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郷土史家 大塚 實さん(箕郷町生原 )

【略歴】1934年箕郷町生まれ。小さい農園を耕しながら自給自足の生活をして、健康の維持にも努めている。96年から日本野鳥の会会員で、探鳥会に参加している。98年から箕郷町文化財調査委員。
カラス

◎榛名山の三歌鳥の一つ

 箕郷町富岡の梅林近くに鳴沢湖がある。ここに、多くの水鳥が飛来するが、カモイリ(鴨入)・カミツバクロ(上乙鳥)、シモツバクロ(下乙鳥)など野鳥に関する地名が多い。中野にはトンビイシ(鳶石)、オトバ(音羽)、白川にはシギアゲ(鴫上)などもある。

 伊香保付近の野鳥については大正四年の記録を見ると、キツツキ、アカゲラ、オオルリ、セキレイ、ホトトギス、ジュウイチ、キジ、ヤマドリ、カモ、オシドリなどが挙げられている。

 松井田町では、前田利家など北国勢が小田原城攻めの途中、大道寺政繁の松井田城を攻撃した記述の中にサンコウチョウが出てくる。四百年以上前の事柄について、旧家に残る古文書の中に次のような記述がある。

 『松ケ枝の城は北条時頼が諸国を巡見した折、信濃路を越え碓氷峠にさしかかり、熊野神社から横川に来て、旅の宿をもとめた夜、サンコウチョウがしきりに鳴いたために、夜が明けてから、その方角の山に登ったら、昔から霊山と言われていて、築城するのに適した所だとわかり、二階堂遠江守に縄張りをさせ、荒砥左衛門藤綱を作業奉行にした。弘長二(一二六二)年三月竣工、城名を青龍山松ケ枝城と定めた』

 ここに述べられている史実はともかく、初夏の日本に渡ってくるサンコウチョウの雄は、尾が長く、“月・日・星ホイホイホイ”と鳴き声が聞こえる様は見事である。日本で子育てをして南の国へ渡る時には尾が短くなるようだ。

 天明六(一七八六)年、奈佐勝皐(なさ・かつたか)は江戸から上野国(こうずけのくに)へ旅したが、榛名神社で「榛名山の三歌鳥」について説明を受けた時の様子を次のように紀行文にまとめている。旧暦五月一日のことである。

 『この山に古より三歌鳥と呼び三つの鳥あり。一には三宝鳥、二つには戒行鳥、三つには歌聖鳥と申し侍る。三宝鳥とは仏法僧鳥なり。戒行鳥とは慈悲心鳥なり。歌聖鳥とは二羽の烏とて昔より、この山に烏二羽のみぞいる。その他には三里が間にすべて又候はず。仏法僧鳥は折々、その声聞こゆれど、極めて稀に候なり。あわれおわしますあいだに鳴くべし。聞かせまいらせんものをと二人して言う』

 仏法僧鳥も慈悲心鳥も、その鳴き声から付けられた呼び名であるが、“仏法僧”と鳴く鳥はコノハズク、慈悲心鳥はジュウイチのことである。六月は『榛名山の三歌鳥』やサンコウチョウなどの鳴き声を聞くことのできる季節だ。

 鳥類は私たちの郷土で愛されてきたから、地名や物語の中に登場する。カラスは「榛名山の三歌鳥」に数えられている。鳥類は脊椎(せきつい)動物の中では哺(ほ)乳類に近く賢い。箕輪城跡上空辺りで、カラスとオオタカが争っている光景を時々見かける。オオタカの卵が奪われたりすれば、カラスに餌(えさ)を与えて増やし過ぎた人間が鳥類に襲われる。


(上毛新聞 2002年5月30日掲載)