視点 オピニオン21
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言語聴覚士(スピーチセラピスト) 
津久井 美佳さん
(埼玉県さいたま市 )

【略歴】渋川市出身。国際医療福祉大保健学部・言語聴覚障害学科卒。99年、言語聴覚士資格を取得し、国で初めての言語聴覚士の一人となる。同年から病院に勤務。
摂食・嚥下障害


◎起こりやすい高齢者

 人間の本質的な要求の一つに食欲がある。口から食物を取る。あたりまえのことではありますが、脳血管障害や高齢者の方の中には、「口から物を食べられない」「食事のときにのみ込みが悪く、むせてしまうなどの症状」を有する方が多く存在します。

 今回は、言語聴覚士の仕事として、最近、注目を集めており、重要な分野の一つでもある「摂食・嚥下(えんげ)障害」について、少し書いて見たいと思います。

 おそらく、誰もが一度は一過性の喉(こう)頭炎や口内炎などで、のみ込みの障害を経験しているのではないでしょうか。私自身、幼いころ、扁桃(へんとう)腺で入院し、物を食べられなかった経験があります。小さいころの記憶ではありますが、その時、やけにプリンがおいしかったのを覚えています。また、高齢者では、喉頭の粘膜の委縮や喉頭位置の下降などにより、嚥下障害が起こりやすくなっています。皆さんも、お正月の新聞記事などで、「お年寄りがおもちをのどに詰まらせて」といったニュースを目にしたことがあるのではないでしょうか。

 そこで、簡単に食物がどこを通って胃に入っていくか、食物の流れについて、考えてみたいと思います。

 普通、食物は口から咽(いん)頭を通過して、食道に運ばれます(口↓口腔=こうくう=↓食道↓胃)。この普段は意識していない嚥下反射は、約〇・五―一秒以内に完結する素早い動きです。嚥下反射は、異物が気管に入らないように防御し、なおかつ食物を食道へ送り込む反射です。うまく嚥下反射を生じさせるためには、(1)鼻咽腔閉鎖(軟口蓋挙上=なんこうがいきょじょう)(2)気道閉鎖(喉頭挙上)(3)食道入口部(輪状咽頭筋弛緩=しかん)―といった三つの器官がタイミング良く働き、わずか〇・五秒の内にのみ込みが行われることが必要です。しかし、誤って食物が気管に入ってしまうことがあります(口↓口腔↓咽頭↓気管↓肺)。この現象を誤嚥(ごえん)といいます。これは、嚥下反射が遅いために気道閉鎖が間に合わず、気管に入りこんでしまう状態です。

 また、本来ならば、気道内に食物が入り込もうとする場合には、それを排除しようとして、せきやむせが起こるのですが、高齢者や全身状態の悪い方ですと、せきや「むせ」を生じさせる力もなく、不顕性誤嚥を引き起こしてしまうことがあるのです。

 つまりは、「誤嚥」と「むせ」はイコールではないのです。「むせ」が生じるという人は皆、このような過程を『食』を通して学ぶのではないでしょうか? そして、食べるという行為を通じて自分という個性をつくり上げていくのだと、私は思います。

 終わりに、いつの日か私も子供を持った時、上記の内容もふまえ、また母や祖母が私にしてくれたような、愛情のある『食育』ができるように、お料理の腕を磨いていけたらと思っております。


(上毛新聞 2002年6月18日掲載)