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言語聴覚士(スピーチセラピスト)
津久井美佳
さん(埼玉県さいたま市 )

 【略歴】渋川市出身。国際医療福祉大保健学部・言語聴覚障害学科卒。99年、言語聴覚士資格を取得し、国で初めての言語聴覚士の一人となる。同年から病院に勤務。


偏見や誤解受けやすい

◎言語障害

 私は現在、病院のリハビリテーション科で言語聴覚士(以下、SpeechTherapist=STと略)として働いています。脳卒中の後遺症、交通事故による頭部外傷により、(1)伝えたいことが話せない、人から言われたことが理解できない(失語症・痴ほうなどの成人のコミュニケーション障害)(2)言葉を話す時に使う筋肉にまひや筋力低下があり、歯切れよくしゃべれない(運動性発話障害)(3)食事の時、飲み込みが悪い、むせる(摂食・嚥下(えんか)障害)などの症状がある人に対し、専門的な立場から訓練や指導(援助)をしています。

 また、言語発達の遅れや学習障害、自閉症、吃音(きつおん)、老人性難聴等もSTの仕事の領域です。それゆえ、ひとえにSTといっても、その専門性は個々の施設により異なっているのが実情です。

 私は仕事を通じ、「障害があるために、自宅に(もしくは自分の中に)閉じこもりがちになる人がいるということ」をあらためて実感しました。私自身、幼い時にどもりぎみであるというだけで随分、いやな思いをしました。小学生であった私は正直、周りの雰囲気を感じては、幼いながら傷つきました。他人と話をして、どもるのをまねされバカにされたり、「あなたと遊ぶようになったら、うちの子、どもるようになったみたい」と言われるくらいなら、もう黙っていようと思ったことがあります。

 それゆえ、障害のある方が「家にいたい」「どうせ、話をしても理解してもらえないのなら、しゃべりたくない」と思うのは、当たり前のことなのかもしれません。あの人はうまく話せない、という目に見えないレッテルが、言葉にしなくとも、当人には伝わってしまうのです。言語障害は、外から障害が見えないため、周囲から誤解や偏見を抱かれやすい障害です。

 私は、一番近くいる人(家族)がその状況を認めてあげ、「私は、あなたにとって、絶対的な味方よ」と強い態度で接してあげることが必要だと思います。「うちのお父さんは、おかしくなっちゃったから」とか「言っても、わからないわよ」などとは、言うべきではないでしょうし、また、障害者を家族が隠すような行動も慎むべきだと思います。本当に恥ずかしいのは、家族ではなく、本人なのですから。

 私自身、昔、どもるということについて、十分な障害の説明を受けませんでした。「なんか変」。それだけだったような気がします。私は、納得がいきませんでした。学校に入り学問として学び、初めてその原因はいまだにわからないのだ、ということを知りました。つまり、どもるということの原因は不明なのです。

 知らないということは恐ろしく、誤解を生み、人を傷つけます。だからこそ、私は障害についてはきちんとご家族や本人に説明をし、障害を受容できるよう支援をしています。そしていつの日か、障害を個性として、家族が認められるようになり、また、当人も認めてもらえたらと感じられたとき、安ど感から能力が開花するのではないでしょうか。

 家族が意見を押し付けることは簡単ですが、本当の気持ちを聞くのには根気がいります。それは、待たなければならないからです。「聞くことは、待つこと」。私はSTとして働くようになり、やっと他人の気持ちを聞くということがわかりつつあるところです。これからも障害の限界を見据え、障害を受容しようとしている方の力になれるよう努力していきたいと思っています。

(上毛新聞 2001年12月21日掲載)