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県老人福祉施設協議会会長 大林 美秋さん(吉岡町小倉 )

【略歴】専修大経済学科卒。社会福祉法人・薫英会の知的障害者施設、薫英荘指導員を経て特別養護老人ホーム船尾苑苑長。93年から県老人福祉施設協議会会長。現在、県社会福祉協議会副会長。
アルツハイマー症

◎記憶の帯が途切れる

 前回(四月十日付)まで三回にわたり、介護を取り巻く公的な制度への意見を述べてきた。後半は具体的に要介護高齢者、特に痴ほう性高齢者への正しい理解とその介護について紹介をしてみたい。

 過日、東京福祉大学において日米高齢者保健福祉学会が開催され、シンポジウム参加者として発表の機会を頂いた。シンポジウムは、ニューヨーク州立発達障害基礎研究所の心理学博士A・J・ドルトン氏の基調講演から始まった。痴ほう症により変化していく脳のスライドを使った講演であり、アルツハイマー症の発生のメカニズムや、脳の退行性変性の様子が克明に紹介された。さらには治療の可能性として、原因であるアミロイドベータペプタイドに対するワクチンの開発についても提言された。もう米国ではワクチンが開発されたのかと耳を疑ったが、内容はアルツハイマー症を予防できる理論上の確認でしかなかった。いずれワクチンや治療薬の開発などにより、病気としてのアルツハイマー症は医学として解決ができると信じている。

 しかし、現在ではアルツハイマー症が始まってしまった人たちの病気としての治療はかなり困難なことも確かである。ならば介護(生活)する上で、どのようにかかわったらよいのか。症状が進行しても、人としての尊厳を尊重しながら、病気としての特性を理解することから始まるのではないか。

 「飯はまだかい」から始まるコントがあるが、現実に家族に突然、痴ほう症が始まり「記憶障害」の状態が始まったら「お笑い」では済まない。二十四時間、介護にあたる家族はどう対応してよいか困惑するであろう。家庭や家族間の人間関係の歴史においても対応はさまざまであろうし、本人も家族も全員で大変な苦労を背負うことになる。

 誰にも物忘れはある。しかし、アルツハイマー症の場合、その時の行動や、過去の状態や経験から思い出すことができる通常の「物忘れ」とは異質のものである。記憶の帯が突然、脳の損傷により、まったく途切れてしまうのが特徴である。たった今、食べた食卓の前でも「ご飯をたべさせてもらっていない」となるのである。好きで本人が忘れたわけではない。脳の器質性障害からくるものである。現実を理詰めで確認させようとしても、記憶の帯から欠落してしまったものを理解すること自体が無理なのである。

 逆に記憶に対する能力はなくなっても、事実を鋭く指摘された嫌な思い出は「介護への抵抗」など問題行動として、異なる形になって表れるのが特徴でもある。「記憶」とは別に、感情や情緒は脳の中でも別なところに残されている。

 本人にとっては目的や意味のある行動でも、社会一般常識からは「問題行動」として評価を受けてしまうのも大きな特徴である。次回は具体的なケースとその対応を紹介したいと思う。



(上毛新聞 2002年5月31日掲載)