視点 オピニオン21
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共愛学園前橋国際大学男女共同参画学習センター研究員  
山口 理恵子 さん
(沼田市恩田町 )

【略歴】城西国際大大学院在学(比較ジェンダー論専攻)。93年に沼田女子高卒、同年、筑波大入学。大学院修士課程を経て米・ユニバーシティ・オブ・ノースカロライナーグリーンズボロー校聴講生。

岡崎、田村両選手



◎現役続行に新鮮な思い

 先日、あるニュース番組でスピードスケート日本代表の岡崎朋美選手が特集されていました。長野オリンピック五百メートル銅メダル、ソルトレークシティーオリンピック六位入賞と、オリンピックに二度も出場し、輝かしい成績を持っている彼女ですが、前回のオリンピックからスケートの「おもしろさ」がわかるようになった、もう少しその「おもしろさ」を味わってみたい、と現役続行へのこだわりを語っていました。

 トップアスリートは、種目差もありますが、二十代後半から「ベテラン」と呼ばれ、三十代になると引退がささやかれるのが一般的です。しかし、三十歳をすぎてからスケートのおもしろさがわかったと語る岡崎選手は、きついトレーニングのつらさ以上にスケートのおもしろさを味わいたいという強い欲求に突き動かされているようで、なんとも新鮮な思いがしました。田村亮子選手も、シドニーオリンピックで金メダリストとなり、世界選手権五連覇を達成したにもかかわらず、次回アテネオリンピック出場へ意欲を見せています。

 なぜ私が「現役続行」という彼女たちの姿勢に新鮮な思いを抱き、感銘を受けるのかといいますと、今まで女子選手からこのような「ことば」を聞くことが少なかったからなのです。特に女性の場合、「ベテラン」と呼ばれるころから、「結婚」という二文字を周囲がやたらと押し付けるということがよくあり、「結婚」には「引退」という二文字を含み持っていることもしばしばあるのです(男子選手が結婚を機に現役を退くという話はほとんど聞いたことがありません)。田村選手に対しても「もうオリンピックで金メダルも取ったんだし、世界選手権も五連覇したんだし、それに恋人もいるんだからもう柔道はいいんじゃない」という言説などがそれです。そのような気づかいは「大きなお世話」というよりほかありませんね。

 スポーツ選手に限らず、女性はまだまだ何かを極めたり、専門性を身につけて生きていくという選択肢を与えられずに育てられているように思います。男の子には小さいころから専門性と仕事が並行して方向付けられているのに、なぜか女の子には「結婚」が人生の一大イベントのように考えられている。「彼のいい奥さんになる」ことだけを目的とし、「結婚してはやく楽になりたい」と夢みる若い女性がいまだに多いのは、ステレオタイプ的な選択肢しか与えられてこなかった証拠なのではないでしょうか。

 岡崎、田村両選手の「年なんて関係ない、自分がやりたいからスポーツを続けるんだ」というスポーツへの強いこだわりは、スポーツという領域に着実に女性が進出しているという思いを感じさせてくれます。今後、彼女たちのような声がもっともっと聞かれることを楽しみにしていきたいと思います。

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(上毛新聞 2002年8月21日掲載)