視点 オピニオン21
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夢現じゅく塾長・主任児童委員 
大井田 文雄さん
(下仁田町下仁田 )

【略歴】大阪薬科大学卒。薬剤師。10年間、大手薬品メーカーに勤め、労働組合の委員長などを経験した。家業の薬局を継ぐため97年に帰郷。99年に提案型地域づくり団体、夢現じゅくを結成した。

変革期

◎善悪を判断基準に行動

 私が労働組合の中央執行委員長をしていたのは今から七年ほど前であり、社長交代や金融機関からの役員派遣、また副作用問題に伴う売り上げの減少等、取り巻く環境は混とんとしていた。会社全体がモチベーションの低下に悩み、閉塞(へいそく)感の中で明確な目標を失いかけていた。当時と現在では社会情勢は大きく異なっているのだが、最近の政治や経済の状況を考える時、組合員が三千人弱であり、家族を含めると一万人強の人の、大げさに言えば、生活を考えて日々悩みながら行動していた当時のことが脳裏によみがえってくる。

 今まさに時代の流れの分岐点というように感じるし、そんな大げさなことでなくとも変革期であることに間違いはないと思う。こういった変革期においては、ものの見方や考え方にも変化が求められる場合がある。つまり、従来と同じ考え方、行動をしていては変革期を乗り切れない場合が多いのではないか。労働組合委員長時代に組合員に対して記載した文章に以下の一節がある。

 「平等と公平は異なるものであり、今までは平等が労働組合のスローガンであったのに対し、現在そして今後においては公平が重んじられてくると思われる。一例を挙げるならば、賃金において、同じ年齢であれば皆同じ給料であることが善であったことが、もちろん評価が正しく行われていることが前提としてあるが、今後は同じ年齢であっても能力に応じて、そして成果に応じて賃金が異なることが善ということになってくるということである。年功序列は遅かれ早かれ崩壊していくだろうから、その時に備えて自分の能力を高めていくことが現時点での最重要課題であると認識すべきである。そして、一人一人の能力の高まりが結果的に組合や会社の発展につながっていくということを念頭に置きながら、自分の置かれた状況を見据え、自分として何ができるかを考えて行動していっていただきたい」

 大切なことは物事の判断基準が損得でなく、善悪を基準にすべき時代になってきているのではないか、ということである。企業であれば存続することが社会責任であることを考えれば、そのために利益を確保しなければならない。しかしながら、そのことだけに目が向いてしまうと、これからの時代には生き延びていくことができないのではないか。先ほどの個々の能力を高めていくことと同様に、さまざまな状況下、善悪を判断基準に自分ならどう考え、行動していくかを常に用意していくことが必要だと思う。

 そして、このことは人と人とのつながりにおいても言えることであると思う。損得が判断基準でないということは、人とのつながりにおいては心と心の結びつきが大切であるということである。世知辛い世の中、あまり余裕のない時代であるからこそ、結果的にこういう考え方で接してきた人が、将来幸せになる世の中が来ると信じている。そして、その逆も真なりである。その時々が良ければそれで良い、とする考え方の人には理解していただけないのでしょうが。


(上毛新聞 2002年6月1日掲載)