視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
詩人・作詩家 古舘 多加志 さん(富岡市下黒岩 )

【略歴】本名は俊(たかし)。東京で生まれ、甘楽町で育った。明治大学卒。元東京新聞記者。在学中から童謡や歌謡曲の作詩に取り組む。02年4月から県作詩作曲家協会名誉会長。日本童謡協会会員。他の筆名にだて・しゅん。

童謡の里づくり



◎自治体があの手この手

 両親から子、さらに孫へと世代を超えて継承されてゆく歌に童謡がある。本県は「明治唱歌の父」といわれた童謡詩人の石原和三郎(一八六五―一九二二年、勢多・東村出身)や林柳波(一八九二―一九七四年、沼田市出身)、作曲家の井上武士(一八九四―一九七四年、前橋市出身)らを輩出するなど、童謡創造の先進県でもある。ふるさとを呼びさます“心の歌”の歌唱や新しい子供の歌づくりなど、あの手この手で「童謡の里づくり」を進める県内の自治体をリポートする。

 この里づくりを進めているのは、総じて名曲を生んだ作詞、作曲者の郷里である。作家の顕彰も含めて作詞・作曲コンクールやコンサートを繰り広げている点に、共通性をうかがうことができる。『うさぎとかめ』の和三郎の古里、東村では平成元年、村内に公営の「童謡ふるさと館」を建設。和三郎作品を基にアレンジのスライド上映のほか、遺品などを展示したり、同人の代表唱歌四曲をそれぞれ、シングルCDに収録して販売している。

 これが“序曲”となり、館内の多目的ホールで毎年六月、村の文化団体を軸に芸能発表会を開催。童謡コンサート、ハンドベルの合奏も。ハンドベル合奏は同館の専属で、子供と大人に分けての編成だ。子供のそれは「ドリーミー」、大人は「エンジェル」である。近い将来、合奏団と来館者によるミニコンサートを計画しているとか。

 「かぶらの里童謡祭」が恒例行事の富岡市に目を向ける。大正末期から昭和初期に活躍した同市出身の橋本暮村(一九〇七―三二年)を顕彰し、童謡の輪を広げることを目的に八八年にスタート。これまでに十五回をこなしてきた。早世した暮村の代表作『土筆(つくし)を摘んで』(曲・本居長世)の“作品掘り起こし”を提唱した地元の音楽教育家らの地道な努力があって、童謡普及への足がかりとなった。

 ここでの童謡祭で特筆されるのは、詞と曲を交互に公募する形で行われる作品発表を兼ねたイベントだ。既に「富岡で生まれた童謡」として六曲が誕生。この中には、同市が会場となった昨年十一月の「国民文化祭・童謡の祭典」で発表された『みょうぎさん』の詞と曲の最優秀に選ばれたのは、二人とも八歳の女児で関係者らをあぜんとさせた。また、国民文化祭で「ふるさと童謡フェスティバル」を開いた、安中市もさわやかな歌声を響かせる。隣接の両市ではコーラス展での交流を図る一方、接点の「童謡ロード」を設けている。両市境にゆかりのある作詞、作曲家等の資料館や野外ステージなど備えた“童謡の丘”の建設を提唱したい。

 さらに『うみ』などを手がけた林柳波の出生地、沼田市に触れたい。同市では三年前から毎年、全国規模で詞を公募する熱の入れようで、公民館を会場に柳波の資料展を企画してきた。柳波作詞の唱歌を母子が口ずさむ、ほほえましい情景を思い浮かべている。


(上毛新聞 2002年8月19日掲載)