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赤城高原農業観光協会長 後藤 忠彦さん(昭和村糸井 )

【略歴】利根農林高卒。元同村農業委員。昭和村りんご研究会の会長を務め、農業の新技術導入など研究。赤城高原農業観光協会の初代会長に就任。昭和村議。

農産物



◎安全栽培は金がかかる

 先日テレビを見ていたら、輸入の冷凍ホウレンソウの残留農薬について放送していました。ホウレンソウに含まれた農薬も気になりますが、心にひっかかったことがありました。中国の生産者側の人が言った言葉です。「これまでは、農薬について何も言わなかったじゃないか」。これまでとは、残留農薬問題が話題になる前のことです。

 以前から指摘はされていました。香港や台湾に輸出される中国産農産物は「毒菜」と呼ばれ、安全性の高い日本産の農産物に人気が出ている、という報道もありました。原因は、中国の農家の農薬使用への意識の低さです。でも、それは日本の商社などが形の良いものを要求し、農薬のことを伝えていなかったからのようです。以前の日本もそうでした。農薬を便利だから、きれいにできるからと使用していました。しかし、環境や人間自身に与える問題がクローズアップされ、また、農家自身の意識の変化(世代交代もかかわっていると思いますが…)により、安全性への取り組みが日本各地で始まっています。

 しかし、その取り組みも、消費者が理解し、正しく評価してくれるだろうという期待がなければ、続けることもできません。社会のシステム自体を変化させていかなければならないのです。

 正しい評価とは、適正な価格のことです。現在は不景気だから安いほうがいいと思っている人も多いと思います。農家も高い物をわざわざ作るわけではありません。しかし、高温多湿な日本の夏に、手を抜いて栽培できる農産物なんてありません。まして、おいしくて安全な物を作るには良い資材を使い、手をかけて育てていかなければなりません。結果として、お金がかかることになるのです。高い物を選んで買ってくださいとは言いません。正直に野菜や果物を作っている人の気持ちや考えを理解してほしいのです。

 私たちは最近、首都圏のある地域の朝市に参加しています。これは物を売りたいのではなく「昭和村や利根沼田、群馬の農産物はこんなにおいしいです。だからこっちに来て、作っている所を見てほしい」という気持ちで参加しているのです。

 私たち農家は、自信を持って農業をしています。心を込めて作った野菜や果物をおいしいと言ってもらえると、とてもうれしく感じます。農産物は工業製品と違い、スケジュール通りにできるわけではありません。大きさも味も変わって当然なのです。自然が相手なのですから。

 野菜や農産物を作っている現場を見に行く機会があったら、ぜひ参加してみてください。そして、生産者と話してみてください。多少でも、分かってもらえることと思います。私たちの所へぜひ来てみてください。お待ちしています。


(上毛新聞 2002年7月26日掲載)