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全国過疎地域自立促進連盟・調査研究部長 
湯沢進さん
(東京都東大和市 )

【略歴】前橋市出身。前橋高、群馬大卒。本県と埼玉県、自治省に勤務。この間、岡山市財政局長、熊谷市助役を歴任。本県林務部長を最後に退職し、5年前から全国各地の過疎問題に取り組む。



ハイテク社会


◎世の中に「絶対」はない

 かれこれ一年ほど前に新車に乗り換えた。上州人によくあるように新しいものが好きなせいか、筒内直接燃料噴射エンジンと自動無段変速機(いわゆる「直噴エンジン」と「CVT」)を兼ね備えたものである。このとき私が調べた限り、直噴エンジンかCVTかのどちらかを装備している車種は結構出まわっていたものの、両方を兼ね備えた車種はあまり見当たらなかった。

 その効能であるが、直噴エンジンは燃料の消費効率が良いので、燃費に優れ、CO2の排出量が少なく、CVTは「無段」の名のとおり変速のつぎ目がなく連続しているので、出足がよく滑らかな加速を可能にする。また変速機能には、六段のマニュアル装置もついていて、高速道路や山道でのマニュアル運転で燃料節約やパワーアップに効果抜群である。そして7インチ液晶モニターによるTV/ナビゲーションシステムが標準装備とご機嫌ものであった。

 半年ほど過ぎ、東京の都心に用事があって、首都高速道路に向かい鼻歌まじりで運転しているときであった。突然、ナビの音声とともにモニターには「エンジンがオーバーヒートしています。路側帯に移動して停車し、トランクルームをあけてエンジンを冷やしてください」という警告が出たのである。エンジンメーターを見ると、針がぐんぐん上がって赤い危険ラインに達しているではないか。

 運転歴三十五年、こんな経験は初めてのことである。幸い目の先にガソリンスタンドがあり、見てもらうと、ラジエーターのキャップの圧力不足ではないかということで、新しいのに交換してその後は事なきを得たのであった。

 わずか半年でエンジンのオーバーヒートとは納得できない。すぐにディーラーに抗議に及んだ。ディーラーも信じられないという様子ながらも全面的な点検をすることになった。その結果は、エンジンを中心としたメカに全く異常は認められないというもの、取り外したラジエーターのキャップも正常な圧力を保っているというのだ。

 原因は何か。ディーラーの説明によると、今の宇宙空間には無数の電波が行き交っているのだそうだ。この無数の電波の中で、現実にオーバーヒートが起こったときにナビゲーションシステムに送られる電波と同じようなものをキャッチして反応し、誤った警告を出したのではないかという意外な事態であった。

 このような警告が出るシステムがなければ、こんな騒ぎは起こらない。ハイテクノロジーは人の暮らしに多大な恩恵をもたらし、人の楽しみを限りなく増幅させてくれる。しかし、今日のハイテク社会では、そのハイテクによる豊かさも、全くの不測の事態によって一転してパニックになる可能性も秘めている。この経験は私が慌てたぐらいで済んだが、どんなに科学や技術が進歩しても、この世の中には絶対というものはないことを肝に銘じ、心して生きていきたい。



(上毛新聞 2002年5月1日掲載)