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福祉住環境コーディネーター 
松本賢一さん
(新町 )

【略歴】高崎高校、早稲田大学卒。セイコーエプソンに勤務していた間、エプソンドイツ(デュッセルドルフ)に出向。89年、家業を継ぐためマツモト家具店に入社。00年度新町商工会青年部長。新町商店連盟理事。


住まいの危険個所

◎家族で情報交換しよう

 福祉住環境コーディネーターとしての仕事の中で、少し気がかりなことがあります。それは、自分の住まいの危険個所について、意外に家族間で話し合われていないのではないかということです。

 年齢を重ねるとともに、身体的状況が変わり、住まい環境との不適合が生じ、日常生活の中に危険が生じてきます。事実、平成十一年に発表された『人口動態統計』によると、六十五歳以上の高齢者の家庭内での不慮の事故による死亡が一年間に八千二百六十八人で、事故の内容は転倒、転落、墜落等のほかに浴槽内での溺死(できし)だそうです。六十五歳以上の方の交通事故死者数が四千九百十七人であることからするといかに多いかがわかります。この家庭内での不慮の事故を防ぐ必要があります。

 ある依頼者は「心配をかけたくないから今まで話さなかったが、実は入浴中についついうとうとして、こっくりした瞬間にふろの湯を飲んでしまったことがあった。あの時は本当にびっくりした」と話し、これを聞いた奥さんも「私もそういうことがあった」と応じ、初めて二人で危険情報を交換し合いました。

 そこで、介護認定を受けている方、これから受けられる方、また、日常生活でつまずきや転倒などの危険を感じている方には、まず家族で話し合い、専門家に住宅内の危険個所の点検をしてもらうことをお勧めいたします。専門家は依頼者の気がつかない危険の要因を分析し、適切に対処してくれます。

 こんな例があります。「二階から階段を下りようとしたところ、足が滑り、しりもちをついてしまった。そこで、床を滑りにくい材質に張り替えてほしい」という依頼を受けたので行ってみると、確かに床も滑りやすい状態でしたが、原因はそれだけではありません。階段には手すりがついているのですが、丸パイプ自体が回転する状態であること、丸パイプと壁との距離が短く、とっさに握ろうとした場合、指先が壁にぶつかってしまうのです。うまく握れたとしても肝心のパイプが回転してしまっては、役に立ちません。そこで、手すりにも手直しが必要だったのです。

 また「朝、新聞を取りに玄関を出て、門扉の所で転倒してしまった。そこで、門扉に手すりをつけてほしい」という依頼でおうかがいしたところ、確かに門扉を境に、道路と住宅敷地の地盤面とに大きな高低差があり危険な状態でした。しかも玄関から門扉までの動線にも無理があり、単に手すりをつければ解決するものでもありませんでした。この場合、塀や門扉自体を造り変えるには費用がかかりすぎるので、次善の策として、縁側に手すり付きのステップ台を取り付け、新聞受けを縁側から取りやすい位置に設置しました。

 このように危険個所に気づいたとしても、さらにその危険要因について分析し、その住環境・その家族・その人に最もふさわしい解決方法を考えなくてはなりません。また、当然ながら介護保険など適用できる施策がないかを検討することも必要です。


(上毛新聞 2002年2月28日掲載)