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県温泉旅館協同組合理事 高橋秀樹さん(伊香保町伊香保 )

【略歴】明治大大学院修了。県内温泉地で修業した後、83年から家業の旅館「美松館」を継ぐ。若手経営者の一人として旅館協同組合、観光協会の理事、監事を務める。01年から伊香保小PTA会長。



学校5日制

◎地域での教育力は重要

 素晴らしい知識や技術を身につけた人間はたくさんいるのに、何かが足りない、違っている。そんな人間性の欠落感を踏まえて、学習内容の削減や学校五日制という具体策が生まれ、子どもたちを過度の学校依存症から家庭や地域に戻してみようという試みが始まった。

 一見すると、学力偏重主義の修正として学校教育の見直しという現象に見えるが、裏を返せば家族のあり方、家庭教育の実態への反省を促したものとして、とらえる必要があると思う。

 私自身の体験からすれば、世の多くの父親同様、子育ては母親まかせ。しかしPTAの役員となり、少しずつ学校にかかわりを持つようになり気づいたことは、親子関係が実に新鮮になったことである。子どもが快活に話をしてくれる。また聞いている私もうれしくなってくる。一軒の家の中で大げさな、と言われるかもしれないが、本当は学校や教育に無関心だったのではなく、子どもそのものに無関心だったのではないか、という羞恥(しゅうち)が私の心の中に生まれた。あらたまって親子の「対話」とか「ふれあい」などと言わず、自然なかたちで目と目を合わせ言葉を交わす。そのことから再出発しなければ、という気分。

 学力低下を心配する向きもあるようだが、例えば小さいころ家で本を読んでもらったとか、動物園や博物館に連れていってもらったという体験を持つ子どもほど、学力も高いそうである。要は親の生きる姿勢(仕事も含めて)をしっかり示しながら子どもに向き合う。そのことが何よりも求められているのであろう。

 また、地域での教育力の回復も重要であると感じる。現にわが校(伊香保小)でも米づくり(田植えから収穫、ワラ細工まで)でお年寄りの力を借りた。核家族の波の中で、高齢者とふれあいを持ち、お互いの経験を話し合う、両者の楽しそうな姿を見て、しみじみ人間の交流の大切さを再発見した。

 実はそのような出会いの場を親や先生、地域の人々の理解と協力のもとに設営すれば、人間性回復のために生きる力と知恵を伝授してくれる「教師」や「師匠」は身近にいるものである。同じ学習を通して共に汗を流し、その教育的成果を喜びをもって分かち合うことが貴重なのだ。

 社会学の立場から、住民の地域への帰属性が希薄化したのは、職能伝達が衰微し、近代的個人の確立がなされた、とする説がある。人が職業によって土地に結びつけられた前近代性を脱却することにより自由人になる、というわけである。確かに「かじ屋」の子は「かじ屋」にならず、好きな職業に解放された時、真の自我を獲得したことは納得できる。しかし、その代償として、人々が共同体の意識を失いながら古里の活力を弱体化し、人間関係さえも冷淡にするなら、その打開策として、今の教育改革に我流で接触することも一興である。

 学校にまかせておけば何でも教えてくれる、という親(大人)の甘えを克服し、限られた時間の中でも、人間交流を基盤にした体験学習の現場づくりを、しっかり構築すべきであろう。


(上毛新聞 2002年5月9日掲載)