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高瀬クリニック院長・高瀬 真一さん(高崎市南大類町 )

【略歴】勢多・東村出身。桐生高校、群馬大学医学部卒。74年、同学部集中治療部助手。85年、国立療養所足利病院医長。89年、済生会前橋病院循環器内科部長。95年、群馬循環器病院副院長。98年から現職。


高血圧


◎原因ははっきりしない

 血圧とは何なんだろう、と考えさせられることがあります。血圧が高かったので血管が破裂するのではないか、と心配されて外来にこられる患者さんが多いからです。

 血圧は、一日のうちでも刻々と変化しています。例えば、緊張したり運動中は血圧が上昇します。健康な方でも二〇〇を超えることはしばしばあります。二十四時間の血圧測定検査を行ってみますと、その変化ははっきりいたします。昼間血圧が高くても、夜間睡眠中は非常に下がっていて、一〇〇以下になっていることもあります。また朝に比べて、午後から夜間に血圧が高くなっている人が多いのですが、その逆の変化をする人もいます。こういった血圧の変動を日内変動と言います。

 さて、最近は病院をはじめとして、いろいろな施設に血圧計が設置されていますし、自宅でも血圧を測る機会が増えましたが、どうもそういった血圧計に問題があるのではないかと疑問を持つようになりました。

 そこで、患者さんに普段使用している自動血圧計を持ってきていただいて、私の使っている水銀柱の血圧計と比べてみましたところ、ほとんどの自動血圧計で測定値は高く出ていました。なぜこうなるかは、測定方法の違いによると考えられます。ですから、一度血圧が高かったからといって、あわてることはありません。まず本当に血圧が高いのか、場合によっては二十四時間の血圧測定をおこなって、血圧の変動がどうなっているかを確認できると正確な判断が可能です。

 さて、血圧が高い状態が続くと、何がまずいのでしょう。脳の血管に負担がかかり脳出血が増える、目の血管では眼底出血が、心臓は心肥大から心不全、腎臓は腎不全が、足にいく血管に問題が起これば、閉塞(へいそく)性動脈硬化症というように全身に影響が出ます。

 しかし、高血圧の多くは本体性高血圧といって、原因がよく分かっていません。多くはありませんが、副腎から血圧を上昇させるホルモンの過剰分泌による原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、クッシング症候群や腎動脈狭窄(きょうさく)による腎血管性高血圧症など、原因のはっきりしている高血圧もあります。

 原因のはっきりしない高血圧症ですが、昭和三十年代、佐久総合病院の若月先生、群馬では県立前橋病院の渡辺先生、群大の大月先生らが、脳卒中と血圧との関係から塩分のとりすぎに着目し、生活習慣の改善から血圧を下げ、脳卒中を減少させた功績は大きいものがあります。またパプアニューギニアの奥地や、エスキモーなど塩の手に入らない地域の人々には高血圧症はない、という報告もあります。塩分と血圧の関係は長く語られてきましたが、減塩のみでは血圧が下がらない人もいることが分かってきました。

 一方、過食や運動不足、ストレスも高血圧と関係が深く、適当な運動が血圧を下げたり、安定させる効果があります。降圧剤はどのくらい血圧が高いか、一日の血圧の変動がどのようであるか、また全身に高血圧による合併症の有無により、慎重に決められるべきです。




(上毛新聞 2002年5月4日掲載)