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前橋育英高校教諭・群馬陸上競技協会強化部強化委員長
安達 友信さん
(伊勢崎市八坂町 )

 【略歴】中之条高校、順大体育学部卒。86年から前橋育英高校教諭。現役時代は中距離選手としてインターハイ、全国高校駅伝、インカレ、国体などで活躍。監督では県総体、県高校駅伝など優勝。




スポーツ指導

最高のプレーを追求

 昨今の年末、年始は、日本国民の多くがスポーツに夢中になって、あいさつもほどほどにプレーし、また観戦に興じている。なぜこのような現象が現れたかは定かではないが、芸能人のかくし芸を見るよりは、全力でプレーし、お互い一歩も譲らない白熱したゲームを観戦し、つくりもので無い本物の感動を味わうことを選んだのであろうことは、想像に難くない。

 箱根駅伝は毎年、百万人を超える人出で、沿道は大手町から芦ノ湖までびっしり人垣が途切れることなく続く。テレビの視聴率はあらゆる番組の中で年間の上位に入っている。ニューイヤー駅伝や高校駅伝も同様の傾向にあり、またサッカーやラグビーについてもこの時期、すごい盛り上がりを見せる。

 とことん勝ちにこだわり、最高のものを常に追求し、競技に関すること以外の多くを犠牲にして努力をしてきた者は、どんな窮地に追い込まれても自分を信じ、チームを信じ、そしてあっと驚く奇跡的なプレーが土壇場でできてしまう。この時こそ、スポーツを見る人、する人が共に鳥肌が立つほどのすばらしさを味わう瞬間である。
 「後悔先に立たず」とは昔からよく言われる言葉で、「後になって気付いても遅いので、いま精いっぱいの努力をしなさい」という先代の教えは、だれもが知っている言葉であるが、私などは「のほほん」と学生時代を送ってきたので、特にたくさんの後悔を背負っている。

 しかし、指導者として今まさに伸び盛り、花盛りの生徒を預かるにあたって、生徒も私も後悔をしないようあらゆる努力を尽くしている。一応趣味としては、釣り、ゴルフ、スキーと付き合い程度にはできる。気持ちの上では毎週でも、いや毎日でも趣味に興じたい。

 だが、それらのすべての道具は、いつ封印してもかまわないと思っている。実際それに近い状態にある。完全なる封印がいいものかどうかについての答えは出ていない。指導に行き詰まり、多くの生徒が輝く目を失ったと感じたならば封印する。

 後悔を多く抱えた学生時代、選手時代から指導者となるにあたり、前記のような考え方ができるようになったのは、まだ教員になりたての初々しいとき、実家の父の仕事場に掲げた額に書かれたある会社社長の言葉によってであった。かつて味わったことの無い屈辱を味わい、落ち込んでいた私の目に、突然飛び込んできた。「これでいいのか、勝てるのか、まだ打つ手は残っているぞ」。私はこの言葉にはっとして、それまでの自分に対し終止符を打った。今もこれを座右の銘としている。

 今日はもうおしまいと時計に目が行った瞬間、明日の日曜日をどう過ごすべきか考えた瞬間、言葉を思い出す。最高の感動を味わうために、後悔しない人生を歩むために、そして何より指導者である以上、生徒に後悔して欲しくないから。


(上毛新聞 2002年1月21日掲載)