視点 オピニオン21
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里山クラブ主宰 川原 幸司さん(千代田町新福寺 )

【略歴】三重県鳥羽市出身。関西学院大経済学部卒。区長時代から地域の平地林整備を進め、子供を集めた同クラブを主宰。現在、県警環境犯罪モニター、町森林環境教育検討委員も務めている。



平地林の魅力

◎自然の息吹を体感して

 今年も正月二日にノコギリの「引き初め」をして、平地林作業(以降「やま」は平地林のこと)をスタートしました。いつものことですが、一日やまの作業を休むと、長く親しい友に会わなかったような、久しぶりの感がいたします。

 家内は私のことを、一種の中毒症状と言っていますが、旅をしたときなどその地の森や林の状況が大変気になり、どちらからともなくわれわれのフィールドとの比較検討の話に終始しています。どうやら中毒症状は、私一人だけではないようです。

 さて、人それぞれでしょうが、私どもには、刈り込み済みの冬のやまが、特に美しく感じます。木の間越しの遠景には雪の県境の山々、近景には田んぼの向こうの家並み、たっぷり入る冬の日差し、足首が隠れるまでの落ち葉、強い西風さえ林の中では穏やかでさわやかです。多くの野鳥のさえずりもにぎやかで、作業中に頭の上で、キツツキが、私たちに合わせて木を突いているのではないか、とさえ思われる体験もたびたびです。

 このような中で作業をしていると、つい自分たちも自然の一部になってしまった感がして時間を忘れます。通りすがりの方々が「大変ですね」と声をかけてくださることがありますが、私たちには大変と言う感覚よりは、至福のように思います。

 こんな時間帯を過ごしたくて、毎日やまに引き寄せられているのかもしれません。そして、もっと心地よさを、もっと心地よさを…と、求めて作業を追いかけている気がいたします。

 さて、平地林は一般的に奥山に比べ、樹種も少なく、そのため四季の変化も少ないとの印象があるように思われます。この地の学術的調査のデーターを持ち合わせしていないので、はなはだ主観的ですが、樹種や鳥類、その他の生物は、少なくとも同面積比で山地の林に引けを取らないほど多様性に富んでいる感がします。そして、その変化の際だったさまに、あらためて驚く日々です。

 手付かずの自然が最高だとする根強い礼賛論があります。そして比較論的に里山、特に平地林などは、下位ランクの自然との見方をされていないでしょうか。平地林の開発には、そこに至る種々の経緯があることは承知していますが、それらの根底に平地林などは二級の自然(大して重要でない自然)との思い込みが、開発を促進している―とは、私の偏った見方でしょうか。

 また、一方では、やまの整備・再生作業について、一部の方々から「自然破壊」をしているとの批判を受けていますが、この見方も「手つかずの自然礼賛論」に拠を置くものと推察されます。

 いずれも、身のまわりにある自然を観念的にとらえている結果ではないでしょうか。どうぞ、やまの中に入ってありのままを感じてください。きっと自然の息吹が体感できるでしょう。そして、私たちにとってかけがえのない自然とは、の答えを与えてくれると信じています。

 私どものフィールドにもおいでください。行事等でお使いいただくことも、大いに結構ですのでご連絡ください。



(上毛新聞 2002年2月15日掲載)