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日本蛇族学術研究所所長 鳥羽通久さん(高崎市小八木町 )

【略歴】高崎高校、東北大理学部卒。生化学専攻でヘビの毒性を主に研究。卒業と同時に日本蛇族学術研究所に勤務、97年から現職。日本爬虫両棲類学会評議員。医学博士。


ヘビの恋の季節


◎配偶行動は一見けんか

 今年は季節の移り変わりが早く、もう初夏になろうとしているが、今は多くのヘビにとって、恋の季節である。単独行動を基本とするヘビにとって、冬眠場所からあまり離れていないこの時期は、異性を見つけるのにも都合がよい。カナダでは、大きな冬眠穴で数千匹のガータースネークが集まってくる場所が知られているが、今ごろは冬眠から先に覚めた雄が、後から出てくる雌を待っていて、争うように交尾する光景が見られる。それが終わると、ヘビたちは広く分散していく。

 本県あたりでも、夏に交尾するマムシと、秋に交尾するヤマカガシの一部を除くと、だいたい今ごろ、配偶行動が見られる。

 中でも、最も興味深いのがシマヘビである。シマヘビは、雌雄の間の配偶行動に加え、雄同士の力比べであるコンバットダンスと呼ばれる行動が見られる。これは儀式的コンバットとも呼ばれ、儀式的といわれる理由は、一定のルールが確立していて、相手を傷つけたり、殺したりすることはなく、あくまでもルールの枠内での行動を取ることによる。いまだに殺し合いが絶えない人類と比べても、ヘビがいかに平和的な動物であるか、ご理解いただけようか。

 もし、二匹のシマヘビが縄のようによじれ、お互いの体の周りを回転しているなら、それはコンバットである。これは、交尾行動と誤認とされていることが多いのだが、人のことは言えないので、私自身、スネークセンターの野外放飼場でシマヘビの観察を行って、コンバットに気付くのに十年以上かかってしまった。先入観というのは恐ろしいもので、いったん気付けば、コンバットと配偶行動を絶対に間違えることはないのだが。

 では、シマヘビの配偶行動というのはどういうものかというと、かなり荒々しく、最初のうちこそ雄が雌の体に寄り添って、穏やかな刺激を加えているのだが、そのうちに雄は雌の体にかみつく、交尾の時に雄が雌の体をくわえるのは、トカゲではよく見られ、県内で普通に見られるトカゲであるカナヘビでは、胴体に雄の歯形がついた雌をしばしば見かける。しかし、ヘビの歯はトカゲに比べ大きく鋭くできていて、雌がわずかではあるが傷つくのは避けられないようである。トカゲの場合、雄が雌の胴体をくわえることで、交尾しやすい体勢になるのは、よく理解できるが、ヘビの場合は体があまりにも長いために、胴体の一カ所をくわえたくらいでは、とても交尾の役に立つように見えない。雌にとって負担になるような、こういう行動をなぜ行うのか、今のところ不明である。

 いずれにしても、シマヘビにおいては、一見けんかをしているような激しい行動が、実は雌雄の配偶行動で、仲良く交尾しているように見える注連縄(しめなわ)に似た形が、実は雄同士の闘争なのである。県内の平野部では、もう遅いかもしれないが、山間部ではまだまだこうした行動を見ることができるだろう。




(上毛新聞 2002年4月24日掲載)