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ぐんま天文台観測普及研究課長 倉田 巧 さん(高山村中山 )

【略歴】沼田高校、群馬大学教育学部卒。昭和54年から吾妻郡、沼田で小・中学校勤務。平成7年より県教委指導主事として、天文台建設に携わる。平成11年より現職。
海外援助


◎欠かせない国情の把握

 今、ぐんま天文台では東南アジアのいくつかの国々から天文学研究や技術に関する研修生を受け入れています。すでに、延べ十人を超える受け入れをして、成果と課題が見えてきています。

 日本の従来の海外援助は、「物支援」「物供与」が中心でした。「物」は日本のような技術大国ならば、作ること、売ることは可能です。しかし、その「物」が(1)ある期間きちんと稼働するか(2)精度維持ができるか(3)ある価値を生み出す運用ができるか―が実は大切なことなのです。

 たとえば、ぐんま天文台の百五十センチ望遠鏡は、前回(五月十四日付)も述べましたが、最先端技術の固まりです。この「物」がその三つのハードルをクリアするには、国の持つ技術力と職員の質で決定されます。幸いなことに、この百五十センチ望遠鏡は全部クリアしていると自負しています。

 では、仮にこの望遠鏡を受け入れている研修生の国に設置したらどうでしょう。何らかの資金援助があれば、「物」としては動き出すでしょう。しかし、一年と動かないでしょう。(3)の段階に入る前に(1)、(2)の段階で挫折するはずです。理由はこんなふうに予想されます。膨大なシステムの中のたった一つのLSIやIC、コンデンサーが壊れたら、まず、「原因の切り分け」を行います。そして、「部品調達」をします。自前でできないときは、メーカーに頼みます。これらの作業には、望遠鏡を維持するスタッフの技量、パーツを補充できる工業的背景、メーカーに要請できる資金の裏付けが必要です。つまり、先進国が途上国を援助をするときは、このようなことを十分配慮して行わないと、供与した「物」が動いていない、という事態になります。

 次に、貨幣価値の違いを理解する必要があります。たとえば、これは実際にあった話ですが、ベトナムで電子部品の一部が壊れて修理をしたいという事態が起きました。たまたま部品があり技術者もいたのですが、百二十USドル(日本円一万五千円程度)必要ということになりました。彼らにはこのお金が準備できないのです。公務員の一カ月の給料が三千―五千円の国ですから、さもありなんです。

 「物」を贈るときは、国々の状態について細かく考慮しなければなりません。望遠鏡を贈るにしても、電子部品をまとった最新仕様のものは故障すれば、国によっては「産業廃棄物」になってしまいます。手動でシンプルなものが実はベストなこともあるのです。

 ぐんま天文台は、「物」を贈ったり、「人」を派遣したりする予算やシステムを持っていません。知識や技能の研修を受けるために日本に向こうから来るならば協力しよう、ということになっています。支援の一端を担う施設として、人づくりを中心に活動をしていますが、時々、受け入れだけでは不十分と感ずることがあります。こちらからその国に行って、より多くのスタッフに技術や知識を伝えながら、各国の天文学に関する現状を把握することも大切なことと思われます。

 信頼性のある「日本のパスポート」、価値ある「円」を有効に使うこと、これはぐんま天文台の天文学国際貢献だけでなく、われわれ「一応先進国、日本」が「先進国、日本」になる必須条件だとつくづく感じています。

(上毛新聞 2002年6月24日掲載)