視点 オピニオン21
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ライター・エッセイスト 
橋本淳司さん
(館林市代官町)

 【略歴】学習院大文学部卒。「水と人」をメーンテーマに新聞・雑誌やネット上で執筆活動を行い、著書を出す傍ら、企業取材を通じ起業、経営の在り方を学ぶ。ネット上の企画オフィスを主宰。


利用法考え直す時期に

◎大切な水

おいしい水への関心が高まっている。昨年、ミツカン「水の文化センター」が東京圏、大阪圏、中京圏在住者六百人を対象に行ったアンケート調査によると、水道水を「まずい」と感じる人は半数を超えた。一方、「おいしい」と感じる水のトップは「湧(わ)き水」(42・5%)だった。その数字を裏付けるように、各地の名水には清廉な水を求める人が長蛇の列をつくっている。

 私はこれまで、国内各地の湧き水を訪ね歩いてきた。湧き水ならすべてよいというわけではないが、ときに驚くほどうまい水に出合うこともある。深い森が舌を通過していくような感触、体に浸透していくにつれ澄んだ愉(たの)しさが波紋のように広がってゆくさわやかさ。神々しいまでに清廉な湧き水に出合うと、自然への感謝で祈るような気持ちになる。

 県内にもそうした湧き水がいくつかあり、舌の記憶として残っている。一度こうした水に出合ってしまうと、ほかにもおいしい水はないものかと夢中になった。と同時に、水道水独特の臭みを強く感じるようになった。

 だが、地球レベルで飲み水のことを考えると、水の味にこだわれること自体幸せだと思う。いや、蛇口をひねれば安全な水が限りなく供給されること自体というべきか。

 世界銀行の発表によると、現在、世界の八十カ国が水不足の問題を抱えている。十億人以上が安全な水を飲めず、毎年一千万人が汚れた飲み水から感染した病気で命を落としている。

 例えば、インドでは都市部を中心に慢性的な水不足が続き、蛇口から水が出るのは一日に一時間ほどだ。一週間に一度しか給水車が回ってこない地域もある。汚染された水が出回っているから、ボトリングされた水(ボトルウオーター)が飛ぶように売れている。が、その水が安全だという保証はない。ボトリングされた水なら大丈夫という消費者心理を突いて、汚れた水がボトルに詰められて販売されるケースも多いと聞く。

 他国の水事情が他人事にしか思えないほど、日本の水環境は恵まれている。水道水の汚染が懸念されてはいるものの、飲んで命を落とすなど考えられない。とりわけ県内には「緑のダム」と呼ばれる豊かな森林があり、利根川流域の水源県となっている。県民一人が毎日使っている生活用水は一日あたり四百八十二リットル。全国平均(三百九十三リットル)と比べてかなり多い。世界中共通することだが、川の上流に住む人々は、豊富さから水のありがたさを忘れがちである。

 だが、恵まれた状況は長くは続かないように思う。二十年後、世界人口が八十億人になると、三人に一人が水不足に直面するという予測がある。生活を支える淡水資源が枯渇(こかつ)し、残された川や湖は汚染される。こうなると飲料水は、原油以上に高価になる。

 フランスのシラク大統領とユネスコ事務局長のフェデリコ・マヨール氏は、国際的な協力と対策がなければ、水資源をめぐり悲惨な紛争が近い将来引き起こされるだろう、と警告した。個々人が水の汚染を食い止め、利用法を考え直す時期にきている


(上毛新聞 2002年1月14日掲載)