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高瀬クリニック院長 
高瀬 真一 さん
(高崎市南大類町 )

【略歴】勢多・東村出身。桐生高校、群馬大学医学部卒。74年、同学部集中治療部助手。85年、国立療養所足利病院医長。89年、済生会前橋病院循環器内科部長。95年、群馬循環器病院副院長。98年から現職。


心電図

◎顔と同じく人さまざま

 心電図は人間ドックをはじめとした健康診断で、循環器系の指標として必ず行われます。しかし、心電図検査のみで、心臓に問題があるかどうかを判断するのは難しいことです。現実的には、健康診断で心電図異常を指摘されて受診される患者(健常者)が極めて多いことを実感しています。そこで、どうしてこういった矛盾が起こるのか考えてみたいと思います。

 実例から示します。洞性頻脈、人間ドックでの判断はF。この結果をもらった方は心臓が大変悪いと考えてしまいますが、洞性頻脈とは脈が速いことであって(一分間百以上)、心臓に問題があることはほとんどありません。時に、甲状腺(せん)機能亢(こう)進症があるときがありますが、問診並びに診察で甲状腺は腫(は)れていないかとか、甲状腺ホルモンの分泌亢進のために、体重減少や手指の震えなどの症状があるかどうかで判断できるものです。

 私も学生時代、心電図はよくわかりませんでした。そこで、毎日心臓の悪い患者さんを診ていれば心電図が読めるようになるだろうと考え、循環器専門の医局に入局しました。心臓の悪い患者さんを専門に診る心臓外来がありました。そこではまず問診が重要で、どういう症状があるか、その症状はどんなときに出現するか。次に聴診器による診察ですが、心臓や血管に雑音がないか、手足の血管の脈は触れるかなどなど、問診と聴診で心臓や血管に問題がないかどうか、おおよそ見当がつくようになるまで、数年かかったと思います。

 さて、疑った病気がどの程度の重症度であるか検査を行うことになりますが、心電図と胸部レントゲン写真は、簡便で非常に役立つ検査でした。しかし、心電図がどう見てもおかしいのですが、心臓超音波検査や運動負荷試験でも何の異常もなく、症状のない方もおります。人それぞれ顔つきが異なるように、最近は心電図もさまざまだな、とも思えるようになりました。

 心電図検査で診断できるのは、不整脈と急性心筋梗塞(こうそく)かと思います。しかし、不整脈も必ずしも心配ないことが多く、二十四時間心電図検査による判断が必要でしょう。急性心筋梗塞の場合は、強い胸痛を伴うものです。逆に心電図には異常がなくて健康診断では問題なし、と判定されるのが狭心症です。この病気は、心電図よりも症状がきわめて大事です。胸が締め付けられるような症状があったら、狭心症の原因である冠状動脈に問題がないかどうか、調べる必要があります。こうして、狭心症から急性心筋梗塞への進展を予防できると思います。

 さて、健康診断で洞性頻脈、右脚ブロックなどなどの心配ない心電図異常を指摘され、毎年心臓の精密検査を行うのは無駄なことです。循環器が専門ではない医師は、心電図のコンピューター診断に頼っているようです。外国の心電計には、専門医顔負けの診断能力を持ったソフトが組み込まれています。診断能力を高い心電計の普及が、健康診断の無駄をなくしてくれるかもしれません。また、自分の心電図を持参して、健康診断に臨むのもいいかと思います。


(上毛新聞 2002年3月9日掲載)