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会社役員
佐羽 宏之さん
(桐生市相生町)

 【略歴】群馬大工学部工学研究科修了。82年に三立応用化工入社し現在は専務取締役。昨年3月まで県中小企業団体青年協議会会長。桐生市市民の声の会サブリーダーを務めている。


市民が主人公の意識を

◎まちづくり

 ここ何年も、昼間は市内にいない生活なので、自分の住む町に無関心な市民のまま過ごしてきた。四十余年住んでいるが、桐生のまちは子供のころよりだいぶ寂れてきたものだと感じていた。

 そんな矢先、ひょんなことからわがまちを考える機会が訪れた。桐生市役所広報広聴課の事業である「まち作りパートナー市民の声の会」への参加である。市民と行政のパートナーシップをうたい文句に、近年流行の「官民協働」を目指す事業である。まずは、桐生市としても初めての試みである「市民の声の会」の活動を紹介したい。

 この会は、従来の市民と行政の対話がいわゆる陳情の域を出なかったことから、「両者がともに力を出し合って市政を進めてゆくためのパイプ役となる」ことを目的に作られたそうである。最初の年、平成十二年度は「桐生川の清流を守る条例」について考えてみる事にした。

 桐生川は、ひとつのまちの中に源流から下流域までを持つ珍しい川である。しかし、近年はごみの不法投棄や未処理排水の流入、開発工事などで汚染が進んでいる。そのため、この条例が十二年六月に議会で可決された訳だ。市民の財産であるこの河川を守り、次代に引き継いでゆくために、市民一人ひとりが「果たしてゆくべき役割は何か」をはっきりさせないと、実のある条例とならない。

 市内には、河川環境保護に当たっている市民組織がたくさんあることが分かった。そこで桐生川の水を利用して生きる市民、環境保全に取り組む人々、関係行政側からパネラーを選び、桐生川の今後のあるべき姿をパネルディスカッションで討論していただいた。

 進行役の先生により、かつての桐生川の情景が紹介され、川が育(はぐく)む源流林が支える産業や、川の環境保全が持つ意味とその実践例、また冶山冶水工事での配慮へと討論が広がった。当日は、会場からも活発な質問が出た。これらも含めて桐生市に提言書を提出し、一年目を終えた。

 振り返ってみると、行政側はそれなりに役割を果たし、市民側もそれぞれ思うことを実践した。しかし、それを束ねて、方向性のある活動としてゆく役割を担当するところがないのである。これでは、具体的に成果のあがる活動にはなりにくい。

 桐生市では、市民活動支援課を設け、市民の活動を支援していく方針を示している。しかし、市民が行政と力を合わせることに慣れるまでは、「協働」活動の調整を行う強力な横断的組織が必要であると思う。まず、両者によってつくられたこのような組織が、市民から行政依存の感覚を払拭(しょく)し、市民に主人公である、という認識を持たせることが大切であろう。

 桐生市第四次総合計画も発表になり、新たな十年に向かっての活動も開始される。まちは市民が自らの手で守り、生き返らさなければ、衰退の一途をたどるであろう。前回の総合計画の成果が不十分となった轍(てつ)を踏まないためにも、市民の町づくりへの積極的な参画が重要なときであると思う。

(上毛新聞 2002年1月3日掲載)