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里山クラブ主宰 
川原 幸司
さん(千代田町新福寺 )

 【略歴】 三重県鳥羽市出身。関西学院大経済学部卒。区長時代から地域の平地林整備を進め、子供を集めた同クラブを主宰。現在、県警環境犯罪モニター、町森林環境教育検討委員も務めている。


公的保全を強く望む

◎平地林

 今、やまから(以下「やま」は平地林のこと)帰りました。一日一回はやまに入らないと、いわゆる“調子”が出ません。

 このやまは、拙宅から五百メートルほどのところに、東西に細長い地形で広がっています。平地林がどんどん消えていく中にあって、比較的まとまった形でこのやまが残っており、奇跡的だとさえ思います。三〇%程度が保安林指定されていることも、保全に大きな効果になったことは間違いありません。

 このやまはすべてが私有林で、有用性の低下などから保持意欲は大きく低下しています。一方、時々に開発狙いの先行投機で、多くの所有権移転がありました。約七五%の所有者が地区外です。平地林は、地形的に造成はきわめて簡単です。その上、立地的なことも加わり、昨今の経済低迷期にあっても、典型公害発生型の事業所が次々と土地取得のターゲットにしています。その都度、平地林消失の不安を強く感じる日々です。

 さて、ご承知のとおり、本県の林野面積は六六・七%でほぼ全国平均です。平野部との中間地帯の県東部では三七%となり、最東部の館林市・邑楽郡では、〇・七%と極端に少なくなります。しかし、少ないとはいえ、この館林市・邑楽郡の林野はすべてが平地林で、平地林がほとんど残っていないといわれている本県にあっては、極めて貴重な存在といえます。

 この平地林の市町別では、千代田町が一・六%で群を抜いています。そして千代田町の半分以上が、この新福寺地区にまとまっています。しかし、この新福寺地区の平地林も詳しく見ますと、各所が虫食い的に開発され損失しています。今この平地林を失うと、もう二度と私たちの手には戻りません。縄文の昔から維持されてきた平地林が、われわれの世代で消えてしまいます。

 保全のタイミングは、昨今が最後の“とき”です。ぜひ公的保全を図るべきと考えますが、行政側にも住民側にもそこまでの高まりは感じません。ましてやナショナルトラスト運動の展開までには、今しばらく時間が必要なように思われます。今すぐできることは、ごみを取り除き、下刈りをすすめ、木々の再生を図るなどなど、自然公園的環境づくりをすることと考えました。

 汚いところ、怖いところとして、人々がやまから遠ざかるようでは、開発の波に洗われます。やまを気持ちのよいところ、リフレッシュの場所として、一人でも多くの方々が、かけがえのない所と思えるようにすることが保全の基本だと考えたわけです。

 夫婦二人でのスタートした活動も、その後幸いにも何人かの協力者も得られ、整備が進むに従い、多くの方々がやまに来てくれるようになってきました。また、今年度から小中学生の体験学習の場としても指定され、計画がスタートしました。一日でも早く公的取得保全とかNPO取得での保全に到達できる日を夢見て、明朝もやまに出勤します。

(上毛新聞 2001年12月14日掲載)