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日本蛇族学術研究所所長 鳥羽 道久 さん(高崎市小八木町 )

【略歴】高崎高校、東北大理学部卒。生化学専攻でヘビの毒性を主に研究。卒業と同時に日本蛇族学術研究所に勤務、97年から現職。日本爬虫両棲類学会評議員。医学博士。

ヘビの体温



◎総じて暑い所は苦手

 夏になると、決まって受ける質問がある。「ヘビは暑くなって元気がいいでしょう」というもので、どうもヘビは暑さが得意で寒さが苦手だと思っている人が結構いるらしい。

 確かに、爬(は)虫類の種数は、寒い地域で少なく、暑い地域で圧倒的に多い。ワニのように寒い地方には生息しないグループもいる。

 しかし、実はたいていの爬虫類は暑さには弱い。もともと爬虫類は体温を一定に保つ機構がないため、寒くなれば体温は下がり、暑くなれば体温は上がる。もし、下がりすぎたり、上がりすぎたりしたら、動物は死んでしまう。普通、体温が上がるにつれて、動きは速く、活発になってくるが、上がりすぎると再び動きは鈍くなってくる。

 そこで問題は、爬虫類がふだん活動するときの体温はどのくらいか、耐えられる下限の体温と上限の体温はどのくらいか、ということになる。一番身近なヘビを取り上げてみると、昼間活動することが多く、動きも速いシマヘビは、三○度前後で最も活発で、本州のヘビでは最も高い体温を持つ。それでももっと体温が上がり、三五―三六度の人の体温に近づくと、ぐったりしてくる。四○度くらいに上がると、もう生きているのが難しくなる。

 昼間活動するが、動きがやや遅いアオダイショウやヤマカガシはもう少し低い体温を持ち、地中で活動することの多いジムグリと、夕暮れ時に活動することの多いヒバカリは、さらに低く、二五度前後になる。いずれも高い温度には耐えられず、特に体の小さいヒバカリは、簡単に体温が上昇するので、暑い場所に出てくることはない。

 そこでおおざっぱに言えば、これらのヘビの耐えられる温度は、下は三度くらいから、上は四○度くらいまでで、動き回るのに適した温度は、二五度から三○度くらいということになる。だから、夏の暑い日中に出てくるヘビはなく、朝の涼しい時間帯に活動するヘビが多くなる。

 これが熱帯地方になると、夜行性のヘビが増えてくる。奄美や沖縄で悪名高いハブは、ほとんどが夜活動し、高温には意外に弱く、三七度くらいで死んでしまう。ハブにかまれる人は、春と秋に多く夏には減ってしまうが、夏にはハブもあまり動き回らず、人もやっぱり動くことが減り、出合いの機会が減ってしまうのが一因と考えられている。

 同じ毒ヘビでも、マムシは全く違うパターンを示す。マムシにかまれる人は、七月から八月の夏に一番多くなる。マムシも、ハブと同様基本的には夜行性である。スネークセンターの放飼場では、夏の夜になると一斉に動くマムシを見ることができる。ところが、胎生のマムシでは、妊娠したメスが、子供の発育のため体温を上げようと、この季節には昼間出てくる。マムシはそう攻撃的なヘビではないが、やはり出合う機会が増えることで、かまれる事故も増えるわけである。夏の山では、マムシにはぜひ気を付けていただきたい。


(上毛新聞 2002年8月8日掲載)