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富岡丹生小学校長 
新藤建也さん
(富岡市藤木)

【略歴】東京理科大学を卒業後、教職に就き、98年から現職。専門は数学だが、学生時代から作曲・編曲、絵画など芸術に親しむ。丹生地区が公募した詩に曲をつけた「ほたるの里」などが代表作。


妙義少年自然の家

◎生きる力育てる指導を

 県立妙義少年自然の家は、豊かな自然環境の中で、野外活動や宿泊体験を通して青少年の健全育成を目的に設立された。これまで着実に歩み続け、昨年八月に三十周年を迎え、利用者は八十万人を超えた。

 昭和四十六年八月、全国で最初の国庫補助による少年自然の家としてスタートした。当時はまだマニュアルもモデルとなるものもほとんどなく、職員が一丸となって、価値ある有効な施設にするべく、汗まみれ泥まみれになりながらの試行錯誤の中で、ハードとソフト面を充実させていった。

 開所二十周年当時、私は同所員として勤務していた。国民のライフスタイルが日々急速に変わっていく中で、教育のあり方が大きく見直された時代でもあった。当然、少年自然の家のあり方についても検討を余儀なくされた。施設設備はもとより、活動の狙いから一つ一つのプログラムに至るまで、再構築することになった。

 全国規模の研究会でのこと、そのことについて当時国立那須甲子少年自然の家所長であった内田忠平氏と、ひざを交えて親しく話す機会を得た。内田氏は「少年自然の家の原点は妙義にある。近ごろの施設はぜいたくに造られていて、まるでホテルのようだ。妙義少年自然の家のように、大きな部屋でテレビもラジオもなく、耳を澄ますと自然の音が聞こえてくる施設こそ理想の姿だ。これからの子どもたちには、そういう環境での生活体験がさらに要求されるようになるだろう」と語っていた。

 妙義少年自然の家指導資料集の中に、活動の狙いとして「暑さ寒さの体験」「飢えと渇きの体験」「疲労の体験」なども明記した。今から十余年前の当時は、「なんでそんなことまでも」と一部の批判もあったが、それらのことが「耐える力」を生み出す原点であると考え、あえてそうした。

 近年、脳生理学で明らかにされてきた前頭葉における三つのはたらきのうち、創造力と情操は幼少より熱心に育てようとする努力がなされてきた。しかし、もう一つの意思力については、それが形として見えにくいせいか、なおざりにされてきた。

 意思力とは、よくないことを我慢する力と、よいことを進んでやろうとする力であると言われている。このような意思力も、幼少のころから本気で育てていく努力が必要である。手段はいろいろあると思われるが、原点に「暑さ寒さに耐える体験」などがあると考える。

 現所長の大井田利興氏は、「子どもの健全な発達に欠かせない自然体験は、学校をはじめさまざまな場で活発に行われています。しかし、やみくもに体験させればよいというものではありません。体験活動が盛んなあまり大切なことを見落としているような気がします。大人による過保護な体験活動の場が多すぎるのではないでしょうか。教える場や教えてもらう場があって当然ですが、指示のみでの活動では本来培われるべき『生きる力』は育ちません」と、開所三十周年記念誌に記している。


(上毛新聞 2002年1月28日掲載)