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烏川流域森林組合代表理事組合長 原田惣司さん(倉渕村岩氷 )

【略歴】日本大学芸術学部専門部卒。倉渕村教育委員、同議会議員、同消防団長、同収入役などを経て、現在は烏川流域森林組合長、倉渕山岳会長、群馬郡文化協会連絡協議会長などを務める。


富士の白い川


◎遅れている「し尿処理」

 山頂に白銀の雪をいただき、ゆったりとした曲線を天頂に集めて、青空にそそり立つ富士山は、日本人の美意識の原風景ともいえるほど、見る者に感動を与えてくれます。

 四季折々、朝昼夕と変化に富み、いつも新鮮な姿を四方から見せてくれますが、中でも雪の白さが一層輝きを増す春先、前景に七分咲きの桜を伴って春がすみの上にそそり立つ富士山は、まさに伝説の美神、木花之開耶姫(このはなのさくやびめ)をご神体とする山にふさわしく、清楚(せいそ)で華かな姿が見られるのです。

 それにしても、この神秘で奥深い感銘は、どこからわいてくるのでしょうか。多分、百キロメートル四方の広大な空間のどこから見ても間近に見え、海抜ゼロから三七七六メートルの高山を含めた大自然が、一気に網膜の中におさめられるためではないかと考えてしまうのです。

 あんな美しい山に一度は登ってみたいと、昔から人々はあこがれました。多分、あの頂は浄土に近い所だろう、と考えたからでしょう。

 今この山が一般に開放されるのは、七月一日の山開きから八月末の二カ月間だけです。中でも天候の比較的安定する七月下旬から八月上旬にかけて集中して登れます。通年して人々を受け入れることのできないこの山の施設は大きく混乱を起こし、オーバーユースによる数々の問題が生じるのもこの山の常となっています。

 中でもし尿処理の問題は深刻です。頂上直下の斜面に流れる「富士の白い川」なるものは、この山の受け入れ対策の遅れを象徴しているかに思えるのです。シーズン中にためられた山頂共同便所のし尿は、シーズンの終わりに一気にゲートが開けられ斜面を流れ落ちます。一冬、雪にさらされると、トイレットペーパーが表面にこびりついて、遠目には白い流れのように見えるのです。このようなことが、長年の間繰り返されてきたのです。最近は多くの関係者の方々が、富士山のこれらの問題解決のために努力されていると聞きますが、日本の自然を象徴する富士山には国家の英知を絞って対策にあたり、自然を回復して、世界に誇れる内容を持つ山にしてこそ、世界遺産登録も実現されるのではないかと思います。

 良い場所には、必ず人々が集まります。人の集まる所には、必ずし尿処理の問題が付きまといます。百名山ブームによって、全国各地の観光的名山が今、この問題にさらされ、多くの事例が見聞されていますが、根本的に解決された例はまだ少ないようです。中には台風の増水時を見計らって沢に流したり、登山道から離れたヤブの中にたれ流しをしている例もあるようです。高山ゆえにバクテリアの繁殖が悪く、貴重な水を使うことのできない事情は分かるのですが、最善の工夫をしてほしいものです。最近では登山者が自発的に持ち帰り運動を行っていますし、また加賀の白山のようにヘリを飛ばして回収している所もあります。しかし、これらが本当に地球にやさしい方法なのかと言われれば疑問も残ります。人間も自然の一部であるならば、自然界の微生物を活用した調和循環で自然に返すのが理想なのですが。





(上毛新聞 2002年4月26日掲載)