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医療法人ラホヤ会道又内科クリニック理事長 
道又 秀夫さん
(高崎市柴崎町 )

【略歴】日本医科大卒。群馬大第一内科に入局後、伊勢崎市民病院、前橋赤十字病院などに勤務。98年1月、国立がんセンター出身の妻、かおるさんとともに開業。アレルギー科・呼吸器科専門医。


肺気腫

◎禁煙が有効な治療手段

 たばこの煙は、喫煙者自身の肺への障害と同時に、周囲の人への健康被害を起こすことが知られています。従って、喫煙は自身の問題であると同時に社会問題であると考えられます。このことから公共の場での禁煙の必要性と、そのための法制化が論じられるべきと考えられます。

 たばこの直接障害の話からはじめますと、たばこによる肺がんの発生率の上昇は有名で、少しでも健康に関心がある人は誰でも知っている事実ですが、肺気腫を代表とする閉塞(へいそく)性肺疾患の最大の原因であることはあまり知られていません。今後、肺気腫患者の増加は、喫煙率の増加と人口の高齢化と相まって著しいと考えられます。さらに、女性の喫煙率の増加に伴う肺気腫の増加は急激で、喫煙男性に比べて喫煙女性の発病率は数倍であるとされています。これは、性ホルモンに関係あるのではないかとも言われています。

 肺気腫は高齢者に多くみられますが、比較的若年からその兆候があります。しかし、初期の肺気腫は専門医の精密な検査により初めて発見されます。従って喫煙者は、若いころから肺の精密な検査が必要であると考えられます。肺気腫に対する最も有効な治療手段(予防手段?)は早期の禁煙であることを考えると、なるべく早期に発見し禁煙することが必要です。肺気腫になる強い遺伝的素因を持っている人は、早期に禁煙をすることが最良の手段であり、比較的遺伝的素因の少ない人でも、今日のような高齢化社会においては、いずれは肺気腫になることが考えられるため、早期の禁煙は必要であることはいうまでもありません。

 肺気腫は極めてゆっくり進行するため、高齢となって初めて自覚することも珍しくなく、三十―四十歳代からその兆候が認められることも特殊なことではありません。早期に発見し治療を開始しなければならないという意味では肺がんと同様ですが、肺がんは自覚した時点から亡くなるまでが短いのに対して、肺気腫は自覚してから長い期間、一日中苦しい状態が続きます。禁煙により病気になる可能性を激減できるという意味では両疾患とも共通です。

 さて、たばこの周囲の人に対する有害性から言うと、伏流煙が最も有名です。伏流煙とは、灰皿に置いてあるたばこから立ち上る煙であり、これは周囲の人に対して最も有害です。このことから、狭いレストラン、列車内、飛行機内等の公共の場での禁煙は必須のことであります。米国カリフォルニア州では九○年代に住民投票によってレストラン等での完全禁煙法案が可決され、現在ではロサンゼルスなどの都市では全面禁煙となっています。

 すべてアメリカのやっていることが正しいとは考えられませんが、正しいと思われることがその理論、論争で決定される姿勢は見習うべきで、日本でも禁煙法案を可決すべきだと思います。


(上毛新聞 2002年5月24日掲載)