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自治医科大学講師 茂木秀昭 さん(栃木県南河内町 )

【略歴】館林高卒。慶応大学、コロンビア大学大学院修士課程修了。京都ノートルダム女子大文学部講師を経て現職。著書に「ザ・ディベート―自己責任時代の思考・表現技術」(ちくま新書)など。



ディベート

◎問題を発見する力養成

 生徒自らが問題を発見し、解決策を見いだすことにより「生きる」力を身につけることを目的とした総合的な学習の時間が、新学習指導要領の下、四月から本格的に導入された。

 既に体験学習や地域の調べ学習などを積極的に取り入れている学校がある半面、「自らが課題を発見する」ということを強調するあまり、「とにかく生徒が興味のある課題を調べて何かが得られればそれでよい」といった、生徒任せの姿勢が見られる学校もあるようである。しかし、いきなり生徒に自分で問題を発見して解決策を探りなさいと言っても、そのための教育がなされていなければ、あまり実りのある結果は生まれないであろう。

 そこで、そうした教育の一つの方法として提案したいのが、ディベートである。ディベートはディスカッションのように、お互いの主観的な意見を主張しあったり、相手を言い負かすたぐいの単なる討論ではなく、問題を発見し、テーマを設定し、相反する両面から問題の本質を探り、客観的なデータを基に合理的な解決策を選択していく手法である。ディベートを導入することにより、教科内容にも関連性を持たせたり、教科横断的なテーマで発展的な学習につながることもできよう。

 方法としては、クラスを半分に分け一つのテーマを扱ったり、五、六人のグループに分けて同時に複数のテーマを扱ったりすることも可能で、問題を調査し、議論をつくり、試合や審査をしたりと、四十人のクラスでも全員参加で行うことができる。もちろん生徒のレベルに応じた指導が必要であるが、そうしたプロセスを通じて論理的な思考力や、コミュニケーション能力、情報収集能力、問題解決力などが養成されていくので、他の活動をする際にも「自ら課題を見つけ自ら考える」ことができるようになる。またその過程で基礎的な知識を獲得するのみでなく、それらを現実の問題を考える生きた知識として活用できるようにもなるであろう。

 教師はトピックの選択や設定を手伝ったり、資料の収集方法や調査のポイントなどを示したり、議論のつくり方や反論の方法などを共に考えたりすることもできよう。なによりもディベート導入により、知的なゲーム感覚で生徒の学習意欲を高められ、自ら学ぶ力や表現能力を養成することも可能となる。実際、ディベートを取り入れた小、中学校では、児童・生徒が勉強に前向きになったり、クラスの雰囲気が明るくなっていじめがなくなったという報告もあるほどである。

 週休二日制の導入により学習内容も三割削減される中、さらなる学力低下の懸念もあり、早くも、総合学習の時間を削減して受験のための授業に振り替えるべき、との声もあるようである。しかしながら、総合学習を重荷にするのではなく、従来の受験教育とは異なる創造的な教育を行う好機ととらえ、その活動の一つとしてディベートを導入してみてはいかがであろうか。


(上毛新聞 2002年5月7日掲載)