視点 オピニオン21
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コトバ表現研究所主宰 
渡辺知明さん
(東京都品川区東五反田 )

 【略歴】桐生高、法政大卒。「桐生青年劇場」で公演活動に取り組んだ後上京、調理師専門学校講師を務めながら「表現よみ」を研究。日本コトバの会講師、事務局長。文芸同人「群狼の会」所属。


文章の理解を深める

◎表現よみ

 私は、読者のみなさんに声を出して本を読むことをお勧めしたいと思う。最近、声に出して読むための本がベストセラーになっているが、実行している人はどれだけいるだろうか。しかし、声で本を読むことの意義がわかれば、だれでも今すぐ実行したくなるだろう。

 私は二十数年間「表現よみ」という名称で、文学作品とくに小説を声に出して読む研究を続けてきた。表現よみは一般の朗読とは少し違う読みである。朗読では聞き手にメッセージを伝達するために読むが、表現よみでは、まず読み手自身の理解のために読む。声を出すことで文章の理解を深める読み方なのである。

 幼い子どもたちは、声を出しながら遊んでいる。あれこれ声のコトバで考える姿である。大人でも難しい文章にぶつかると、つい声に出してしまうことがある。それで意味がつかめるのは、声が理解を助けているからである。

 表現よみは、難しいものではない。だれでも簡単に始められる。毎日、小説を二、三ページずつ、声に出してゆっくりと読めばいい。最初は人に聞かせるような工夫はせずに、自分自身に言い聞かせるように読めばいい。文章の内容に集中することを心がけるのである。「声を出すと中身がわからなくなる」という人は、読み方が早すぎるのである。理解がついていかなくなったら、途中で止めればいい。そして頭が追いつくのを待てばいい。

 小説を声に出して読むことは、読み手による作品の表現でもある。小説は、もともと落語の語りなどを手本として書かれているようになったもので、作品ごとに語り口を持っている。声に出すときに語り口を生かすなら、作品の味わいはより深くなる。表現よみは、読み手自身も表現する。聞き手は作品の表現と読み手の表現と二重の表現を楽しめるのである。

 表現よみは、楽しいばかりではない。コトバの表現能力も高めてくれる。「話をするのが楽になった。文章が書けるようになった。文章を深く読めるようになった」などという感想もよく耳にする。ボケ防止のつもりではじめたというのに、防止どころかコトバの能力の高まった人もいる。要するに「話し、聞き、読み、書き」というコトバの働き全般の能力向上を、もたらしてくれるのである。

 表現よみは、文学作品の表現を理解し、解釈するところから生まれる声の表現である。スローガンは「目で読んで―体で感じて―声に出す」である。声を出すと同時に読み手の意識にイメージを形成する、創造的な活動である。そのイメージが生産的であり創造的であればあるほど、聞き手にも作品世界がありありと浮かんでくる。それこそ本来の、声によるメッセージの伝達なのである。

 表現よみは磨きようによっては、落語や講談や演劇などと肩を並べる芸術にまで発展するものである。入門はしやすいが、奥行きも深いもので、まさに「コトバは一生かかって磨くもの」の代表といえるのである。

(上毛新聞 2001年12月23日掲載)