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県温泉旅館協同組合理事 高橋 秀樹 さん(伊香保町伊香保 )

【略歴】高崎高、群馬大卒。東京教育大研究科、ユニオン大、立教大大学院をそれぞれ修了。教育学博士。大学教授を26年間務め、現在米国の大学の客員教授。著書15冊、共著3冊、論文28編。

祝祭



◎新たな潜在能力を発掘

 不易流行―俳人・芭蕉の言葉はよく引用されるが、世俗を達観した元禄文化人の美意識は、人間と世間のありようを的確に説明しうるタームだと、しみじみ感心する。保守と革新、伝統と創造。一人の人間の中にも、この一見相反する二つの価値が絶えずせめぎ合い、反問しながら併存するものである。現在を肯定し、心穏やかな環境を保持しながら安逸に過ごしたいと思う半面、現状を打破し、刺激的な状況を生み出しながら、何かを変えていかなければ、という使命感にも似た冒険心。

 もちろん、不易とは変わらざるもの、変えてはならぬものであり、流行とはその時代の気風を取り入れた一過性の華やぎだが、流行の本質も絶えず不易の中に求めるべき、とする先人の逆説的高踏論とは多少意味合いを異にする。

 しかし、移ろうものと移ろわぬもの、という意識は、いつの時代の人と社会にもあてはまる観念であろう。「現状維持三割の理論」という興味深い説を聞いたことがある。文字通り、現状維持派が三人いれば、物事を変革しよう、改良しようとする七人に拮抗(きっこう)する、逆に少数派の三人の方が多数派を制する強さを発揮する、というのである。既存のシステムを温存しようとする勢力の強固さを説くものだ。

 今や社会全体が世阿弥の言う下降・停滞期にあたる「めどき」だろうが、これを何とか上昇・発展期の「おどき」にしようという努力がさまざまなレベルで始まっているとき、この論をよく認識しておかねば、と思う。わが伊香保町も、再生に立ち向かっているからだ。

 その方法の一つとして示唆を得たのは「祝祭」ということである。というのも、伊香保も春から秋にかけ、観光地として諸種のイベントが催された。イベントさえすれば人が集まる、という単純な構図ではないことは承知しているが、幸いにもどれもが盛況であった。そして要は、そこに集う人々、主催者側のスタッフ(地元住民)とお客さまの、共に生々とした表情である。姉妹都市を記念したハワイアンフェスティバルでは、参加者のはつらつとした解放感と充足感はもとより、旅館組合の婦人部・青年部も新鮮なアイデアでこの夏を躍動的に盛り上げた。婦人部は「おかみ和工房」と称して手作りの小物類で出店、売り切れの大好評。青年部は、まちの駅完成に着目してロープウエーの夜間営業を実現。星空と夜景は、日によっては二百人の観光客を魅了した。共に夏の限定商品であったが、伊香保の斬新な風物詩となる貴重な新演出であったと思う。

 その場を共有するすべての人々の気分の高揚感と一体感。これこそ祝祭のもつ魔力であり、その中に新しい技と工夫を喚起するエネルギーが秘められている。この夏伊香保に出現したすがすがしい泉は、わが街ににぎわいと楽しさを、という同じ水源地からわき出たものといえる。

 考えてみれば、新たな挑戦も伊香保のもつ潜在能力の発掘であり、その意味では伝統と創造は、あざなえる二本の縄のように、互いに結び合って次の時代を切り開いていくだろう。


(上毛新聞 2002年8月28日掲載)