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高崎経済大学地域政策学部教授 
河辺 俊雄 さん
(東京都世田谷区野沢 )

【略歴】京都市出身、京都大学理学部卒。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。同大医学部保健学科人類生態学教室助手。92年高崎経済大学助教授、97年から現職。

山地オク



◎厳しい環境で低身長に

 熱帯地域の森林の中で生きている人々の中に、身長が非常に低い集団がいる。アフリカだけではなくアジアやオセアニアにも点在している。なぜ、低身長集団は世界のあちこちの森林にいるのだろうか。その説明としては、旧石器時代よりも古い時代の彼らの祖先が世界各地に広がり、特定の場所で遺伝的な変化がほとんどなく古来の遺伝形質(低身長もその一つ)を保ちながら現在にいたったというものや、恵まれない環境のなかで近親婚を繰り返したために低身長と関連した突然変異が生じ、隔離された地域でその形質が維持保存されたというものがある。森林環境は木々が生い茂り豊かな環境のように見えるが、食物や栄養の点からすれば、人間にとっては厳しい環境である。

 パプアニューギニアの南西に位置する高地辺縁部は、劣悪な森林環境の一つである。この地域は、年降水量が八○○○ミリに達する多雨地帯であり、また急な傾斜地のため、まとまった広さの平坦地がほとんどない。この降水量の多さと急斜面のため農業は困難を極め、劣悪な環境にすむ人々にとって、必要な食物をどのように確保するかが最大の問題となる。

 このような高地辺縁部にすむ山地オクは人口が約三万二千と、ニューギニアでは大きな言語族だが、人口密度は一平方キロあたり一・四人と低い。多雨で急峻(しゅん)な山岳地帯のため、西洋文明との接触は遅れたが、最近になってオクテディ鉱山の開発にともない、この地域にもセスナ機を利用していくことが可能になった。

 険しい地形のため村落間の移動は困難であり、また日常生活や婚姻などの社会生活においても村落間の関係は疎である。生業活動として焼き畑耕作、ブタの飼育、サゴデンプンつくり、狩猟などを行っているが、収穫量は乏しい。焼き畑で栽培するタロイモかサツマイモが主食である。食物摂取調査の結果をまとめると、エネルギー摂取量はおよそ二千キロカロリーである。タンパク質摂取量は二十グラム程度しかなく、安全水準の半分以下という状態であった。生体計測は、一九八六年九―十月に七村落で行った。各村の人口は九十三―二百十一である。驚いたのは村人の身長の低さであり、標高の高い村から低い村にいくにしたがい、身長が非常に低い人が目立つようになった。とくに最後にたどりついたファコビップ村の人びとは、見るからに低身長であった。男性百四十六人の平均身長が一五四・九センチ、女性百十二人の平均身長が一四六・八センチであった。このなかのファコビップ村だけについて平均値を求めると、男性二十三人の平均身長が一四八・八センチとなり一五○センチに達しない。これは、いわゆる低身長集団の定義にあてはまるレベルである。なお女性九人の平均身長が一四一・八センチと、これも低い値であった。

 山地オクの低身長の原因は遺伝的な側面以上に、生態学的条件に着目すべきであろう。過酷な自然環境によって生じる低栄養、険しい地形や多雨のために村落間関係が疎になることによる隔離などが大きな要因であろう。


(上毛新聞 2002年8月20日掲載)