視点 オピニオン21
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東京福祉大学社会福祉科実習担当主任教授
 ヘネシー澄子さん
(伊勢崎市中央町 )

【略歴】横浜市生まれ。ベルギー、米国に留学し、デンバー大学大学院で博士号を取得。インドシナ難民支援のためアジア太平洋人精神保健センターを創立、所長として活躍。2000年から現職。



日米の医療見解

◎病院はホテルではない

 医療財政の悪化、院内感染、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)などの問題が、ニュースをにぎわせている。長年日本を離れていると、日米の医療への見解の違いが見えてくる。医療財政の立て直し政策で、日本では患者の医療費負担増が推進されているが、アメリカでは医療の無駄を省いて、マネジッド・ケア(管理された医療)対策で、医療費の急騰を抑えている。

 病院の使い方も異なる。アメリカでは病院は各種の病気を持っている人たちが一堂に集まるので、いかに予防対策をこうじても、院内感染の可能性は避けられないとみられ、「その可能性があれば、必ずそれは起こるのだ」というピーターの原則に基づいて、抵抗力の弱っている回復期の患者は、病院でしかできない医療行為が終了した時点で、早急に退院させ、家庭やリハビリセンターで療養させる。そのため平均入院日数が非常に短い。

 カリフォルニア州に住んでいる八十八歳になる私の母は心臓まひ、乳がん、大腸がん、大腿(たい)骨頭骨折などで、過去二十年間何度か入院した。心臓まひでの入院が一番長くて一週間、外科手術の入院は全部それぞれ四日間であった。入院中は集中医療とリハビリが行われ、退院後は病院と契約のある在宅介護サービスが、一、二週間ほどフォローした。これは医療費の軽減につながるだけでなく、患者の日常生活を崩させず、またそのリズムを早く取り戻させ、生活機能の低下を防ぐことに役立っている。

 日本に帰って、友人たちが病院を三食介助付きのホテルのように考えているのに驚いた。「病院でゆっくり療養」という表現、「安静に」といって医療行為がなくても入院していられる現況。若く、日常比較的健康な患者には、出産後や外科手術後、病院で「休ませて」もらうのは良いかもしれないが、高齢者にとって、長期の入院はADLといわれる日常生活動作の能力を低下させ、家庭復帰を遅らせ、または不可能にしているのではないか。医師である友人と話し合った時、早期に退院を勧めると、「この病院は不親切だ」と批判され、長期入院で、高齢者患者のADLが低下すると、「入院前と同じにして帰してください」と言われるという。病院に代わる在宅介護やリハビリ施設の充実が今後の課題であるとともに、病院はホテルではなく、真剣な医療の場であり、院内感染の可能性をかんがみ、患者として長居する所ではないことを再認識すべきである。

 最後に、十分な説明のない医療行為が問題になっているが、日本人の医師に対する盲目的信頼と「お任せ」の態度も原因の一つであると思う。治療を受け、治らなければならないのは患者自身なので、幾多の治療方法の説明を聞き、吟味し、選択するのは患者や家族の責任である。説明不十分として医師や病院を責める前に、患者や家族が医療行為の理由と結果を質問する習慣をつけよう。「医者にすべてを任せる」時代は終わったのだ。


(上毛新聞 2002年5月12日掲載)