ(私)のしし座の星の集団を教えました。娘は私が指す方向を見つめながら、自分流のつなぎ方をしているようで、「うん、牡牛が走ってるね…」とか、「パパの星はライオンで一人なんだね…」などと話します。(ちなみに、しし座は少し他の星座より離れている)その様子を見ていると、大空のキャンパスに自由に想像を広げているのがわかります。

 翌晩も星を見ると、自分たちの星座を一生懸命探していました。子供には(とりわけ幼少の子供たちには)自然の美しさと雄大さ、不思議さを感じてもらいたいといつも思います。

 星座それ自身は現代の私たちにとってはあまり役に立たないでしょう。しかし、彼女が成長し、親元を離れ、他の場所、他の国で生活する時、夜空の星を眺めることにより、心の奧に幸福感や安心感が広がるのではないでしょうか。

 人は原風景を持っており、それを基本に周囲の事物を判断していると言います。そして原風景に出合うと、何か懐かしいような、温かいような、優しい幸福感にとらわれます。

 子供たちにわれわれ大人が与えられるもの、また与えるべきもの、それをよく考えなければと思います。幼い時の体験はその子の原風景となり、それに触れた時、生きる喜びと力を与えてくれます。原風景がテレビでは、悲しく、あまりに弱いのではないでしょうか。私たち夫婦は、子供たちに自然の美しさ、不思議さを伝えたいといつも思います。

 私は現在、自然学校をつくり、来春にはNPO法人化して、より活発に展開していく予定です。その仲間とよく次のような話をします。

 子供が森の中で、花を摘んできたとしましょう。彼はスタッフに向かって「この花は何ですか?」と聞いたとします。その時スタッフはどう答えればよいか。花の名前を答えるのは不正解ではないですが、最も大切なことがここに潜んでいます。それは、子供がなぜ多数ある花の中からこの花を選んできたか、ということにあるのです。子供の感動の中心に心を合わせる。「美しい花だね!」「おもしろい形をしているね!」と、焦点を合わせることにより、子供の感動と興味はいっそう高まります。

 子供を自然の中に誘ってやること、それをうまくできれば、後はもう子供の方がよほど、素晴らしい先生です。あるがままに心を輝かせ、素晴らしいものを見つけていきます。

 子供の感性、感受性を育てるのは大人の役目です。この感性、感受性はやがて少年になる時、探究心と変化し、学問や美の世界に進む大きな力となるでしょう。科学の発見や発明は、自然の何気ない振る舞いに気付くこと、そしてそれを掘り下げることにより行われます。日本の社会は、そのために一番大切なことをおろそかにしているのではないでしょうか。混迷を深める日本社会の今こそ、子供に対する大人の役目を考え、実行する時だと思います。

 ちなみに、自然学校「森の遊学舎」のURLは「http://azumanet.tripod.co.jp/」、わが家のホームページ「麒麟ネット」のURLは「http://kirinnet.tripod.co.jp/」です。

(上毛新聞 2001年12月7日掲載)